あの放課後、先生と初恋。
𝚎𝚙𝚒𝚕𝚘𝚐𝚞𝚎




どこからか手助けしたくなるような音色が聞こえてくる。

海風がサラサラと髪を撫でる放課後の校舎、俺は向かうままに歩く。


採点作業をする場所としていちばん気に入っている教室があった。



『先生っ、また新しいところ吹けるようになっちゃった!』



ひとりで練習している女子生徒はいつも笑顔で、彼女が一生懸命に吹いている姿が好きだった。

できるならずっと見ていたいと思うくらい、好きだった。



『結婚したらどこに住む?マンション?アパート?いずれは一軒家!?あっ、結婚式は海が見えるところがいいなあ~』



そんなこと言ってる暇があるなら楽器を吹けとぼやきながらも、俺の心は穏やか。


いつかそんな未来があっても面白いかもしれねえなと、誰にも言えない気持ちだった。


そよそよと爽やかな風が吹く。

潮風は木々の匂いに変わり、俺が今度立っている場所は広い芝生の上だった。



< 388 / 395 >

この作品をシェア

pagetop