あの放課後、先生と初恋。




「…にいな、なにがあったとしても心だけは強く持って」


「え…?」


「じゃあね」



意味深な微笑みを落として、落合先輩は背中を向けていった。


なんだったんだろう……?


心を強く……、

自分で言うけれどわりと強いメンタルは持ってると思う。

だって1年間続けたんだよ、なにもできなかったくせに。



「起立!!礼!」


「「「よろしくお願いします!!」」」



音楽室に顧問がひとり現れるだけで、ここまで緊張感に包まれるだなんて。

まるでそれは毒親に従う子供たちにも見えて、宗教で教祖を前に屈服する信者のようにも感じる。


あれが鈴ヶ谷高等学校吹奏楽部、鉄の女と言われる顧問───和久井先生だ。



「課題曲アタマから。クラ、音ちょうだい」



指揮台に立って、指揮棒を手にするだけで金棒を持った鬼。

彼女は今までも何人もの生徒を全国大会に導いてきたという名のある指導者だ。



< 51 / 335 >

この作品をシェア

pagetop