あの放課後、先生と初恋。




「一応は曲を覚えてるなら何フレーズかだけでも吹けるだろうし。せっかくこんな暑いなか来てんだから、にいなも吹きたいでしょ」


「せ、先輩……!なんと感謝を伝えたらいいか…っ」


「あはは。にいなが吹けるようになることが、あたしはいちばん嬉しいかも」



落合先輩は今日、野球部の応援にきた。

学校では3年生がコンクールに向けて練習するなか、ここに来たのだ。



「ごめんね、本当に。とくに後輩たちに腫れ物みたいにさせちゃってることが……すごい心苦しい」



だれも触れられない。

腫れ物というより、どう声をかけてあげればいいのか分からないのだ。


このままパートリーダーも降ろされるかもと、切なそうに笑った落合先輩。



「……先輩!教えてくださいっ」


「…うん。やろう」



1から7まであるポジションを、なんとなくで覚えることが初心者にはいちばん難しい。

その部分にスライドさせて音を変えるのだが、パッパッと切り替えられる先輩の動きが神業に見える。


この人がメンバーを外されるだなんて、ぜったいおかしいよ。



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