これが最後の恋だった
「何で急にそう思ったん?」
しばらく放心していた蒼太くんが復活してそう聞いてくる。私は顎に手を当てて答えた。
「昨日、病院で話してる時気づいたの。あぁ、この人は実は真面目で気遣いのできる優しい人だって。だから……」
「真面目で気遣いのできる、か。そうやな。あいつは普段はああだけど、俺なんかより優しい奴やで。」
「蒼太君の事ちゃんと考えてて、蒼太君も廉君の事考えてて……いいなぁ、そういう友情。絆があるって感じ。」
自分の境遇を思って落ち込むと、蒼太くんが顔を覗き込んできた。
「どうしたん?」
「あ、ごめん。ただ……あたしには見かけだけの友達しかいないなぁって思って…」
「そんな事あらへんよ。加奈子、人気者やんか。」
「そうかな。みんな、私のいない所で私の悪口とか言ってたりするから……」
「そんなんわからんやろ?」
「聞いちゃったの。みんな集まってあたしの事悪く言ってたのを……」
「……せやったら俺らの仲間にならん?」
「へ?仲間って……」
「俺と廉と加奈子。三人やったらきっと楽しいで。」
「……しょうがないわね。いいわ、友達になってあげる。」
「はぁ~……相変わらずやなぁ。」
苦笑いの蒼太くんに私は声を上げて笑った。久しぶりに心から笑えた気がした。
かくして私は蒼太くんと廉くんの仲間になった訳で。早速放課後、当たり前に部活をサボった蒼太くんについて行って廉くんの病院に行った。
「加奈ちゃん!来てくれはったんか?」
満面の笑顔で迎えてくれる。汚れた心が洗われていくようだった。
(廉くんって癒し系だったのね。)
そう思っていたら横で蒼太くんがショックを受けたような表情で何か言ってる。
「友情なんて……脆いものさ……」
「え?何か言った?蒼太君。」
「いや、何でも。」
「あれ?蒼太、来とったん?」
「えぇ、いましたとも。さっきからずっと……君が気づかんかっただけで。しくしく……」
「泣かんといてぇな、蒼ちゃん。嘘やって。ホンマは最初から気づいとったで。なぜなら僕が君を愛しているから。」
「なぁ、加奈子。廉に言ってもええか?昨日の事。」
「何やねん。無視せんといてぇな。」
廉くんを無視して私に確認を取る。私は無言で頷いた。蒼太くんはぐいっと廉くんに近づく。
「な、何や……?」
「廉。耳の穴かっぽじってよう聞けよ?一回しか言わんからな。」
「何や、何や。良い話?」
まだ何も言っていないのにテンション上がっている廉くんに、蒼太くんは何故かもったいぶるように深呼吸すると言った。
「加奈子な、お前の事考えてやってもええって。」
「へぇ~加奈ちゃんが俺をねぇ……ってゔえぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙!?」
昨日よりも大きい声が病院に響き渡る。私は思わず耳を塞いだ。その内廊下が騒がしくなって、案の定医者と看護師がなだれ込んでくる。
「何事だね!?」
「すいません、すいません、すいません、すいません……」
何故か私まで頭を下げる。医者は呆れた感じで小言を言うと去って行った。
「また固まっとるし……しゃーない。」
蒼太くんはまだ呆然としている廉くんを見ると溜め息をつく。そしてゆっくりと廉君を抱きしめた。『え?』と思う間もなく廉君が復帰する。
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