これが最後の恋だった
家に帰ると、さっき病院で連絡先を交換したばかりの廉君の番号に電話をかけた。
「もしもし、加奈ちゃん?家着いた?」
「うん。あのね、面白い事があったの。」
「え?何、何?」
「蒼太君と帰ってる途中で大西さんと会ってね。蒼太君の反応見て『蒼太君の好きな人って大西さんなんだ。』ってピーンときたから、二人きりにしてあげたの。蒼太君、パニックになっちゃって面白かった。」
あの時の事を思い出して思い出し笑いをする。すると電話越しでもクスクスと笑う声が聞こえた。
「目に浮かぶわ〜」
「でしょ?」
「でも加奈ちゃん……大丈夫なん?」
「え、何が?」
「やって、加奈ちゃんは蒼太の事が……」
「あぁ……何か振られて冷めちゃったみたい。イメージとも違ったし。」
「そっか。あいつは見かけ倒しやからな。」
「クールで男らしいと思ってたんだけど、ヘタレだし案外子どもっぽいし私には合わないわ。」
「あはは。加奈ちゃんらしいわ。」
廉君の明るい笑い声。それが今は耳に心地良い。蒼太君の印象はマイナスになっちゃったけど、廉君はどんどんプラスになっていく気がする。
「なぁ、加奈ちゃん。」
「ん?」
「いや、何でもあらへん。」
「そう?」
「じゃあまたな。」
「明日も行くから待っててね。」
「そんな、毎日来なくてもええよ。」
「いいの。私が行きたいんだから。」
笑いながら言うと控えめな声で『ありがとう』と聞こえた。それに満足した私は『じゃあね』と電話を切る。しばらくスマホを見つめて今までの会話を思い返した。
こちらを気遣う優しい声、明るく無垢な笑い声。どんどん大きくなってくる心臓の音に、私は唐突に気付かされた。
(いつの間に……こんな気持ちになったんだろう。)
蒼太君に対して抱いていた恋だと思っていた気持ちと今の廉君に対する気持ちは明らかに違っている。何処が違っているかはよくわからないけれど、きっとこっちの方が恋と呼ぶのに相応しいと思った。
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