これが最後の恋だった
霧島蒼太君は二年生の時に関西から転校してきた。その整った顔と中学生とは思えない程のスタイルの良さでたちまち人気者になって、今じゃ学校中の女子達が隙あらば告白しようと狙っている。かくいう私もその一人で、転校初日に挨拶しながら笑顔を見せた蒼太君に一目惚れをした。クラス替えがなかったから三年生も同じクラスになりラッキーと思う反面、私のキャラ的に(プライドが高くてお高くとまっている。男子には興味がなく自分が一番出ないと気が済まない、と周りに思われている)、大っぴらに蒼太君が好きだと言えるはずもなく、こうして密かに姿を追っているしか出来ないのだった。
そしてこれが一番の問題なのだが、蒼太君の隣にいつもいる同じ苗字の霧島廉君。親戚とかではないらしいけど同じ関西出身という事で転校初日から打ち解けて、今ではお互いを相方呼びして教室で漫才まがいの事をして皆を笑わせている。見ている分には楽しいのだが蒼太君に恋する身としては廉君に焼きもちを妬いてしまうのはしょうがない事だった。だっていつも一緒にいるし相方と呼ばれて信頼されているし、あんなに満面な笑顔を間近で見れるのだから。
(あーあ、廉君が羨ましい……)
「あ、そうだ!加奈子ちゃん。新しいカフェが駅の近くに出来たらしいんだけど、学校終わったら行かない?」
「……え?何、カフェ?」
蒼太君に見惚れていると急に取り巻きの女の子の一人から話しかけられてビックリする。顔をその子の方に向けて聞き返すと、その子は少し頬を紅潮させながら言った。
「カフェラテが美味しいらしいよ。ね、行こうよ。」
どうやら抜け駆けして私をそのカフェに連れて行って喜ばせようとしているっぽい。すかさず他の子が『私が知ってるお店はケーキが抜群』だとか『カフェよりカラオケ行こうよ』などと口々に言ってくる。内心めんどくさいなと思いながらも顔には笑顔を張り付けて言った。
「じゃあ今日はそのカフェラテが美味しい所に行って、明日はケーキのお店。カラオケは週末に行こうか。」
「そうだね、加奈子ちゃんの言う通りにしよう。」
皆がうんうんと頷き合う。私は心の中で呆れていた。
この子達は何が楽しくて私と一緒にいるんだろう。私が優等生で先生にも一目置かれている存在だから?特別に見えるから?機嫌を損ねたら何か被害を被るとでも思っているのだろうか。一応言っておくけど私は誰かをいじめた事もなければ仲間はずれにした事もない。『長崎加奈子に逆らったらいじめられて仲間外れにされる』という勝手なイメージを持たれていて、そのせいで側に寄ってくる子達は皆、こうして私の機嫌を取ろうと必死なのだ。
こんなんじゃ本当の友達なんて出来っこない。心の底から信頼し合って、悩みや言いたい事を何でも言い合える親友が欲しいのに。そう、蒼太君と廉君のように……
もし、勇気を出して蒼太君に告白したら何かが変わるのだろうか。私は他の話題に移って盛り上がっている女の子達の事を横目に見ながら本日何度目かわからない溜め息を吐いたのだった。
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