これが最後の恋だった

 数日後、それは突然の出来事だった。
 いつものように教壇の所で蒼太君と廉君が漫才をしていて、私はボーっとそれを眺めていた。

「酷いわ、蒼ちゃん!」
「何がやねん。」
「だって俺というものがありながら、他の女と喋ってたやん、今。」
「そんなん俺の勝手やろ?」
「蒼ちゃん~俺の愛に応えてくれ~!」
「嫌や。」
「何で!?」
「何で俺がお前の愛に応えなあかんねん!」
「ほんま酷い男やわ~」
 廉君が嘘泣きをする。それを見た蒼太君はまたあの私の好きな笑顔を見せた。でもそれは私にではなく廉君にしか向けられない笑顔。それが心底羨ましかったし恨めしかった。

「なぁ、霧島。……あ、廉の方ね。お前さぁ、毎日同じ事やってて飽きないの?」
 その時、同じクラスの男子の一人が廉君に声をかける。呆れた顔を作ってはいるが二年の時から二人はこんな感じだからもう慣れている様子で、要はからかっているのだ。それに対して廉君は口を尖らせる。
「飽きる訳ないやん!俺が蒼ちゃんに。一生愛し続けるで。」
「一生は止め~や、一生は。俺やって普通の人生送りたいわ。」
「だよな~」
 蒼太君がそう言ってその男子と一緒に笑う。それを見て廉君はますます口を尖らせた。

「わかった、わかった。ほら、廉。サッカーボールだよ。ほらほら。」
 その男子がサッカーのボールで廉君を釣る。廉君は犬みたいにはしゃぎながらボールを追いかけて教室の隅に走って行った。それを追いかけてその男子も蒼太君の側を離れる。チャンス!と思ったのも束の間、蒼太君はあっという間に女子に囲まれてしまった。
「蒼太君!」
「何や。」
「廉君がいない間に聞いとこうと思って。蒼太君って、本当に廉君の事友達だって思ってる?」
「は?どういう意味や。」
「本当は廉君に付きまとわれるの、嫌なんじゃないかって思ってさ。そうでしょ?いつも迷惑そうにしてるじゃん。」
「は?俺が廉を嫌がっとる?迷惑そう?俺らの事何も知らんくせに勝手な事言うなや!」
「えっと……」
「廉は俺の親友や。それ以上あいつの事悪く言ったら許さへんで!」
「こ、恐~い……行こ行こ。」
 蒼太君の剣幕に女子達がすごすごと退散していく。それを見ていた私も蒼太君の変わりように驚いていた。廉君の事ちょっと悪く言っただけなのにあんなに怒って……本当に大切なんだな、廉君の事。やっぱり私の入る隙なんて無いよね。

「うっ……!」
 蒼太君から視線を外した時だった。廉君の苦しそうな声がしたと思ったら蒼太君の焦った声が耳に飛び込んでくる。何事かと二人の方を見てみたら、廉君が蹲っていて蒼太君が廉君の顔を覗き込んでいた。
「え……?」
 何が起こったのかわからずにいると蒼太君が廉君をおんぶして教室を走って出て行く。私は思わず追いかけた。

「蒼太君!」
「あぁ、委員長か。悪い、廉が体調悪いみたいだから病院に連れて行ってくる。先生に言っといてくれ!」
「わ、わかった。気をつけてね!」
「おう!」
 ちらっと見えた廉君の顔は蒼白で汗だくだった。廉君をおんぶしている蒼太君も負けず劣らず青い顔をしていて、ただ事ではないと思った私は小さく頷いて二人を見送った。

 その日のホームルームで先生が報告した内容は、廉君が病気でしばらく入院するという衝撃的な事だった。

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