これが最後の恋だった

 その日から蒼太君は部活のサッカーをサボりがちになった。サッカーが好きでいつも楽しくボールを蹴っていた蒼太君はもういない。私は蒼太君がいないグラウンドを眺めながら息を吐いた。きっと今頃廉君の所にいるのだろう。優しい蒼太君の事だ。明るく励まして冗談を言い合って、いつも教室でしていた漫才みたいな事をして二人で笑っているのだろう。目を閉じればその光景が容易に浮かぶ。

「よし、全員集まれ!今日は来月の大会のレギュラーを発表する。」
 サッカー部の監督の大声にハッと顔を上げる。練習をしていたサッカー部の皆がわらわらと集まってきた。
「まずは発表の前に報告だ。知っている者もいるかとは思うが、霧島廉は現在病気で入院中だ。そういう訳で廉は欠席扱いとなる。」
 監督の言葉に知らなかった人も数人いたみたいでざわざわし出した。それに監督は片手をあげて制すると、咳払いをして改めてレギュラーに選んだ人達の名前を発表した。
 そこに蒼太君の名前はなかった……


 次の日、私はある決意をして学校に向かった。
 廉君が入院してから、女子達はあからさまに蒼太君に対してアピールをし始めた。でも蒼太君はことごとく振り続け、振られた一部の女子達は『女に興味がないなら男が好きなんじゃ?』とか、『相手はまさかの廉君!?』などと噂を流した。だけどそんな噂もどこ吹く風な蒼太君は、今日も机に突っ伏して寝ている風だった。今までは授業はちゃんと聞いていたのに廉君がいなくなってからは、授業中も休み時間中もずっとこんな感じ。近づくと鼻をすする音が聞こえてきたからもしかしたら泣いているのかも知れない。廉君の事を思って。それに胸を痛めながらも、私は蒼太君に声をかけた。

「蒼太君。ちょっといいかな。」
「……何?」
 顔を上げる直前、すっと目元を袖で拭う仕草をしたのを見逃さなかった。それでもお構いなしに続けた。
「話があるの。」
「……ええよ。」
 渋々と言った感じで立ち上がる蒼太君に背を向けて、今は誰もいない裏庭へと向かった。

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