これが最後の恋だった
「俺、加奈ちゃんの事好きや。蒼太には打ち明けてて、それであいつ、俺に気遣ってあんな事言ったんやと思う。だから加奈ちゃんが傷ついたのは俺のせいなんや。」
赤くなったかと思ったらしゅんと顔を曇らせて俯く。何だか私の方が悪い事をしたみたい。
「あーあ、告白するつもりなんてなかったんやけどな。」
「え?それってどういう……」
「加奈……子?」
両手を頭の後ろで組んで冗談っぽく言う廉君に問いかけようとしたところで聞き覚えのある声が聞こえ、慌てて振り向くと想像通りの人物がいた。私の事を見て驚いている。
(あ、でも……蒼太君に名前で呼ばれるの、久しぶりかも。三年になって学級委員長になってからは『委員長』って呼ばれてたから。)
思いもよらない人物が廉君の病室にいて蒼太君もビックリしたのだろう。いつもの呼び方と違った事にも気づいていないようだった。私は廉君の方を見ると微笑んだ。
「あたし、帰るね。」
「あぁ。気ぃつけて帰れや。」
バイバイと手を振る廉君に私も手を振り返すと、蒼太君の方をわざと見ずに廊下に出た。そしてドアの脇の壁に身を寄せると聞き耳を立てた。
「加奈ちゃんから聞いた。」
「……ごめん。」
「もう!何であんな事言うたん?」
「いや、だからその……良かれと思って、つい……」
「何が『良かれと思って』や。お陰で俺の淡い気持ちがバレてしもたやないかい。」
「うっ……マジでごめん。」
「もうええわ。それより蒼ちゃんは本当のところどうなん?」
「どうって?」
「加奈ちゃんの事。ホンマはどう思っとるん?」
「どうって……」
言い淀む蒼太君に私の心拍数は早くなる。
廉君の為を思って振ったのなら蒼太君の本当の気持ちはどうなのだろう。それは私としても聞きたい事だった。
「加奈子の事は何とも思ってへんよ。」
「ホンマか?」
「実は俺、他に好きな人おんねん。……同じクラスの大西絵理。なんやけど……」
「大西……ってあの?」
「うん。あの……」
「ええぇぇぇぇーー!?」
病院中に響いたのではないかというくらいの廉君の大声に、思わず耳を塞ぐ。しばらくするとバタバタと医者と看護師が走ってきて病室に飛び込んで行った。何事かと思われたらしい。大丈夫だとわかると呆然としている廉君の代わりに蒼太君が医者達に謝っているのが聞こえる。そこまで見届けて、私は溜め息を一つ吐くと帰路についた。
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