これが最後の恋だった

第四話 応える気持ち


「大西絵理、ねぇ〜……」
 家への帰り道、先程聞いた蒼太くんの好きな人の名前を呟く。正直ショックというよりどうして蒼太くんがあの大西さんを好きなのか、その事ばかりが頭の中で渦を巻いていた。

 大西絵理といえば、クラスの女子の中で唯一私の取り巻きではない人。休み時間はいつも一人で自分の席で本を読んでいて、基本無口で必要以上に人と関わらない。つまりとっつきにくい。最初の頃は私も仲良くなろうと話しかけたりもしたけど全然効果がなくて諦めた。今ではクラスで浮いた存在となっている。そんな大西さんを蒼太君みたいな明るくてクラスの中心的な存在の人が好きだと思っているなんて本当に意外だ。何がきっかけだったんだろう。好奇心がむくむくと湧き上がってくる自分に苦笑した。蒼太君の事が好きだったはずなのに、蒼太くんとその好きな人の事をこんな風に考えられるなんて。
 もしかしたら蒼太くんに対する気持ちは好きというよりも憧れに近いもので、振られた事で諦めたというか冷めたのかも知れない。それとも、思いがけず廉くんの気持ちを知ってしまったからか。
 色々な感情を持て余しながら、私はまた溜め息をついた。


 次の日、蒼太くんに裏庭に呼び出された。

「あの……さ、昨日はごめんな。俺……」
「いいよ。」
「え?」
「本当に好きな人いるんでしょ?だったら諦めてあげる。昨日の事も許すわ。」
「あ、どうも……」

(あぁ……何でこんな言い方しか出来ないかな、私。蒼太くん、戸惑ってるじゃない。)

 自己嫌悪に陥りながらも、昨日からずっと考えていた事を言った。
「廉君の事……考えてあげてもいいよ。」
「え、ホンマか!?」
「うん。」
 同情なのかも知れない。人から本当の意味で好かれた事がないから舞い上がっているのかも知れない。でも、真っ直ぐに告白してくれた廉くんの気持ちに応えたいと思った。同じくらい好きになれるかはわからない。今まで廉くんの事はそういう目で見た事なんてないんだから。だけどここで誠実な答えを出さないと後悔する。そう、思った。

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