眩しい君の隣へ。

それは同情?

「本気だから,笑わないで欲しんだけど」

「うん?」



なに?

顔が赤いままの若槻。

その突然始まった語りに,私は頷く。



「一花は冗談かもしれないけど,俺は本気で一花が好き」



その瞬間,何もかもが分からなくなって。

頭が真っ白になった。

意味の分からない,初めての言葉を聞いたみたいに。

表情や指の先までも動かなくなった私に,若槻は続ける。



「ずっと,一花を見かける度,憧れてた。俺はいつも笑ってて,周りには誰かしら知り合いも知り合いじゃない人もいて,たまに疲れてて。でも,一花はいつ見ても堂々としてたから」



それは違うなって,ずっと遠い空から地上を見下ろすような感覚で思った。




「でも,そうじゃないんだって,友達なってようやく分かって。一花も寂しいんだって,安心した」



だけど,それは今の話に繋がらない。

どうしてその結論に行ったのか,本当に分からない。



「一花が笑ってくれたら,意味分かんない位ドキドキして,これが恋なんじゃないかなって思った」



だから,一花が好き。

そう締め括られる。

泣きたくて,泣きたくて,なのに涙なんて1ミリも流れなかった。

乾いた唇が



「珍しいからでしょ」



と紡ぐ。

それとも,同情?

思ったより何も持っていないようにみえた?

そうじゃないことは,充分すぎるほど分かってた。



「違う,俺は…」



食い下がろうとする気配を感じて,私は痛いほど唇を噛む。



「わたしは,わたしはそんな風に言われるような人間じゃない」



今までを思い返せば,そんなこと明かだった。



「1年,1年以上。好きでもない人に,お金も,労力も,身体も……持ってるものは全部あげた」



好きでもない。

そう言うのがずっと嫌だった。

好きだって思いたかった。

抱かれる度,私は汚れていくんじゃないって思いたかった。



「若槻が好きだって言うその女は,もうずっと前から他の男のもの。どこもかしこも触られ尽くして,どの女の子よりも汚れてる」



引いてくれると信じて疑わなかった。

一生話すことは無くなると,口にする前に思っていた。

ずっと遠かった世界が,今までで1番遠く感じて,私は何故か,ほっと笑った。



「そんなの,一花が一花なら関係ないよ。名前だって,ほんとは知らない人に呼ばれるのは好きじゃなかったけど,一花が相手なら,何回でも千鶴って呼んで欲しい」



全身を使って抱き締められる。

驚いて,口が開いた。



「若槻,泣いてる?」

「痛いくせに,笑うなよ」



私は口をつぐんだ。



「好きって言ってくれたから」

「え?」

「付き合うことにした理由。それなら俺も同じだろ。だから付き合えなんて言わない,そんな男,別れちゃえ」



私は若槻の肩で,音を出さないように,1粒だけ涙を流した。

背中に回そうとした手を,すっと下げる。

その気配を感じたのか,若槻は私から一歩距離を取った。



「一花」

「ごめんね,若槻」



私,帰る。

私は若槻の前から,走り去った。
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