眩しい君の隣へ。
「…っあ,ごめん一花さん!」
その声を聞いて,私は手を止める。
「私を知ってるの? …若槻」
名字でなく名前を呼ばれた事に驚いた。
そして,私にぶつかった相手が,若槻だった事にも。
「まぁ,隣のクラスだし。ごめんワーク,俺も運ぶよ。ケガしてない? タックルかましてほんとごめん」
「大丈夫。並べ替えなくちゃいけないし」
「そこまでしなくてもあの先生は怒んないよ。ほら,貸して」
ワークを全て引ったくられて,私は若槻の隣を歩く。
「若槻も,廊下とか走るんだ」
「あー怒ってる?」
「怒ってない。ただ意外だっただけ。皆にとっての王子様は廊下なんて走らないらしいから」
「いや,まぁ…よっぽど走らないけど」
会話が続いて,不思議な気分になる。
誰かに自分から話し掛けるのも,珍しいことだった。
さくっと着いた職員室で,数学担当の先生に手渡す。
適当に頭を下げて戻ると,まだ若槻がいた。
「何で走ってたの」
「え?」
「さっき,何か言いかけたでしょ」
「あー。友達が他校の有名な子と知り合いらしくて,今日何人かで遊ぶらしんだよ。そこに無理やり参加させられそうになってて」
逃げたんだ。
私は耳だけで聞きながら,ふーんと思う。
合コンも,今の時代遊ぶと名前を変えるらしい。
若槻が女の子ホイホイに使われるのも,分からないわけではない。
「今日乗り越えれればいいんだけど」
「…じゃあ」
今日の放課後は,暇なんだよね。
「今日1日,私の友達をしてくれない? 放課後,付き合ってよ」
経験したこと無いことも,たまにはしてみたい。
「さっきのお詫びにでも」
「…ん,いいよ」
考え込むような様子を見せた若槻は,短く了承した。