さよなら、わたしの初恋
「……降りて」
「嫌だね」
はなびの自転車の荷台に乗った俺は、いたずらっ子のように口角を上げてそう言った。
「ねえ、はなび。俺に少しだけ、はなびとの時間をくれない?」
ダメ元での誘いだった。だけど俺は、どこか期待していた。
はなびなら、俺の願いを聞き入れてくれるだろうと。
「……本当に少しだけだからね」
その返事を聞いた時、信じられないくらい胸が熱くなった。目から涙が溢れ出そうになる。
はなびに気づかれまいと俯き、その細い腰に腕を回した。
はなびは歩道に出て、自転車を勢いよく漕ぎ出した。
はなびの服も俺の服もバタバタと潮風に吹かれる。
こんなにも近い距離にいるのに、この五年の年月の間に離れてしまったはなびの心にはもう触れられない。
それが少し寂しくて、だけど自業自得だから現実を受け入れるしか他に選択肢はなかった。
「やっふーーーー‼」
暗く落ちていた時に、そんな愉快な叫び声が聞こえて、自然と笑顔になれた。
「あはははっ。はなび、はっちゃけすぎ」
はなびは俺を振り返って、目を細めて笑った。
いつの間にかビーチに着いていて、どちらからともなく自転車を降りて全速力で砂浜を駆けた。
すぐに息が苦しくなったけれど、楽しそうに俺から逃げるはなびを見ていたくて、暴れる心臓を必死になだめて走り続けた。