お久しぶりの旦那様、この契約婚を終わらせましょう
五章 本物の夫婦
 創業七十周年記念パーティーの日が目前に迫り、職場全体に浮き足立った雰囲気が漂うようになった。
 私たち秘書グループにも、毎日のように総務や広報から創業記念イベントに関わる最終確認メールが届く。
 パーティーは都内の老舗ホテルのバンケットを借り切って開催される予定で、招待客の席順や料理、招待客に配るお土産の手配、はては当日のスピーチの内容や時計を着用してプロモーションを行うモデルの確認などまで、確認すべき内容は多岐にわたる。
 特に私は社長付きのため、ほかの役職者付きの秘書との調整事項も多く、連日のように残業が続いていた。
 もちろん、嶺さんは言うに及ばない。今日も、嶺さんは創業を記念して立ちあげる新しいキャンペーンのために昼前から外出している。
 留守番の私は、嶺さんが温度設定をゆるめてくれた社長室で、パーティー関連のメールに目を通す。そのとき自席の固定電話が鳴った。

「羽澄さんに、羽澄様から……ご家族からお電話です」

 内線を取ると代表電話の窓口からだった。私は外線を回してもらう。
 昴? でも昴なら私の私用スマホの番号を知っているはずなのに、なにがあったんだろう。
 怪訝に思いつつ電話を取った私は、はっと肩を強張らせた。
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