お久しぶりの旦那様、この契約婚を終わらせましょう
「知沙、ひとまず落ち着くんだ。これで話を終わりにする気はない。羽澄さん、今の件については姉弟に相続を回復する権利があります。あなたが使いこんだ額は知らないが、姉弟が受け取るはずだった遺産は返してもらいますからそのつもりで」

 脇に控えていた不破さんも、さっそくその手続きを進めると請け負ってくれる。
 私は嶺さんの胸に顔をすり寄せる。乱れ騒いでいた鼓動が、徐々に落ち着きを取り戻した。
 それだけじゃない。嶺さんはさらに畳みかけた。

「また、あなたが妻を脅して金銭の受け渡しを強要したことは立派な犯罪です。私を脅したのも同様です。こちらについても、あなたを訴える用意があります」
「ま……待ってくれ、そんなつもりじゃなかったんだ。ただ姪と会いたかっただけで……」

 嶺さんに続いて不破さんが罪状を告げると、伯父さんは顔を引きつらせた。優位を確信していた顔からは余裕が剥がれ落ちて、緊張ゆえにぎこちなくなった不格好な笑みだけが残る。

 だけど嶺さんは、最後まで断罪の手をゆるめなかった。

「あなたは知沙を傷つけた。それがすべてです。相応の罪は償っていただく」

 伯父さんの顔から表情がごっそりと抜け落ちる。それが、決着の証だった。




 駐車場に待たせていた車を玄関前のロータリーに回し、二階のラウンジをあとにする。不破さんのうしろを嶺さんと並んで歩いていると、嶺さんが感心したふうに私を覗きこんだ。
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