お久しぶりの旦那様、この契約婚を終わらせましょう
 不破さんを含め、三人でパーティー会場である宴会場に入る。シャンデリアがきらめく会場の前方では、ちょうど新作発表が行われているところだった。

「――東堂時計が、最初に世に送りだしたモデルの復刻版です。世界同時発売、限定七十本のみの販売です」

 アナウンスとともに、華やかな黒のノースリーブドレスに身を包んだモデルたちが新作ウォッチをして姿を現す。大量のフラッシュが焚かれた。招待客の注目が会場に集まる隙に、嶺さんは企画室長から簡単な報告を受ける。
 壁際で控えていた通永さんに目配せされ、私は彼女の隣に並んだ。笠原さんの姿はない。けれど通永さんは察するところがあったようでそれについてはなにも言わず、私に耳打ちする。

「それ、うちが一時期だけ販売していた完全受注生産の時計よね? ファン(すい)(ぜん)の、特別な時計だったかしら。……おめでとう、やっと公にできるわね」

 たじろいだ私に、通永さんが「ほら」とショーが終わって壇上に上がる嶺さんを見やった。嶺さんの左手首にも、私の時計とおなじデザインのメンズウォッチが宝石のような輝きを放っている。

「お揃いでフルオーダー品って……そういうことよね?」
「……そ、そういうことです……」

 あたふたと顔を熱くした私に、通永さんは秘密にしていたのを怒ることもなく微笑んでくれた。よかった、と思いながら私は会場を見渡す。

 ――壇上では、嶺さんの社長挨拶だ。創業七十周年を無事に迎えた感謝と今後の展望を語り終え、会場に盛大な拍手が沸く。嶺さんは、それにも感謝を述べたのち、壇上で咳払いをした。

「この場を借りて、私の妻を紹介させてください。今日の東堂時計を、そして私を公私ともに支えてくれている素晴らしい女性です。羽澄知沙さん」

 え?
 スポットライトを向けられ、私は驚きのあまり固まった。え、え? えっ……!?
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