お久しぶりの旦那様、この契約婚を終わらせましょう
「私が不甲斐ないばかりに、彼女にはこれまで色々と我慢を強いてしまいました。私のいないところで、ひとりで傷ついていたこともあったでしょう。後悔しても過去には戻れませんが……せめて、これからは私が全身全霊で守っていこうと思っています。どうぞ皆様には、私たち夫婦ともども、これからも東堂時計をよろしくお願いいたします」

 嶺さんが壇上から私を見つめる。
 こんなに注目を浴びるなんて、心臓が縮みそう。社員だけじゃない、お客様にまで見られている。
 でもそれらはすべてあたたかなまなざしだったから、私は嶺さんともう一度見つめ合って顔をほころばせた。




 創業記念パーティーは大成功のうちに終了した。
 その後、ホテルの最上階のレストランに場所を移しての顔合わせでも、私は東堂家の皆さんにあたたかく迎え入れられた。

「嶺が三年も無作法をしてごめんなさい。こちらか挨拶したいと嶺には言ってたのよ。でもそれもきつく止められていたの。主人も東堂家のトップは嶺だ、嶺に従うように、なんて言うものだから、困ったものだったのよ」

 きらびやかな夜景が窓一面に広がるレストランの個室で、お義母さんは雅やかなお着物の膝に手をつき、頭を下げた。
 籍を入れながら嶺さんが嫁を紹介しなかったことに、お義母さんは立腹されていた。
 だけど、嶺さんはそのころ海外で大変な目に合っていたのだ。形だけの妻に割く時間はなかったと思う。それに私もあのころは、まだ嶺さんへの興味が芽生える前だった。
 だけど、気にしないでくださいと笑う私と反対に、お義姉さんたちもおかんむりだったのがおかしかった。といっても長女の(えい)()さんを筆頭に、双子の()()さんと()()さんもこざっぱりとした物言いだったので、顔合わせは終始和やかであたたかい雰囲気だったけれど。

「知沙さん、今後また嶺がバカなことをしたら、あたしたちに言いなさい。嶺の弱味ならいくらでも握ってるからね」
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