お久しぶりの旦那様、この契約婚を終わらせましょう
 館内は天井が高く開放的で、自然光がやわらかく差しこむ大きな窓からは、雄大な自然を間近に見ることができて癒される。家で育てる小さなグリーンに日々和んでいる私としては、どっぷりと自然に浸れるというだけでも至福の気分。
 広々としたラウンジには和の美意識を取り入れたモダンでセンスのよいソファが適度な感覚で配置されていて、ゆったりとくつろげる。
 ホテルはすべて独立したヴィラとなっているそうで、私たちはラウンジでおもてなしのお茶とお茶菓子をいただきながらチェックインをすませると、さっそくヴィラに案内された。

 ヴィラもまた広かった。
 リビングルームのほかに、メインベッドルームが二部屋、窓を開け放つと半露天風呂になるという温泉風呂。お食事は和の素材を生かした季節のものを中心にした懐石料理を部屋でいただくことができる。時間はゆったり流れて、この部屋でゆっくりと体を伸ばすだけで溜まっていた(おり)がすべて消えていきそう。
 ミニキッチンを備えたリビングの窓を開け放ちウッドデッキのテラスに下りると、その先はさらにプライベートガーデンに続いていた。なんて贅沢な風景。これらをすべて嶺さんとふたり占めできるのかと思うと、ドキドキしてくる。
 背後でスタッフの女性が、リビングのテーブルにお茶の用意をして下がった。森の香りに、豆から挽いてくれたコーヒーの香りが立ち上って、細胞まで喜んでいる気がする。私はテラスからの眺望に大きく伸びをした。

「外でご飯をいただいたら、気持ちよさそう……! ね、嶺さん、嶺……」

 嶺さんが顔を屈めてくる。ちゅ、とかすかな音の余韻とともに、唇が離れていく。
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