お久しぶりの旦那様、この契約婚を終わらせましょう
「これ……!」
「俺が開けるか?」

 隣に腰掛けた嶺さんに、こくこくとうなずく。嶺さんが苦笑してリボンを外した。そっと蓋を開ける。
 プラチナとゴールドが流線型に絡み合うようなデザインの指輪がふたつ、まばゆいばかりに並んでいた。

「嶺さん……っ」
「これを本物の夫婦の証に。受け取ってくれるな?」
「……っ」
 誰にも見せない、はちみつのようなとろりとした目で嶺さんが私を見おろす。
 ぽろりとあふれた涙が、頬を転がり落ちた。
「時計も、いただいたのに……」
「君は最近、泣いてばかりいる」
「だって、嬉しくて……」

 目尻に嶺さんの唇が触れて、離れていく。涙を拭われたのだと気づいたときには、左手を取られていた。
 息をつめて見守る。
 嶺さんのすらりとした指が、私の薬指にゆっくりと指輪を通す。とくん。とくん。鼓動が切なくも甘い音を奏で始める。

「ふしぎだな。書類上ではとうに夫婦だが、これでやっと君が俺のものになったと思える」
「…………」

 感極まってしまって、言葉が出なくて。
 ぴったりと嵌った結婚指輪を見たら、また涙があふれてくる。
 嶺さんとの出会いが、すべてを変えてくれた。
 こんなに毎日が鮮やかに見えるなんて、契約書にサインしたあのときは、想像もできなかった。

「俺にも嵌めてくれ」
「はい」

 嶺さんから小箱を受け取り、指輪を嶺さんの指にも嵌める。

「嶺さんも、私のものになりました」

 言ってから照れくさくなって目を伏せると、こめかみにキスが降ってきた。
 顔を上げれば、目尻に。頬に。
 唇に。
 嶺さんが私を抱き寄せる。私も嶺さんの首に腕を回す。
 嶺さんがキスに乗せて、愛しているという気持ちを私の肌にいくつも残していく。
 いくつも。
 いくつも。
 変わらない思いを、刻みつけるように。
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