お久しぶりの旦那様、この契約婚を終わらせましょう
 慌てて自分のスマホを取りだせば、おなじメッセージが表示された。それだけじゃなく、着信通知まで。
 言葉にできない気持ちが膨らんで、私はスマホをぎゅっと握りしめる。
 電話も取れなかったから、嶺さんは場所までは特定できなかったはず。
 それでも来てくれた。

「君に連絡がつかなかったから、昴君に連絡させてもらった。君たちは仲がいいから、なにか知っているかもしれないと思ったんだ」
「ああ、それで……」

 昴には、伯父さんと会うのだと話のついでに伝えていた。昴は、私がいつもどこで伯父さんと会っているのか知っている。

「昴と連絡先を交換していたなんて、知りませんでした」
「ああ、挨拶したときにね。電話したのは今日が初めてだったが。また彼にも会いたいね」

 そんな昔に連絡先を交換していたんだ。でも、まさか嶺さんが形だけの妻の家族に連絡先を教えていたなんて。
 車を停めた駐車場に着くと、派手な深紅のボディーをした車の助手席を嶺さんが開けてくれる。私は乗りこみながら思いきって切りだした。

「伯父の前では、いつも伯父の選んだ服を着るよう求められてたんです。でも、もう従いたくなくて今日は思いきってほかの服に……ほんとうは、ここに来るのも嫌でたまらなかったんです。だから嶺さんの顔を見たとき、助かったと思いました」

 あの要領を得ないメッセージで察してくれた嶺さんなら、私と伯父さんの関係になにかしらの問題があると気づいたと思う。
 だから伯父さんを牽制してくれたわけで。
 形だけの妻にも関わらず、そんなふうに私を守ろうとしてくれた嶺さんに、隠すような不誠実なことはしたくない。

「よければ、伯父のこと……聞いていただけますか?」
「聞きたい。だがその前に」

 嶺さんも真剣な顔で車を回りこみ、運転席に乗りこんだ。

「寄る場所ができた。先にそちらへ行こう」
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