お久しぶりの旦那様、この契約婚を終わらせましょう
 初めて……って、顔合わせをしただけのあのとき?

「うそ……」
「俺を疑うとはいい度胸だ。今からじっくり教えようか。……おいで」

 鋭くも甘い声で誘われて、寝室に連れていかれる。心臓が破裂しそう。

「嶺さんっ、まだ夕食前で」
「そうだな」

 嶺さんは私をベッドの端に腰かけさせると、私の肩にやんわりと手をかけて覆い被さってきた。

「シャワーだって浴びてなくて」
「そうだな」

 背中がベッドについたときには、嶺さんの唇を受け止めていた。優しく私を従えるキスだ。
 無理やり押さえこまれたわけじゃない。むしろ嶺さんの手も体の重みも、私のことを気遣って加減してくれているのが伝わってくる。私が本気で抵抗したら、あっさり離してくれるに違いない。
 けれど、優しくも徐々に深く貪欲になっていくキスに抗えない。

「嶺さんっ……」
「これ以上、待てるわけがないだろ」

 紛れもない欲を(はら)んだ低い声に、体の芯に熱が灯る。
 嶺さんの唇が、私の頬やこめかみ、それから耳元をなぞっていく。耳朶をくすぐるように舐められて、甘ったるい息が漏れる。
 私の背を浮かせて、嶺さんがワンピースのファスナーを下ろす。
 嶺さんに男の目を向けられたら、私の中の女の部分がじくじくと疼きだす。
 大きな手のひらが私の肌をまさぐる。そのたびにたまらない気持ちになって、私は甘やかな声を漏らした。

「私、初めてで……どうしたらいいですか?」
「俺を見ていればいい」
「それがいちばん難しいかも……っ」

 逞しい体躯を惜しげもなくさらした嶺さんを、直視できる気がしない。恥ずかしさのあまり横を向こうとしたら、嶺さんが私の顎を押さえた。

「俺を見るのは嫌か?」

 ふるふると首を横に振る。嶺さんがふっと口元をほころばせると、また私の肌をまさぐった。

「……んっ」

 寄せては返す波のように繰り返す快感に、体温がじわじわと上がっていく。
 やがて嶺さん自身が入ってきて、私はひときわ熱い吐息を漏らした。
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