不良の灰島くんは、真面目ちゃんを溺愛する

第4話 灰島くんの過去



(前回の続き)


学校の遠足の途中、足を踏み外して崖下に落ちてしまった莉子。


莉子「すいませーん。誰かーーっ」


莉子は崖下から何度も大声を出して助けを求めるも、崖の上を人が通りかかる気配は全くない。

莉子は、落ちたところから上によじ登ろうとしたが、足を痛めてしまい思うように動けず。

スマホも圏外のため、これ以上為す術もなく莉子がじっと体育座りしていると、だんだん冷えてきた。


莉子(今は4月末とはいえ、山の上は寒いなぁ)


さらに小雨がぱらついてきて、視界も悪くなってくる。


莉子(どうしよう。もしこのまま、誰にも見つけてもらえなかったら……)


寒さで体がガクガク震え、不安で目には涙が浮かぶ莉子。



〇山頂・佐藤くんの捜索開始から30分後


担任の山下先生が、行方不明だった佐藤くんと一緒に戻ってきた。


佐藤「みんな、迷惑かけてごめん。落とし物に気づいて、探しに行ってたんだ」

担任「佐藤、無事で何よりだが。こういうときは、黙ってひとりで勝手にどこかへ行ったらダメだろう!」

佐藤「はい、すみません……」


佐藤が担任の山下から注意を受けるなか、少しして男子の学級委員・本田と隣のクラスの担任も戻ってきた。


しかし、それから10分、15分と経っても莉子だけが姿を現さない。


千帆「あの、山下先生。莉子見ませんでしたか? まだ戻ってきてないんですけど」

担任「なに!? 横山はまだ戻っていないのか!?」


莉子の友人・千帆の言葉に焦る担任。


そんな二人を見た灰島は、スマホで莉子に電話をかけるが……。


【おかけになった番号は……】

圏外を知らせる音声が、流れるだけ。


灰島「……くそっ!」

莉子のことが心配で、居ても立ってもいられなくなった灰島は山頂から駆け出す。


担任「あっ、ちょっと灰島!?」

灰島「すいません! 俺、横山さんのこと探してきます!」



それから早足で、無我夢中で山を下りていく灰島。


灰島「はぁ、はぁっ……莉子、どこだ!?」


灰島モノローグ『莉子は知らないだろうけど。俺は、高校生になる前から莉子のことを知っていた。そして俺は……お前のことが好きだ』


〈回想〉灰島の中学時代


灰島モノ『俺が莉子と出会ったのは、俺がまだ中学3年生だった頃。
あの頃の俺は、毎日のように誰かとケンカしていた』

灰島モノ『当時、俺が通っていた中学校は、学校自体が荒れまくっており、校内ではふたつの不良グループが存在。グループは対立していたため、常にやり合っていた。

俺が不良になったきっかけは単純で、中学で仲良くなった友達や周りがそうだったから』


〈灰島が不良を、ボコボコに殴るシーン〉


灰島モノ『俺は毎日ケンカ三昧で、当時ケンカでは負け無し。友達と、学校もよくサボっていた』



○中学3年の夏休み・街中(午前中)


ある日灰島が街中をひとりで歩いていると、ドカッ! といきなり背後から不良たちに襲われた。


灰島「ぐはっ……!」


道に倒れ込んだ灰島が見上げると、彼を背後から殴ったのは学校で対立しているグループの人たち。
※ガタイのいい、柄の悪そうな男が5人ほど。


不良のリーダー「ははっ、いいぞお前ら、もっとやれ」


ドカッ、バキッ!

リーダーの指示で、手下たちは灰島を殴ったり蹴ったりを繰り返す。


灰島「お前ら、こんな大勢で……卑怯だぞっ」

灰島(5対1なんて、やり返したくてもさすがにやり返せない……)

不良「おいおい。こいつ、思ったよりめちゃくちゃ弱いじゃん。ギャハハ」


灰島をしばらく殴り続けると、不良たちは満足したのか、その場を後にする。


灰島(くそ……まさか集団でやられるなんて、完全に油断してた)


去っていく不良たちの背中を、睨みつける灰島。
体中キズだらけで、彼の口からは血が流れている。


灰島(このままアイツらにやられっぱなしなんて悔しいけど……身体中が痛くて動けねぇ)


道端にうつ伏せになりながら、灰島は顔を歪める。


通行人1「あら、やだ。ケンカ?」
通行人2「怖いわね〜。早く行きましょう」


道端で血を流して倒れている灰島を、通りすがりの人はジロジロと変な目で見ていくだけ。


何とか起き上がった灰島が、うつむき道端で座り込んでいると、近くを通った人がヒソヒソと何か話しているのが聞こえてくる。


女子「ねぇ、あの人大丈夫かな……」


その声に灰島が顔を上げて見ると、そばに立っていたのは自分と同年代の女子二人。


サラサラのロングヘアに眼鏡をかけた真面目そうな女子と、三つ編みの小柄な女子。
〈※中学時代の莉子と千帆で、街でショッピングをしている途中〉


灰島(なんだよ。人のことジロジロ見てないで、さっさと行けよ)


そう思いながら睨む灰島に反して、莉子は心配そうな顔つきで彼の前にしゃがみこむ。


莉子「あの……大丈夫ですか?」
※首を傾げながら、怖々と

灰島「……別に、お前には関係ないだろ。俺に構わないでくれ……痛っ」


口の端が切れている灰島は、喋ると痛みが走り顔を歪める。


莉子「えっと、これ、良かったら……」


莉子はバッグから絆創膏を取り出し、灰島の唇のそばにそっと貼った。


千帆「ねえ、莉子。こんな不良に関わると危ないよ。何されるか分かんないから、もう放っておこうよ」


莉子の腕をとり、後ろからグイグイと引っ張る千帆。


灰島(何されるか分かんないって。俺だって、むやみやたらに人を殴ったりしねえよ)


千帆の自分へのひどい言い様に、イラッとした灰島は千帆を軽く睨む。

それに気づいた千帆は、「ひいっ」と身震い。


莉子「平日のこの時間だと、まだ空いてるよね……病院」※ポツリとつぶやく

莉子「あの、病院行きましょう! 不良さん、立ってください」〈※灰島の腕をつかむ〉

灰島「は? 不良さん!?」

莉子「ごめんなさい。あなたの名前、知らなくて……」

灰島「ていうか、俺のことはいいから。放っておいてくれ!」
〈※自分の腕を掴んでいた莉子の手を振りほどく。〉


莉子「ダメですよ。怪我人をひとりで放っておくなんてできません」

〈※今は灰島を助けることしか頭にないため、彼に手を振りほどかれても気にする様子はない〉


莉子「ねぇ、千帆。ごめん、この人を立たせたいの。手伝ってくれる?」

そして莉子は、千帆と一緒にそれぞれ片方ずつ灰島の脇に腕を通し、二人で支えながら近くの総合病院へと連れて行った。



○病院・受付付近


莉子「すいません。この人、お願いします」

看護師「あらあら、大変!」


近くを通った看護師に声をかけ、莉子と千帆は灰島を引き渡す。


莉子「では、私たちはこれで……あとは、よろしくお願いします」

看護師に声をかけると、背を向けて歩いていく莉子たち。


灰島「あの……ありがとう。隣の友達も、サンキューな」

莉子「いえ。早く良くなるといいですね」

少し照れくさそうに灰島がお礼を言うと、莉子はニコッと微笑み、隣の千帆はペコッと軽くお辞儀。

〈※このとき、莉子の笑顔を見た灰島はドキッとする。〉


灰島モノ『俺は、このとき莉子が見せてくれた花がほころぶような笑顔を、すごく可愛いなって思った』


看護師に支えられながら、灰島は千帆と歩いていく莉子の背中をじっと見つめる。


千帆「そういえば明後日、‪K高校のオープンキャンパスだよね。莉子は行くの?」

莉子「うん。そのつもり」

灰島(K高校……か)


看護師「ほら、行きますよ。怪我、早く手当しないと」


看護師に促され、灰島は診察室のほうへと向かって歩いていく。


灰島モノ『あの日から俺はずっと、優しい莉子のことが忘れられなくて。』

『彼女にもう一度会いたい。会って、あのとき助けてもらった恩返しがしたいと思った俺は、それからは不良グループを抜けてケンカもやめた。
そして心を入れ替えて、必死に勉強して。一か八かで、あの日莉子たちが話していたK高校を受験することにした』


 ・学校の授業を真面目に受ける灰島
 ・机の上に参考書を広げ、家でも懸命に勉強する灰島


灰島モノ『そして俺は合格ラインギリギリながら、なんとか無事K高校に合格。
高校に入学して、俺は奇跡的に莉子と同じクラスになり、彼女と再会を果たしたのだった』


〈回想終了・山のシーンに戻る〉


灰島「莉子ーっ! 莉子、どこだー?」


小雨が降るなか、灰島は険しい斜面や道なき道を進む。


灰島モノ『高校で再会してからも、莉子は俺のことを見た目で判断せず、あの日と同じように変わらず優しくて』

灰島モノ『苦手なはずの料理の練習も、一度も根をあげることなく頑張っていて。勉強も学級委員の仕事も、どんなことも莉子は一生懸命で。すごく良い子だなって思った』


 ・灰島とカレー作りの練習をする莉子
 ・担任から頼まれた雑用に取り組む莉子


灰島モノ『そんな彼女だから、俺は少しでも何か役に立ちたくて、料理の練習にも付き合いたいって思った。
そして、莉子と過ごすうちに俺はどんどん惹かれていって。気づいたら、彼女を本気で好きになっていた』

灰島(だから……こんな不良の俺だけど。いつか莉子に、自分の気持ちを伝えられたらな……)


灰島「……まずい、雨足が強くなってきた」


どんよりとした空を、睨みつける灰島。


灰島「早く見つけないと、やばいな。莉子、どうか無事でいてくれ」


飛び出した木の枝をかき分けて前を見据えると、灰島は歩く速度を早めた。



○崖下


雨に濡れた莉子はうずくまりながら、寒さでブルブル震えている。


莉子(どれくらいの時間が経ったんだろう。電波がないから、助けを呼ぶこともできない)

莉子(私、ずっとこのままなのかな……ここで、息絶えるの?)


つい弱気になりながら、だんだん意識が朦朧としてきたとき。


灰島「莉子ーーっ!」


灰島の声がかすかに聞こえ、莉子の耳がぴくんと反応する。


莉子(うそ、灰島くん!?)


灰島「莉子ーーっ! いたら返事してくれーーっ!」

莉子「灰島くんっ! ここっ……ここだよっ……!」


莉子は最後の力を振り絞り、声をはり上げた。


灰島「莉子、もしかして下か!?」

莉子の声に気づいた灰島が、崖の上から顔を覗かせた。

莉子「灰島くん……!」

灰島の顔を見た途端、莉子はじわっと目頭が熱くなる。


灰島「大丈夫か!? すぐ行くから、待ってろ!」


灰島は身を低くして、ジャンプする体勢を作る。


莉子「すぐ行くからって、まさか……灰島くん、飛び降りる気!? あ、危ないよ」


すると灰島はためらいなく地面を蹴り、崖の上から莉子がいる下まで飛び降りた。
〈※崖から下は、2階建ての建物の高さほど。〉


莉子(きゃ───っ!)


声にならない悲鳴をあげ、顔を両手で覆う莉子。
落ちてきた灰島は、膝を曲げて綺麗に着地。


莉子(えっ、灰島くん……すごい)※目が点

莉子「あ、あの。灰島くん、大丈夫? 足折れてな……」

灰島「俺は大丈夫だ。莉子は!?」

莉子「私は、足を少し捻っただけで……」

灰島「そっか。はぁ、良かった。良かったって言って良いのか分からないけど、もし莉子に何かあったら俺……」

灰島は莉子の背中に腕をまわし、彼女を抱き寄せる。


莉子「お、大袈裟だよ。灰島くん……」

※いきなり抱きしめられ、心臓が尋常じゃないくらいにドキドキする莉子。


灰島「大袈裟なんかじゃねえ。俺、どれだけ心配だったか……」

灰島の莉子を抱きしめる腕に力がこもる。


莉子「でも……来てくれてありがとう。灰島くん」「本当は私……すごく不安だったんだ」〈※灰島の背中に腕をまわす。〉


莉子(灰島くんに……男の子に、こうして抱きしめられるのは初めてで。すごくドキドキするけど)

莉子(それ以上に今は……灰島くんのこの温もりが、なぜかとても安心できた)

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