不良の灰島くんは、真面目ちゃんを溺愛する

第6話 灰島くんの家にお邪魔します



(前回の続き)


○5月のGW直前の放課後


コンビニで、スポーツドリンクや冷却シートを購入した莉子は、担任の山下に教えてもらった住所を頼りに灰島の家であるマンションまでやって来た。


莉子「灰島くんの家、ここで合ってるよね?」
※高層マンションを見上げながら。


莉子(……よし、行こう)


莉子は、マンションのエントランスへと向かって歩き出す。


そして、担任から預かったファイルの中にあったメモに書かれた部屋まで行き、インターフォンを押してしばらく待つ莉子。


莉子(灰島くん、もしかして寝ちゃってるかな?)


莉子がそんなことを考えていると、ガチャッと玄関のドアが開き、赤い顔をした灰島が姿を現した。


灰島「はい……?」


一瞬、灰島の目つきがカッと鋭くなったため、莉子の肩が揺れる。


灰島「……って、り、莉子!?」

莉子を見て、目を大きく見開く灰島。
※黒のスウェット姿


莉子(灰島くん、今日はピアスつけていないんだ。スウェット姿も、何だか新鮮)


莉子「えっと、突然ごめんね。学校の配布物を届けに来たの」

担任から預かったファイルと、コンビニの袋を掲げてみせる。


灰島「わざわざ、悪いな……っ」


灰島は激しく息切れし、声も少し掠れている。


灰島「……っ、はぁ……」


すると突然、灰島の身体から一気に力が抜け、ドサッとその場に崩れ落ちた。


莉子(え! うそ、倒れた……!?)


灰島は肩で息をし、玄関でへたりこんでしまっている。


莉子「ちょっと、灰島くん……大丈夫!?」


焦ったように、倒れた灰島のもとに駆け寄る莉子。


灰島「わりぃ。大丈夫だから……っ」


灰島は力なく立ちあがるが、体がふらついてまた倒れそうになる。


莉子「危ないっ!」


そんな灰島を、莉子がすんでのところで支えた。


莉子(灰島くんの身体、すごく熱い……)

莉子(灰島くんは、ひとり暮らしだって聞いたから。ここは私が助けないと……!)


莉子は灰島の背中を支え、自分の肩に彼の腕をまわすと、フラフラと廊下を歩きはじめる。


莉子(灰島くんは、細く見えるけど。筋肉質で、ガッシリしていて結構重い。
当たり前だけど、私と違ってちゃんと男子なんだなぁ)


灰島「……ごめんな、莉子」


耳元で聞こえた灰島の声は、弱弱しく苦しそう。


莉子「いいよ。気にしないで」


灰島と身長差のある莉子はふらつきながらも、なんとか彼を部屋のベッドへと連れて行った。



○灰島の部屋


灰島をベッドに寝かせて布団をかけると、莉子は彼の体温を測定する。


ピピピッ(体温計の鳴る音)


莉子「えっ、38.5度!?」

予想よりも高い数字に、莉子は目を丸くする。


莉子「ねぇ灰島くん、病院は!?」

灰島「……行ってない。行く元気なくて」

莉子「それじゃあ、何か食べた?」

灰島「食ってねぇ。食欲なくて……ケホケホ」


莉子(しんどくても、何か食べてちゃんと薬飲まなきゃ。治るものも治らないよ……)


灰島の部屋を、ぐるりと見渡す莉子。


部屋はきちんと整理整頓され、無駄なものはひとつもなくガランとしている。


莉子(灰島くん、こんな広い家にたった一人で……)
莉子(しかも、私のせいでこんな苦しい思いをさせちゃって。ごめんね……)


ベッドで苦しそうにうなる灰島を見て、莉子は唇をキュッと結ぶ。


莉子「灰島くん。ちょっと、キッチン借りるね!」



○灰島の家のキッチン


莉子(えっと。風邪のときは、やっぱりお粥だよね)


莉子は、自分のスマホでレシピを検索。


莉子「たまご粥……これなら、私でも作れるかな」

莉子(お粥は、一度も作ったことがないけど。カレー作りはマスターしたから、きっと大丈夫だよね)

莉子(相変わらず料理は苦手だけど、少しでも灰島くんの役に立ちたいから。やるだけやってみよう)


莉子「えっと、まずはお鍋に水とお米を入れて……」


腕をまくり、気合いを入れる莉子だったが。



○数十分後。灰島の部屋


ガラガラガッシャーン!!


キッチンのほうから突然大きな音が聞こえ、ベッドで寝ていた灰島は思わず飛び起きる。


灰島(な、何だ!?)
焦ったように首を左右に動かす。

灰島(それに、何だか焦げ臭いような……)

灰島が、鼻をクンクンさせていると。


莉子「キャーーッ!」

今度はキッチンから莉子の叫び声が聞こえ、灰島の肩はビクッと大きく跳ねる。


灰島(莉子、大丈夫かよ……)


莉子のことが気になった灰島は、自分が体調不良であることも忘れ、慌てて隣のキッチンへ向かう。



○キッチン


灰島「おい、どうした!?」

莉子「あっ。灰島くん、起こしちゃった? ごめんね、騒がしくしちゃって」※苦笑い


灰島が莉子から、キッチンに目をやると。


床には調理器具がひっくり返り、冷蔵庫の食材もあちこちに出しっ放し。

泥棒にでも入られたのかと思ってしまうくらい、キッチンは物が散乱し悲惨なことになっている。


口をあんぐりさせ、しばらく無言になる灰島。


灰島「……これはまた、すごいことに……」
※額にじわりと、汗が滲む。


莉子「えっと、実は……」


莉子によると、お粥を調理中にうっかり焦がしてしまい、パニックになって後ずさりしたところテーブルに思いきりぶつかり、その拍子にテーブル上の調理器具が床に落ちたのだという。


莉子「ごめんね。お粥を作ろうとしたけど、失敗しちゃって……」

灰島「!」

莉子が申し訳なさそうに見せてくれた土鍋を見て、灰島は石のように固まってしまう。


莉子が作ったお粥は、水気がなくなって土鍋に焦げつき、それがお粥だとは分からないほど原型をとどめてない。


莉子「灰島くんみたいに、上手く作りたかったのに……ごめん」しゅんと肩を落とす。

莉子(私ったら、どうしてこんなにも下手なんだろう)

莉子「食材を借りておいて申し訳ないけど。これは、とても食べられそうにないから。破棄するね」


そう言って土鍋の中のお粥をゴミ箱へ捨てにいこうとした莉子の腕を、灰島が後ろからガシッと掴んだ。


莉子「は、灰島くん?」
灰島「それ、捨てないで。俺にちょうだい?」
莉子「え?」
灰島「俺……莉子が作ってくれたお粥、食べたい」



○灰島の部屋


灰島「……いただきます」

それからベッド上で灰島は手を合わせると、莉子の作ったお粥を食べる。

お粥をスプーンで掬い口に運ぶ灰島を、ドキドキしながらベッド脇で見つめる莉子。


灰島「……ん。思ったよりも、全然いける。美味いよ」
莉子「ほ、本当に?!」
灰島「ああ。莉子が作ってくれたからかな」
莉子(え!?)
灰島の言葉に、莉子は胸が跳ねる。


それからパクパクとお粥を口へと運ぶ灰島。



○数分後。灰島の部屋


灰島「……ごちそうさま」

※空になったお茶碗とスプーンのアップ絵。


莉子「まさか、お粥を全部食べてくれたなんて」

灰島「莉子が、俺のために一生懸命作ってくれたんだ。捨てるなんて、そんなことできる訳ないだろ?」

莉子(灰島くん……)

灰島「俺は、莉子の気持ちが何より嬉しかったから」


灰島の大きな手が、莉子の頭にポンとのせられる。


灰島「ありがとうな」※ニコッと優しく微笑む

莉子「どっ、どういたしまして」

灰島の優しい笑みに、思わずキュンとする莉子。



○灰島の家のキッチン


キッチンのシンクで、莉子は食器や鍋を洗っている。


莉子「そういえば……私、灰島くんがカレー作りの練習に付き合ってくれたお礼、まだちゃんとできてなかったよね?」

灰島「ん? あれは財布事件のとき、俺のことをかばってくれたお礼だって最初に言っただろ? だから、礼は何もいらねえよ」

※シンクの近くで、市販の風邪薬を飲みながら返事。灰島の額には、莉子が買ってきた冷却シートが貼られている。


莉子「でも……私が山で遭難しかけたときも、灰島くん助けに来てくれたから」

莉子「しかもそのとき雨に打たれたせいで、灰島くんがいま風邪を引いたのかもって思うと、責任を感じるし」


一歩も引かない様子の莉子に、しばらく黙って考える灰島。


灰島(そう言えば莉子って、一度こうと決めたら曲げないところがあるよな……)


〈灰島フラッシュ〉

「あの、病院行きましょう! 不良さん、立ってください」

 中学時代、街中で不良に殴られて怪我をしていた灰島に話しかける莉子。

灰島「俺のことはいいから。放っておいてくれ!」

莉子「ダメですよ。怪我人をひとりで放っておくなんてできません」

そう言って友達の千帆と一緒に灰島を立たせ、病院に連れていく第4話の回想シーン。


○現在のシーンに戻る


灰島「……ほんとに、何でも良いのか?」

尋ねる灰島に、莉子は力強く頷く。

灰島「本当に?」

莉子「うん」

灰島「だったら、莉子……俺と付き合って」

莉子「俺と付き合ってって……えええっ!?」

< 6 / 6 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

学園の王子様は、私だけのお世話係!?

総文字数/69,958

恋愛(学園)160ページ

表紙を見る
キミのこと、好きでいてもいいですか?

総文字数/69,995

恋愛(学園)162ページ

表紙を見る
表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop