政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

6-20 似た者同士の2人

 サミュエル王子に悪女と言われたリーゼロッテは顔が青ざめている。

「ひ、酷い……私が悪女だなんて……」

涙ぐんだ目でサミュエル王子を見る。
そんなリーゼロッテの姿に私は呆れてしまった。
自分で自覚がなかったのだろうか? 一方的にサミュエル王子に好意を寄せて、相手にされなかったからと言って両親をそそのかし、ガーランド王国に攻めようとした。
その間にちゃっかりアレックス王子と恋仲になっておきながら、恨みつらみの手紙をサミュエル王子に送り付けているなんて。

結局それが元ネタになり、挙兵前に自分の国にガーランド兵が押しかけて国王まで巻き込んで両親共々捕まって国を失ってしまったくせに?
挙句の果てに釈放された途端、グランダ王国に引き取られて私の侍女に収まっている。さらにアレックス王子の愛人になっているというとんでもない事をしているのに?

この話だけでも自伝が5冊は書けそうなのに、未だに自分が悪女という自覚がこれっぽちも無く、被害者面している。
やはり馬鹿だ。アレックス王子共々バカップルだ。

「君……本当に自分が悪女だと言う自覚は無いのかい?」

ランス王子が呆れたように尋ねる。

「当り前じゃないですか! 私は自分の思うまま行動しただけですよ? むしろ……悪女と言うなら、そこにいるレベッカですっ!」

ビシッと私を指さした。

ええっ!? 何故私が悪女と言われなければならないのだろう?

「どうして私が悪女なの?」

馬鹿らしいけど一応リーゼロッテの言い分を聞いてみる。

「貴女、自分で分からないの? あんな気の強い侍女を傍に置いて、周囲の人間を威圧しておきながら。ようやく邪魔なあの侍女を追い払えたと思っていたのにアレックス様は、再びあの侍女をこの城に呼び戻すと言い出したのよ? いくら理由を問い詰めてもそれだけは言えないと震えて答えてくれないし……。一体どんな手を使ってアレックス様をたらしこんだのよ!」

その言葉を聞いて確信した。
よし、アレックス王子の深層心理にうまい具合に私に対する『畏怖の念』を植え付ける事は成功したようだ。それにしてもたらしこむとは……。

「あの……一応伝えるけど、私はこれでもアレックス王子の妻なのだけど?」

尤も私とアレックス王子は名ばかりの結婚だけども。

「そんなの分かってるわよ! でも何が妻よっ! 一度たりとも愛されたことも無ければ抱かれたことも無いくせにっ!」

確かに私とアレックス王子は白い結婚だ。だけど……アレックス王子に抱かれる? 想像しただけで全身に鳥肌が立ってくる。

「いい加減にしろっ! リーゼロッテ! これ以上レベッカを侮辱するな! 俺はむしろ喜ばしい事だと思っている。あんな馬鹿にレベッカを汚されていないのだからなっ! この売女めっ!」

サミュエル王子から爆弾発言が飛び出した。その言葉にリーゼロッテを含めて私もランス王子もギョッとした目で彼を見てしまった。

「売女……ですって? 何故私がそうだと言うのですか? 酷いです……サミュエル王子」

リーゼロッテは目に涙を浮かべてサミュエル王子に近付こうとし……。

「寄るなっ! 汚らわしいっ!」

手をはたかれてしまった。

「俺が何も知らないとでも思っていたのか? お前はガーランド王国で軟禁状態だった時、見張りの兵士を次々と誘惑して毎晩身体の関係を持っていただろう? お前の誘惑に負けた兵士の中には婚約していた者たちもいた。お前のせいで婚約を破棄されてしまった女性たちがどれだけいると思っているんだ! だからこれ以上被害者が出る前にお前だけ釈放してやったという事にまだ気づかないのか!? そんな汚らわしい手で俺に触れるなっ!」

サミュエル王子の言葉に私は信じられない気持ちでリーゼロッテを見た。
同じだ……年がら年中発情しているアレックス王子とリーゼロッテは全く同じ人種なのだ。

成程。だからこそグランダ王国は余計に2人を夫婦にさせるわけにはいかなかったのか。

「ひ、酷い……! サミュエル王子!」

そして何故かリーゼロッテは私を睨み付けた。
え!? 何故私が睨みつけらなければならないのだろう?

「お、覚えてらっしゃい!」

まるで物語に出てくるような捨て台詞を吐き捨てると、リーゼロッテは走り去ってしまった――




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