政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
7-2 落ちてみましょうか?
「リーゼロッテ……やっぱり貴女だったのね?」
芋虫のように転がったまま、リーゼロッテを見上げる。月を背後に私を見下ろす彼女の顔は何故か怒りに満ちている。
「ええ、そうよ。貴女を拉致するように私の愛人たちに命じたのよ」
顎でしゃくって後ろを振り返る彼女の背後には、王宮に勤めるフットマンの制服を着た若い2人の男たちが震えながら立っている。
「なるほど……あなた方は仮にも王女で、アレックス王子の妻であるこの私を拉致してきた……そう言う訳ね?」
顔だけ袋から出て、ロープで縛られた姿で尋ねた。
「ええ、そうよ。それにしても貴女一体何なの? 少しは怖がる振りでもすれば可愛げがあるのに、妙に落ち着いて堂々として……何もかも気に入らないわ」
リーゼロッテは忌々し気に見下ろしてくる。
「あの、気に入らないのはむしろ私の方なのだけど。何故こんな目に私は遭わされているのかしら? 何も悪い事してもいないのに」
「はぁっ!? 本当に何もしていないと思っているのっ!? ランス王子とサミュエル王子と親し気に話をして! しかも食事の約束まで……。酷いわ! 私がサミュエル王子の事好きなの知っているくせにっ!」
「ええっ!? だって貴女はアレックス様の愛人でしょう!? それなのにまだ彼の事を好きだったのっ!?」
あり得ない!驚 きを通り越して呆れてしまう。
「う、うるさいっ! アレックス様も好きだけど、サミュエル王子はもっと好きなのよっ! いけないの!?」
「いやいや……はっきり言っていけないでしょう? しかも後ろにいる2人も愛人なんでしょう?」
「……それの何がいけないの?」
突然雰囲気が変わるリーゼロッテ。
「アレックス王子はすっかり腑抜けになってしまったわ。以前までなら何でも私の言う事を聞いてくれたのに。生意気な貴女を何とかして欲しいと頼んだのに震えてしまって、もうレベッカには関わりたくないから勝手にしてくれなんて言い出すし、何をされるか分からないから怖くて離婚も出来ないなんて言いだすのよ? 私に振り向いてくれないサミュエル王子は貴女に夢中になっているし……」
え? サミュエル王子が私に夢中? そんな素振り見せてもいないのに!?
「リーゼロッテ、貴女被害妄想が強すぎじゃない? サミュエル王子のどこが私に夢中になっているって言うのよ」
「そうよ……貴女と侍女が全て悪いのよ。この国にやってきたから……」
リーゼロッテは私の声が聞こえているのかいないのか、ブツブツ文句を言っている。でも今ミラージュの事を話していた?
「ねえ……もしかして貴女、ミラージュに何かしたの?」
「ええ、したわ。ほら、あの山を見てごらんなさい」
リーゼロッテは背後にある山を指さした。
「貴女はあの山に生えている果実を取りに入って行ったのに、未だに帰ってこないと話したら、真っ青になって探しに行ったわ。あの山には乱暴な獣がたくさんいるから、今頃食べられているかもね?」
クスクスとリーゼロッテは笑う。
ミラージュは獣ごときにやられてしまう程柔ではないけれど……。
「本当にアレックス様も困ったものだわ。離婚したくても出来ないなら、始めから消してしまえば良かったのに」
サラリと恐ろしいことを言ってのけるリーゼロッテ。
「貴女、本気でそんな事言ってるの?」
「ええ、そうよ。……ねえ、聞こえてこない。この大きな水音が」
リーゼロッテは両耳の後ろに手を添えると、妙に演技がかった言い方をする。
「勿論聞こえているわ。さっきからザアザアと耳障りなくらいにね」
相変わらず芋虫状態で私は答える。
「貴女のすぐ後ろにはね……大きな滝が流れているのよ。ちょっと落ちてみましょうか?」
「はいっ!?」
まるでお使いに行ってきてと言わんばかりの言葉に私は耳を疑った――
芋虫のように転がったまま、リーゼロッテを見上げる。月を背後に私を見下ろす彼女の顔は何故か怒りに満ちている。
「ええ、そうよ。貴女を拉致するように私の愛人たちに命じたのよ」
顎でしゃくって後ろを振り返る彼女の背後には、王宮に勤めるフットマンの制服を着た若い2人の男たちが震えながら立っている。
「なるほど……あなた方は仮にも王女で、アレックス王子の妻であるこの私を拉致してきた……そう言う訳ね?」
顔だけ袋から出て、ロープで縛られた姿で尋ねた。
「ええ、そうよ。それにしても貴女一体何なの? 少しは怖がる振りでもすれば可愛げがあるのに、妙に落ち着いて堂々として……何もかも気に入らないわ」
リーゼロッテは忌々し気に見下ろしてくる。
「あの、気に入らないのはむしろ私の方なのだけど。何故こんな目に私は遭わされているのかしら? 何も悪い事してもいないのに」
「はぁっ!? 本当に何もしていないと思っているのっ!? ランス王子とサミュエル王子と親し気に話をして! しかも食事の約束まで……。酷いわ! 私がサミュエル王子の事好きなの知っているくせにっ!」
「ええっ!? だって貴女はアレックス様の愛人でしょう!? それなのにまだ彼の事を好きだったのっ!?」
あり得ない!驚 きを通り越して呆れてしまう。
「う、うるさいっ! アレックス様も好きだけど、サミュエル王子はもっと好きなのよっ! いけないの!?」
「いやいや……はっきり言っていけないでしょう? しかも後ろにいる2人も愛人なんでしょう?」
「……それの何がいけないの?」
突然雰囲気が変わるリーゼロッテ。
「アレックス王子はすっかり腑抜けになってしまったわ。以前までなら何でも私の言う事を聞いてくれたのに。生意気な貴女を何とかして欲しいと頼んだのに震えてしまって、もうレベッカには関わりたくないから勝手にしてくれなんて言い出すし、何をされるか分からないから怖くて離婚も出来ないなんて言いだすのよ? 私に振り向いてくれないサミュエル王子は貴女に夢中になっているし……」
え? サミュエル王子が私に夢中? そんな素振り見せてもいないのに!?
「リーゼロッテ、貴女被害妄想が強すぎじゃない? サミュエル王子のどこが私に夢中になっているって言うのよ」
「そうよ……貴女と侍女が全て悪いのよ。この国にやってきたから……」
リーゼロッテは私の声が聞こえているのかいないのか、ブツブツ文句を言っている。でも今ミラージュの事を話していた?
「ねえ……もしかして貴女、ミラージュに何かしたの?」
「ええ、したわ。ほら、あの山を見てごらんなさい」
リーゼロッテは背後にある山を指さした。
「貴女はあの山に生えている果実を取りに入って行ったのに、未だに帰ってこないと話したら、真っ青になって探しに行ったわ。あの山には乱暴な獣がたくさんいるから、今頃食べられているかもね?」
クスクスとリーゼロッテは笑う。
ミラージュは獣ごときにやられてしまう程柔ではないけれど……。
「本当にアレックス様も困ったものだわ。離婚したくても出来ないなら、始めから消してしまえば良かったのに」
サラリと恐ろしいことを言ってのけるリーゼロッテ。
「貴女、本気でそんな事言ってるの?」
「ええ、そうよ。……ねえ、聞こえてこない。この大きな水音が」
リーゼロッテは両耳の後ろに手を添えると、妙に演技がかった言い方をする。
「勿論聞こえているわ。さっきからザアザアと耳障りなくらいにね」
相変わらず芋虫状態で私は答える。
「貴女のすぐ後ろにはね……大きな滝が流れているのよ。ちょっと落ちてみましょうか?」
「はいっ!?」
まるでお使いに行ってきてと言わんばかりの言葉に私は耳を疑った――