政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
1-12 大嘘つきな王子
「まあ……レベッカ様。何て美しい中庭なんでしょう」
偶然迷い出てきた私たちの前に飛び込んできたのは美しく整えられたバラ園だった。庭には色とりどりのバラが植えられ、庭のかしこには大理石の彫像が立てられている。バラが咲き乱れた奥に見えるのは可愛らしいレンガ造りのガゼボであった。
「やはり、この国はオーランド王国に比べて随分裕福な国なようですわね」
「ええ、私もそう思うわ」
ミラージュの言葉に私は頷く。
「全く。あのオーランド国の城の人々はもっとレベッカ様を大切にしていれば裕福な生活を送ることが出来たかもしれないのに……。きっと今頃あの国ではレベッカ様がいなくなって大変な事になっていますよ。でもその原因すらきっと気づかないまま彼らは終わるのでしょうね」
ミラージュはどこか嬉しそうな顔をしている。
「そうね。でもここでの私の待遇はあまり期待出来そうにないかもね……」
ため息をついたとき。
「レベッカ様! 5名ほどの人々がこちらへ向かって近づいてきます! 何となく嫌な予感がするので、どこかに隠れましょう! あのガゼボの後ろがいいです! さあ、急いで!」
「分かったわ」
ミラージュは私の手を取ると走り出した。私は黙ってミラージュに手を引かれたまま走ってついていく。彼女は格別に第六感というものに優れている。何せ彼女は特別な存在なのだ。ミラージュの言う通りにしておけば絶対悪いようにはならない。
私とミラージュがガゼボの後ろに隠れた途端、男性たちのざわめき声が聞こえ始めてきた。
「え……? それじゃまだ花嫁はこの国に到着していないって言うのかい?」
「その話は本当か? どうするんだよ。明日は君たち2人の結婚式じゃないか!」
別の男性の声が聞こえてくる。
「そうなんだ。明日は俺たちの結婚式だって言うのに、連絡一つ無い。こちらとしては彼女に何かあったのではないかと心配で心配で。一体何があったというのだろうか。折角明日の結婚式の為に前夜祭と称して彼女の為にパーティーまで開催することにしたのに」
あ!
あれはアレックス王子の声! でも話の内容がおかしい。私たちは理不尽な扱いを受けながらようやくこの城に到着し、部屋すら用意されていなかったのに。
まあ……お食事は美味しかったけどね。
その時、私は隣にいるミラージュから強烈な殺気を感じて慌ててミラージュの方を振り向いた。するとそこには顔を怒りで真っ赤に染め、プルプルと全身を小刻みに震わせているミラージュの姿が。そして彼女の頭の上を見た私はギョッとしてしまった。
た、大変……!
「ミラージュ……お願いだから心を落ち着けて。頭の上が大変な事になってるわ。本性が見えかかっているわ」
私は我を無くしかかっているミラージュに小声で囁いた。
「え……? あ……っ!!」
ミラージュは自分の頭に手を触れ、ようやく何が起こっているのか理解した。彼女は興奮すると、本性が現れてしまうのだ。
ミラージュは慌てて自分の頭の左右に手を乗せると深呼吸を始める。
「スーハースーハー……」
その間にもアレックス王子たちは会話を続けながらガゼボの前を通り過ぎてゆく。
「それで、アレックス。恋人とはどうなったんだい? やっぱり別れたのかい?」
え? 恋人?
私とミラージュは両耳に手を当てて、アレックス王子の返事を待った。
「え? 別れるだって? そうだね……。彼女には悪いけど今夜別れを告げるつもりなんだよ。幸い、盛大なパーティーを開くから2人の最後の思い出の夜を演出しようかと思っているんだ。だって俺は明日は結婚するのだから。やはりいくら政略結婚だからと言っても相手を愛する努力はするつもりだからね。恋人とは別れるしか無いよ……」
悲し気な声と共にアレックス王子の溜息が聞こえてくる。
私はアレックス王子の嘘の演技力の凄さに、驚きを通り越して呆れてしまった――
偶然迷い出てきた私たちの前に飛び込んできたのは美しく整えられたバラ園だった。庭には色とりどりのバラが植えられ、庭のかしこには大理石の彫像が立てられている。バラが咲き乱れた奥に見えるのは可愛らしいレンガ造りのガゼボであった。
「やはり、この国はオーランド王国に比べて随分裕福な国なようですわね」
「ええ、私もそう思うわ」
ミラージュの言葉に私は頷く。
「全く。あのオーランド国の城の人々はもっとレベッカ様を大切にしていれば裕福な生活を送ることが出来たかもしれないのに……。きっと今頃あの国ではレベッカ様がいなくなって大変な事になっていますよ。でもその原因すらきっと気づかないまま彼らは終わるのでしょうね」
ミラージュはどこか嬉しそうな顔をしている。
「そうね。でもここでの私の待遇はあまり期待出来そうにないかもね……」
ため息をついたとき。
「レベッカ様! 5名ほどの人々がこちらへ向かって近づいてきます! 何となく嫌な予感がするので、どこかに隠れましょう! あのガゼボの後ろがいいです! さあ、急いで!」
「分かったわ」
ミラージュは私の手を取ると走り出した。私は黙ってミラージュに手を引かれたまま走ってついていく。彼女は格別に第六感というものに優れている。何せ彼女は特別な存在なのだ。ミラージュの言う通りにしておけば絶対悪いようにはならない。
私とミラージュがガゼボの後ろに隠れた途端、男性たちのざわめき声が聞こえ始めてきた。
「え……? それじゃまだ花嫁はこの国に到着していないって言うのかい?」
「その話は本当か? どうするんだよ。明日は君たち2人の結婚式じゃないか!」
別の男性の声が聞こえてくる。
「そうなんだ。明日は俺たちの結婚式だって言うのに、連絡一つ無い。こちらとしては彼女に何かあったのではないかと心配で心配で。一体何があったというのだろうか。折角明日の結婚式の為に前夜祭と称して彼女の為にパーティーまで開催することにしたのに」
あ!
あれはアレックス王子の声! でも話の内容がおかしい。私たちは理不尽な扱いを受けながらようやくこの城に到着し、部屋すら用意されていなかったのに。
まあ……お食事は美味しかったけどね。
その時、私は隣にいるミラージュから強烈な殺気を感じて慌ててミラージュの方を振り向いた。するとそこには顔を怒りで真っ赤に染め、プルプルと全身を小刻みに震わせているミラージュの姿が。そして彼女の頭の上を見た私はギョッとしてしまった。
た、大変……!
「ミラージュ……お願いだから心を落ち着けて。頭の上が大変な事になってるわ。本性が見えかかっているわ」
私は我を無くしかかっているミラージュに小声で囁いた。
「え……? あ……っ!!」
ミラージュは自分の頭に手を触れ、ようやく何が起こっているのか理解した。彼女は興奮すると、本性が現れてしまうのだ。
ミラージュは慌てて自分の頭の左右に手を乗せると深呼吸を始める。
「スーハースーハー……」
その間にもアレックス王子たちは会話を続けながらガゼボの前を通り過ぎてゆく。
「それで、アレックス。恋人とはどうなったんだい? やっぱり別れたのかい?」
え? 恋人?
私とミラージュは両耳に手を当てて、アレックス王子の返事を待った。
「え? 別れるだって? そうだね……。彼女には悪いけど今夜別れを告げるつもりなんだよ。幸い、盛大なパーティーを開くから2人の最後の思い出の夜を演出しようかと思っているんだ。だって俺は明日は結婚するのだから。やはりいくら政略結婚だからと言っても相手を愛する努力はするつもりだからね。恋人とは別れるしか無いよ……」
悲し気な声と共にアレックス王子の溜息が聞こえてくる。
私はアレックス王子の嘘の演技力の凄さに、驚きを通り越して呆れてしまった――