政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
1-13 まともな人間
「レ……レベッカ様……」
ミラージュが肩を震わせながら話しかけてきた。
「何かしら……? ミラージュ」
「私……今からあの王子をぶん殴りに行ってもよろしいでしょうかっ!?」
ミラージュは指をボキボキ鳴らしながら私を見た。……その眼は完全に座っていた。
「だ、駄目よっミラージュ、落ち着いてっ! 貴女が本気を出したらどうなるか分っているでしょう? お願い! 我慢して頂戴!」
「で、ですが! あの大嘘つきの王子の舌を引っこ抜かなければ私の気が収まりません!」
「舌なんか抜いたら死んでしまうわよ! 人間は軟な生き物なのだから!」
そんな事を言いあいながらミラージュと2人で騒いでいると、突然背後から声をかけられた。
「あれ、君達こんなところで何をしているんだい?」
「「え?」」
2人で同時に振り向くと、そこにはとても身なりの良い若い男性が立っていた。まるで騎士のような紺色の衣装に身を包んだ男性は胸にこの国のエンブレムを付けている。神秘的な緑色の瞳に栗毛色の柔らかい髪質のとても美しい男性だった。
「あ、あの……わ、私たちは……」
どうしよう、爺やさんに部屋から出ない様に言われていたのに、こんなにも身分の高そうな男性に会ってしまうなんて。
すると慌てる私の代わりにミラージュが口を滑らせてしまった。
「こちらにいらっしゃいますお方は明日アレックス王子様と婚姻されるレベッカ・ヤング様です。そして私は侍女のミラージュと申します。本日、私たちは2人きりで自力で小さな蒸気船に乗って3日かけてこの国へやって参りました。それにしてもこの国の人々は酷いですね。明日レベッカ様は結婚式だと言うのに、専用の部屋も与えられず、ただの客室に通されたのですよ? 今夜の宴に参加する事も許されず、部屋から出るなとも言われたのですから。まあ幾らなんでもそこまで横暴な命令など聞いていられませんので、こうして私とレベッカ様はお城のお散歩に出てきたのですが、道に迷ってしまったと言う訳です」
私と高貴な男性はミラージュが一気にまくしたてるのを呆然と見つめていた。それにしてもオーランド王国に住んでいた時は、サバサバしていたはずのミラージュがここまでねちっこく文句を言うなんて……余程腹に据えかねていたのかもしれない。
「あ、ああ……そうだったんだね。それは悪いことをしてしまった。それでは僕の方から待遇を改善して貰えないか、何とか頼んでみるよ」
男性は優しい笑みを浮かべながら私達を見た。
「本当ですか?」
「絶対に約束……守って頂けるのでしょうね?」
ミラージュは念押しして男性に尋ねる。
「ええ、勿論約束はちゃんと守りますよ。そう言えば道に迷ったと仰っていましたね。僕がお部屋まで連れて行ってさしあげます。確か客室にいらしたんですよね?」
「はい、そうです」
「やっと初めてお話が通じるお方に出会えたようですね。良かったですわ。この国の人間は誰もが礼儀知らずの者ばかりだと思っておりましたが、少しはまともな思考の人間がいたと言う事ですわね?」
「キャア! ミラージュッ! そんな失礼な事を言っては駄目よ!」
私は慌ててミラージュの口元を押さえたが、手遅れだった。
高貴な男性は呆然とした目で私達を見下ろしていたが……。
「アハハハハッ!」
突然大きな声で笑いだした。
「あ、あの……?」
「何ですの? 一体?」
私もミラージュも突然笑い出した男性に戸惑ってしまった。男性は少しの間、おかしくてたまらないという感じで笑い続けていたけれども、ようやく落ち着きを取り戻した。
「君達はとても面白いねぇ……これなら退屈しないで済みそうだよ。さて、それでは部屋に戻ろうか? ついておいで」
男性は背を向けて歩き始めた。
「「…」」
私とミラージュは一瞬顔を見合わせ頷くと、男性の後をついて行くことにした――
ミラージュが肩を震わせながら話しかけてきた。
「何かしら……? ミラージュ」
「私……今からあの王子をぶん殴りに行ってもよろしいでしょうかっ!?」
ミラージュは指をボキボキ鳴らしながら私を見た。……その眼は完全に座っていた。
「だ、駄目よっミラージュ、落ち着いてっ! 貴女が本気を出したらどうなるか分っているでしょう? お願い! 我慢して頂戴!」
「で、ですが! あの大嘘つきの王子の舌を引っこ抜かなければ私の気が収まりません!」
「舌なんか抜いたら死んでしまうわよ! 人間は軟な生き物なのだから!」
そんな事を言いあいながらミラージュと2人で騒いでいると、突然背後から声をかけられた。
「あれ、君達こんなところで何をしているんだい?」
「「え?」」
2人で同時に振り向くと、そこにはとても身なりの良い若い男性が立っていた。まるで騎士のような紺色の衣装に身を包んだ男性は胸にこの国のエンブレムを付けている。神秘的な緑色の瞳に栗毛色の柔らかい髪質のとても美しい男性だった。
「あ、あの……わ、私たちは……」
どうしよう、爺やさんに部屋から出ない様に言われていたのに、こんなにも身分の高そうな男性に会ってしまうなんて。
すると慌てる私の代わりにミラージュが口を滑らせてしまった。
「こちらにいらっしゃいますお方は明日アレックス王子様と婚姻されるレベッカ・ヤング様です。そして私は侍女のミラージュと申します。本日、私たちは2人きりで自力で小さな蒸気船に乗って3日かけてこの国へやって参りました。それにしてもこの国の人々は酷いですね。明日レベッカ様は結婚式だと言うのに、専用の部屋も与えられず、ただの客室に通されたのですよ? 今夜の宴に参加する事も許されず、部屋から出るなとも言われたのですから。まあ幾らなんでもそこまで横暴な命令など聞いていられませんので、こうして私とレベッカ様はお城のお散歩に出てきたのですが、道に迷ってしまったと言う訳です」
私と高貴な男性はミラージュが一気にまくしたてるのを呆然と見つめていた。それにしてもオーランド王国に住んでいた時は、サバサバしていたはずのミラージュがここまでねちっこく文句を言うなんて……余程腹に据えかねていたのかもしれない。
「あ、ああ……そうだったんだね。それは悪いことをしてしまった。それでは僕の方から待遇を改善して貰えないか、何とか頼んでみるよ」
男性は優しい笑みを浮かべながら私達を見た。
「本当ですか?」
「絶対に約束……守って頂けるのでしょうね?」
ミラージュは念押しして男性に尋ねる。
「ええ、勿論約束はちゃんと守りますよ。そう言えば道に迷ったと仰っていましたね。僕がお部屋まで連れて行ってさしあげます。確か客室にいらしたんですよね?」
「はい、そうです」
「やっと初めてお話が通じるお方に出会えたようですね。良かったですわ。この国の人間は誰もが礼儀知らずの者ばかりだと思っておりましたが、少しはまともな思考の人間がいたと言う事ですわね?」
「キャア! ミラージュッ! そんな失礼な事を言っては駄目よ!」
私は慌ててミラージュの口元を押さえたが、手遅れだった。
高貴な男性は呆然とした目で私達を見下ろしていたが……。
「アハハハハッ!」
突然大きな声で笑いだした。
「あ、あの……?」
「何ですの? 一体?」
私もミラージュも突然笑い出した男性に戸惑ってしまった。男性は少しの間、おかしくてたまらないという感じで笑い続けていたけれども、ようやく落ち着きを取り戻した。
「君達はとても面白いねぇ……これなら退屈しないで済みそうだよ。さて、それでは部屋に戻ろうか? ついておいで」
男性は背を向けて歩き始めた。
「「…」」
私とミラージュは一瞬顔を見合わせ頷くと、男性の後をついて行くことにした――