政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

1-15 差し入れ

 16時。

――コンコン

部屋のドアがノックされた。

「あ、ひょっとすると先ほどの男性かもしれませんよ?」

ソファに座ってレース編みをしていたミラージュが手を止めて、テーブルの上に編み物を置くとドアへ向かった。

ドアが開くと、30代半ばと20代前半と思われる2名の女性が立っていた。この2名はメイド服を着ていないかった。1名はバスケットを手に持っている。

「私どもは採寸の仕事を任されている者です。こちらのお部屋にいらっしゃいますお2人の採寸をするように申し付かって参りました」

30代と思しき女性が声をかけてきた。

「まあ、そうですか。お待ちしておりましたわ」

ミラージュはにこやかに言うと、部屋の中へ通した。

「それでは早速採寸いたしましょうか?」

するとバスケットを持った女性が巻き尺を差し出す。女性は巻き尺を受け取ると首に引っ掛け、私を見た。

「さあ、始めましょう」


その後、1時間かけてドレスの採寸は終了した――



「は~……疲れましたね……レベッカ様」

「ええ……そうね……」

私とミラージュは互いにソファに座り込んでいた。

「それにしても採寸があんなに疲れるとは思いませんでしたわ……」

「本当ね。ドレスを合わせるのにあれほど手間がかかるなら、やっぱり私はワンピースで充分だわ」

「まあ、何を言い出すのですか? 明日は大事な結婚式なのですよ? きっとここまで入念に採寸したと言う事は、明日式で着るウェディングドレスを合わせる為ですよ。そして私は誰よりも一番近いところで式に臨むレベッカ様を見届ける……まぁ、相手があのクソ王子って言うのが気にくわないですけどね」

「でも今夜の宴、楽しみだわ。だって今まで人生一度も参加したことが無いんですもの」

ミラージュも同意した。

「ええ、そうですね……きっと素晴らしいご馳走が出るんでしょうね……」

そこまで話をしていた時、再びドアをノックされる音が聞こえてきた。


――コンコンコンコン

「まぁ、何でしょう。あのせっかちなノックの音は」

ミラージュは文句を言いながら立ち上がり、ドアを開けると爺やさんが立っていた。手にはバスケットを持っている。

「まあ、爺やさんではありませんか」

立ち上がると声をかけた。

「は、はい……こちらの部屋に伺うのが遅れて申し訳ございません」

爺やさんはペコペコ頭を下げる。

「ええ、全くですわ。仮にもレベッカ様は明アレックス王子とご結婚される方ですよ? あまりにも失礼な態度だとは思いませんか?」

ミラージュはもはや遠慮なしに爺やさんにずけずけ言う。

「は、はい。分かっております。十分反省しております。その……お詫びの意味で……お2人に御飲物を持ってまいりました」

若干声を震わせながら爺やさんがバスケットを差し出してきた。

「これは……?」

ミラージュは怪訝そうに受け取る。

「はい、こちらは特産品の赤ワインでございます」

「まあ! ワインですか!?」

ワインに目がないミラージュの目つきが変わった。

「ありがとうござます! さっそく頂きます! ありがとうございます!」

早くワインが飲みたいミラージュはさりげなくグイグイ爺やさんを押し出し……とうとうドアの外へ出してしまった。

――バタン

扉を閉めたミラージュは私に向き直った。

「さあ! レベッカ様……飲みましょう!」


そして私たちはソファに座ると、ミラージュがワインの栓を開けて、グラスに注ぐ。

トクトクトクトク……

赤い透明な液体がグラスに注がれていく。

「ああ……なんて美しい輝きなんでしょう」

ミラージュはワインを注ぎながらうっとりした目つきになる。

「ええ、本当に美味しそうな色ね」



そして互いにワインを手にした私たち。

「「かんぱーい」」

互いにグラスを打ち付けて、クイッとワインを飲む。
……最高に美味しかった。美味し過ぎて言葉にならない。ミラージュも言葉を無くしている。いけない、このワインは……非常に中毒性がある。
私とミラージュは次から次へとグラスに注いではワインを飲み……。

いつしか、2人はアルコールでフラフラになっていた。
そしてそのまま私もミラージュもソファに倒れこむ。


そして夜が明けた――





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