政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
1-2 出迎えに現れたのは
「レベッカ様、足元にお気をつけて降りて下さいませ」
ミラージュが船から降りる私に手を貸してくれた。
「ありがとう、ミラージュ」
笑顔で返事をすると、若い男性船員さんが声をかけてきた。
「お嬢ちゃんたち、大変だなぁ……2人きりでこの国へやって来たのかい? ほら、荷物だよ」
「まあっ! お嬢ちゃんなんて……モガッ!」
私は咄嗟にミラージュの口を押えた。
「まあ、荷物を降ろして頂いてどうもありがとうございます。女2人でどうやって荷物を降ろそうか困っておりましたので」
「ハハハ……こりゃ、参ったな。こんなに丁寧にお礼を言われたのは初めてだ。それじゃあな」
船員さんは私たちの2人分合わせて10個のトランクケースを足元に置くと船に乗り込んだ。
「どうやらこの国で降りるのは私達だけの様ですね」
ミラージュが耳元で囁いてくる。
「ええ、そうね」
やがて――
「出港だー! イカリを上げろーっ!」
威勢のいい船長さんの声が船から聞こえた。そして数少ない船員さん達が甲板から私達に手を振ってくれる。
「みなさーん、お元気でーっ!」
私とミラージュは3日間お世話になった船員さん達にハンカチを振って別れを告げた。船員さん達は笑って船の上から手を振ってくれる。
ボーッ……
やがて蒸気船は大きな汽笛を鳴らしながら大海原へと消え去って行き、全くひと気の無い桟橋の上に私とミラージュだけが取り残された。
****
青い空に白い雲……遠くで聞こえるカモメの鳴き声に寄せては返す波の音。
「ミラージュ、素敵な国よねぇ……」
うっとりと海を見つめているとミラージュが叫んだ。
「レベッカ様! 何を呑気な事を言ってるのですか!? 仮にも一国の王女様が他国から輿入れに来たと言うのに何故誰も迎えに来ないのですか!? おかしいと思いませんか!?」
ミラージュは怒って地団太を踏んでいる。
「落ち着いて頂戴、ミラージュ。もしかして私達は日程を間違えて来てしまったのかもしれないわ」
すると背後で声が聞こえた。
「いいえ、合っておりますよ。レベッカ王女様」
驚いて振り向くと、そこには黒い燕尾服を着たお爺さんが立っていた。それは何とも桟橋に立つには不釣り合いな恰好だった。
「あの、貴方は……?」
「はい、私はグランダ王国の第二王子であるアレックス様の爺やでございます」
「じ、爺や……。爺やさんがお迎えに来てくださったのですか?」
「はい。私が1人で御者台に乗って馬を駆り、お迎えに参上致しました」
そして深々と頭を下げる。
「な、な、何ですって~っ! いくら何でも酷すぎますっ! 明日レベッカ様はご結婚されるのですよ!? 普通は王子様が直にお迎えに来るべきではありませんかっ!?」
ミラージュは顔を真っ赤にして怒りをまき散らしている。
「お、落ち着いてミラージュ。あまり怒ると頭に血が上ってしまうわよ」
何とか落ち着かせようと宥めるとミラージュが再び叫んだ。
「レベッカ様っ! く、悔しくは無いのですかっ!? 一国の王女様なのに、このような扱いはあまりに酷すぎますっ!」
「そうねぇ……。歓迎されてないって事かしら?」
言いながらチラリと見ると、明らかに爺やさんの肩がビクリとなった。
「あっ! 今見ましたか、レベッカ様っ! 爺やさんの肩が跳ねましたよ! きっと図星なんですよ!」
ミラージュは興奮が止まらない。
「い、いえ! これは年のせいです! 年を取ると時折身体がビクリとなるのですよ」
「落ち着いて、ミラージュ。アレックス様は信頼している爺やさんを迎えに寄越してくれたのだから、きっと迎えに来るのが恥ずかしかったのかもしれないわ。シャイな方なのよ、きっと」
そう、悩んでいても仕方が無い。きっとあの国で暮らしていた頃よりはきっとマシな生活が送れるはず。
この時の私は、まだ今回の政略結婚に密かに希望を持っていた――
ミラージュが船から降りる私に手を貸してくれた。
「ありがとう、ミラージュ」
笑顔で返事をすると、若い男性船員さんが声をかけてきた。
「お嬢ちゃんたち、大変だなぁ……2人きりでこの国へやって来たのかい? ほら、荷物だよ」
「まあっ! お嬢ちゃんなんて……モガッ!」
私は咄嗟にミラージュの口を押えた。
「まあ、荷物を降ろして頂いてどうもありがとうございます。女2人でどうやって荷物を降ろそうか困っておりましたので」
「ハハハ……こりゃ、参ったな。こんなに丁寧にお礼を言われたのは初めてだ。それじゃあな」
船員さんは私たちの2人分合わせて10個のトランクケースを足元に置くと船に乗り込んだ。
「どうやらこの国で降りるのは私達だけの様ですね」
ミラージュが耳元で囁いてくる。
「ええ、そうね」
やがて――
「出港だー! イカリを上げろーっ!」
威勢のいい船長さんの声が船から聞こえた。そして数少ない船員さん達が甲板から私達に手を振ってくれる。
「みなさーん、お元気でーっ!」
私とミラージュは3日間お世話になった船員さん達にハンカチを振って別れを告げた。船員さん達は笑って船の上から手を振ってくれる。
ボーッ……
やがて蒸気船は大きな汽笛を鳴らしながら大海原へと消え去って行き、全くひと気の無い桟橋の上に私とミラージュだけが取り残された。
****
青い空に白い雲……遠くで聞こえるカモメの鳴き声に寄せては返す波の音。
「ミラージュ、素敵な国よねぇ……」
うっとりと海を見つめているとミラージュが叫んだ。
「レベッカ様! 何を呑気な事を言ってるのですか!? 仮にも一国の王女様が他国から輿入れに来たと言うのに何故誰も迎えに来ないのですか!? おかしいと思いませんか!?」
ミラージュは怒って地団太を踏んでいる。
「落ち着いて頂戴、ミラージュ。もしかして私達は日程を間違えて来てしまったのかもしれないわ」
すると背後で声が聞こえた。
「いいえ、合っておりますよ。レベッカ王女様」
驚いて振り向くと、そこには黒い燕尾服を着たお爺さんが立っていた。それは何とも桟橋に立つには不釣り合いな恰好だった。
「あの、貴方は……?」
「はい、私はグランダ王国の第二王子であるアレックス様の爺やでございます」
「じ、爺や……。爺やさんがお迎えに来てくださったのですか?」
「はい。私が1人で御者台に乗って馬を駆り、お迎えに参上致しました」
そして深々と頭を下げる。
「な、な、何ですって~っ! いくら何でも酷すぎますっ! 明日レベッカ様はご結婚されるのですよ!? 普通は王子様が直にお迎えに来るべきではありませんかっ!?」
ミラージュは顔を真っ赤にして怒りをまき散らしている。
「お、落ち着いてミラージュ。あまり怒ると頭に血が上ってしまうわよ」
何とか落ち着かせようと宥めるとミラージュが再び叫んだ。
「レベッカ様っ! く、悔しくは無いのですかっ!? 一国の王女様なのに、このような扱いはあまりに酷すぎますっ!」
「そうねぇ……。歓迎されてないって事かしら?」
言いながらチラリと見ると、明らかに爺やさんの肩がビクリとなった。
「あっ! 今見ましたか、レベッカ様っ! 爺やさんの肩が跳ねましたよ! きっと図星なんですよ!」
ミラージュは興奮が止まらない。
「い、いえ! これは年のせいです! 年を取ると時折身体がビクリとなるのですよ」
「落ち着いて、ミラージュ。アレックス様は信頼している爺やさんを迎えに寄越してくれたのだから、きっと迎えに来るのが恥ずかしかったのかもしれないわ。シャイな方なのよ、きっと」
そう、悩んでいても仕方が無い。きっとあの国で暮らしていた頃よりはきっとマシな生活が送れるはず。
この時の私は、まだ今回の政略結婚に密かに希望を持っていた――