政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

2-7 花嫁は拍手?に包まれて

「あ、あの……どうもありがとうございます……」

ランス王子にお礼を言うと、彼はにっこり笑みを浮かべて神父様に声をかけた。

「そうだ、どうせなら僕がこのまま式が終了するまで新郎の代理をさせて貰う事にするよ。さあ神父様、それでは先ほど言わなかった誓いの言葉を……」

すると神父様は途端に慌て始めた。

「い、いえ……誓いの言葉は……」

「何? ひょっとして誓いの言葉は言わせないつもりなの?」

ニコニコ笑みを浮かべながら神父様に迫るランス王子に私は慌てて止めた。

「お、お待ちくださいっ! ランス王子っ!」

「何? レベッカ」

ランス王子は私を振り向いた。

「あの、アレックス王子様に言われているのです。『お前に永遠の愛は誓わない』と。だから神父様にも同じような事を言われているはずです。そうですよね?」

「はい、そ、その通りです」

神父様はコクコク頷く。

「え……? 何だって?」

ランス王子は眉を顰める。そして、参列者たちもざわめく。

「まあ……事前にそんな事を言われていたなんて……」
「よくそれでも式に臨んだな」
「だからあんな貧相な服しか用意されなかったのね」
「あの王子も人が悪いよ……」

等々。その言葉を聞いていると益々自分が惨めに思えてきた。

「あ、あの~と言うわけで誓いの言葉は無しでお願いします。指輪もはめていただいたので、もう大丈夫です。どうぞ席に戻って下さい」

「……分かったよ……」

ランス王子は溜息をつくと、席へと戻って行く。それを見届けた神父様は咳払いをした。

「コホン。それではこれより婚姻の議を終了致します。新婦のご退場です」

「え? もう終わりですか?!」

驚きのあまり声が大きくなってしまった。

「はい」

「あの、でも結婚証明書にサインをまだ書いていないのですけど?!」

「……サインなら頂いてあります」

神父様は1冊の薄い革張りのアルバムを手渡してきた。

「中に結婚証明書が入っております。アレックス王子様のサインはもう頂いております。後はレベッカ様がサインを入れていただければ結構ですので」

「は、はあ……」

そして私は右手にブーケ、左手に結婚証明書の姿で神父様に頭を下げた。

「どうもありがとうございます……」

そして頭を上げて、私はギョッとなってしまった。何と神父様の目に涙が浮かんでいる。

「あ、あの~…神父様……?」

すると――

「う……う……。なんとお気の毒な結婚式だったのだろう……こんなに惨めで哀れな結婚式は神父になって50年……初めての経験だ」

そしてハラハラと涙を流した。

「え? え? ちょ、ちょと待って下さいっ! 神父様、私ならぜーんぜん、大丈夫です! 平気ですから……どうか泣き止んでください」

「しかし……」

「ええ! 大丈夫ですっ! 式を挙げて貰えただけで私は十分ですから」

ニコニコしながら心にもないことを言った。
はぁ~…。私は自分の心に大嘘つきだ。こんな惨めな結婚式なら、いっそ式なんか挙げてくれなければいいのに。でも私はもう理解してしまった。これは完全なアレックス王子の嫌がらせであると言う事を。何故そこまでの事をするのか理解できないけれども、こうなったら逆手に取るしかない。
私は深呼吸すると参列席を振り返り、大きな声を張り上げた。

「式に参加された御集りの皆さまっ! このように前代未聞のサプライズな結婚式を用意して頂いたアレックス王子に感謝したいと思います! どうもありがとうございました!」

そしてにこやかに手を振った。

「うん、いいね~その笑顔、最高だよ!」

ランス王子が拍手をすると参列者たちも拍手を始めた。神父様も拍手する。参列席の一番後ろにいたミラージュは立ち上がって拍手をしていた。
そして私は皆の拍手に包まれて、元気よく出口に向かってヴァージンロードを1人で歩き始めた。

そうよ! 私はあの偉大な一族である母の娘、レベッカ・ヤング。こんなことくらいで負けないんだから。

バンッ!!

そして私は扉を開けて、新たな一歩を踏み出した――

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