政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

2-11 訪ねると、王子はベッドの中だった

「こちらがアレックス王子のお部屋でございます」

「は、はあ……」

 メイド長に案内されて向かったアレックス皇子の部屋は私の部屋から15部屋離れた場所にあった。
所要時間は約3分。

3分?

 短いと思われるかもしれないけれど、これが直線距離の3分と言うのは結構長い距離に感じられる。それにしても一応? 私はアレックス王子と夫婦になったはずなのに、ここまで互いの部屋に距離を取られるとは思わなかった。そこにアレックス王子が断固として私とは顔を合わせたくないという強い意志を感じ取られる。なのに何故結婚式に顔も見せなかった王子がわざわざ私をここまで呼んだのか……? 皆目見当がつかない。

等と入口の前でぼんやり考え事をしているとメイド長が背後から声をかけてきた。

「レベッカ様。お帰りの際は大丈夫ですよね? くるりとこちらを向いて頂き、真っすぐ歩いて頂ければお部屋に戻れますので」

ここまで真っすぐ歩いて来たのに、何故かメイド長は丁寧に説明をしてくれた。

「ええ、大丈夫よ。案内してくれてありがとう」

笑顔で言うと、メイド長は一瞬ハッとした顔になり……。

「で、では失礼致しますっ!」

そしてあたふたと去って行った。さて……いよいよアレックス王子とのご対面か……。

すぅ~……

私は深呼吸するとドアをノックした。

コンコン

し~ん……

まるで無反応だ。ではもう一度……。

コンコン

それでも中から返事が無い。ならば……。

ドンドンッ!!

すると……。

「うるさいっ! 鍵はかかっていないっ! 勝手に部屋に入って来い!」

そこで私はドアノブに手を掛けた。

カチャリ……

「失礼致します。アレックス王子さ……ま……」

そこで私は目を見開いた。何と、昼間からカーテンが閉められた広々とした薄暗い部屋に上半身裸のアレックス王子がベッドで横になり、こちらをじっと睨み付けていたのだ。そしてその隣には彼の影に隠れて良く見えないが、長い髪の女性が背中を向けて眠っている様子が窺えた。

こ、これは……。

「あの! お忙しいところ、お邪魔してしまい申し訳ございませんでした! また後程改めて伺います!」

頭を下げて部屋を出て行こうとした。するといきなり呼び止められた。

「ちょっと待てっ!」

「はい、何でしょう?」

足を止めてアレックス王子の方を向く。

「お前……この状況を見て何とも思わないのか?」

アレックス王子は溜息をついて身体を起こすとベッドの中でガウンを羽織り、私をジロリと睨み付けた。

「はい。お忙しいのだろうと思いましたが?」

首を傾げてアレックス王子を見る。ベッドの女性は眠っているのか、片時もこちらを振り向かない。

「ああ……すご~く忙しかった。何せ、とても充実した時間を過ごしていたからな」

アレックス王子はニヤリと笑みを浮かべた。

「そうですか、お陰様で私も充実した時間を過ごす事が出来ました」

私もニコリと笑みを浮かべる。

「!お、お前……っ!」

アレックス王子は一瞬驚愕の表情を浮かべるとベッドから起き上がり、私に近づいて来た。そして数歩手前で足を止めるといきなり指さしてくる。

「おい! お前、調子に乗るなよ? 俺とお前が結婚したのは確かにお前の国に眠っているダイヤの採掘権を得る為に、婚姻関係を結ぶことになったが! 所詮お前たちのような弱小国では大掛かりなダイヤの採掘を行うだけの財力が無いだろう? だからこそ後ろ盾になってやる為にお前のような女と婚姻し、同盟を結んでやったのだ。いいか? くれぐれも勘違いするな。我らはお前たちの国を救済する為に仕方なくお前と言う女を嫁に迎え入れただけの事。この国に嫁いできた以上自分の立場をわきまえ、くれぐれも思い上がった真似をするなよ? 分ったか!」

「はい……分かりました」

私は渋々返事をした。

何だ、くだらない……そんな事を言う為にわざわざ私をここまで呼んだのだろうか?
どうせこんな事しても無駄なのに。あの国から私が消えたのだから、恐らくもうオーランド王国からダイヤの採掘は不可能だろう。その代り、直にこの国でダイヤが発見される事になるはずなのだから。

まぁ、採掘量は私にどれだけ親切にしたかで変化するけど。

「だったらいつまでもそんな花嫁姿のような恰好をするな! 何故未だに着替えていないのだ!?」

王子の説教? はまだ続く。しかし、その声が大きかったのだろう。女性が瞼を擦りながら起き上がった。

「え……? 何……? アレックス様……キャッ!!」

女性は私の姿を見て悲鳴を上げるとキルトを被ってしまった。しかし、そんな様子を意に介さずアレックス王子。

「早く答えろっ!」

「だって仕方ないんです。メイド長とメイドの連絡不行き届きで私の着る服が1着も無いのですから。お昼もまだ頂いていません」

すると少し冷静になったのか、アレックス王子が首を傾げる。

「何? メイドとメイド長の連携が取れていないのか?」

「はい、そうです」

「ふむ……よし、ならいい事を考え付いた!」

いい事……? アレックス王子のいい事と言われても嫌な予感しか湧いてこないのですけど。

「この俺がお前に専属メイドをつけてやろう、さあ! 存分に感謝するがいい!」

そしてアレックス王子は身体をのけぞらせ、偉そうに言い切った――
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