政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
3-7 アレックス王子の咆哮
「隣の国『ガーナード王国』から招待を受けた。1週間後に独立記念日のパーティーを開催するので、夫婦で参加するようにと」
アレックス王子は忌々し気に背後にある黒塗りに光った高級机に載っている封筒をチラリと見た。ガーナード王国? ガーナード王国……。う~ん……どこかで聞いたことがあるような国の名前だ。でも隣国なら一度は耳にしたことがあるだろう。
「はぁ……そうですか。ではどうぞ行ってらして下さい」
何だ、そんな事で呼んだのか。
「は? どうぞってお前……」
アレックス王子は唖然とした顔で私を見ている。
「要件は以上ですか? では私は下がらせて頂きます」
そして背中を向けたところ……。
「ちょっと待てぃっ!!」
慌てた声で呼び止められた。
「はい……? まだ何か御用でしょうか?」
向き直り改めて尋ねた。
「お前、馬鹿なのか? 俺の話を聞いていたのか? 独立記念日のパーティーに夫婦で参加するように求められているのだぞ? それなのにどうぞ行ってらして下さいとは一体どういうつもりだ?」
「ですが相手の国は私の顔を知らないわけですよね? 1人で結婚式に臨んだ時、これは後から聞いた話ですが、隣国からは誰も出席されていなかったそうです。それなら私が妻だと言う事をガーナード王国の人々は誰も知らないと言う事ですよね? 何しろこの城に勤める人々も国民もアレックス王子の妻である私の顔を知らないのですから」
「は? お前さっきか何を言っているんだ? 国民はどうか知らんが、王宮勤めの者達は皆お前が何者か知っているだろう?」
その言葉を聞いて私はわざと驚いた素振りをして見せた。
「まあ! 本当ですか? てっきり誰も知らないと思っていました。だって皆さん私とすれ違っても挨拶すらしないのですよ? おまけに常にほったらかしにされて、お掃除にすら来てくれる人がいないので、私とミラージュでいつも部屋のお掃除と洗濯をしているのですから。なので連れて行くのであればアレックス王子の愛人でもどなたでも選ばれて行けばよろしいではありませんか? 私がわざわざ行く必要はありませんよね?」
そう。実は2週間ほど前から誰も私の部屋に掃除に来るメイドが来なくなってしまったのだ。先ほど解雇されたカーラもずっと姿を見せなかったし、そして頼りにしていたメイド長は結婚し、今はハネムーンに行っている。
さらに私は侍女長から馬鹿にされていた。以前に一度彼女の前を通り過ぎた時、足を引っかけられて転ばされそうになったのだ。恐らく爵位が高い彼女は私みたいな人間にかしずくなんてプライドが許さないのだろう。でもそんな話は絶対にミラージュの耳には入れたくない。
するとアレックス王子の顔に戸惑いの色が現れた。
「何? お前、洗濯も部屋の掃除もお前の侍女と2人でやっていたのか?」
「ええ、そうです。でも別にいいんですけどね。どうせ1日中、暇ですることも無かったのですから。掃除や洗濯をしていれば時間が経つのは早いですからね。まあたまには慈善事業やチャリティーで町へ行く事もありますが」
ミラージュの話では、普通他国に嫁いだ王女はそこで様々な教育を受けると聞いたけど、私は一度たりともこの国へ来て教育を受けたことなどない。
「フン、そうか。それなら毎日充実しているな? 良かったじゃないか」
「ええ、ですから忙しいので私は行きません。なので先程も申しあげた通り、ガーナード王国には別の女性を妻と称して参加すればよいではありませんか。それに私は何の教育も受けておりませんので、私を伴えば逆にアレックス王子様が恥ずかしい思いをされますよ?」
「お、お前は本気でそんな事を言っているのか!? 相手は王族だぞ? その王族を相手に騙せと言うのか? 確かにお前の顔は知られていないが、でも万一他の女を連れて行って偽物だと分かれば大変な事になるんだぞっ!」
アレックス王子は顔を真っ赤にしながら喚く。
「でも、そうなると誰が私の部屋の掃除と洗濯をしてくれるのですか?そ れに教養だってありませんよ?」
「う……そ、それは……」
アレックス王子は苦しそうにしている。それを見て私はさらに追い込んだ。
「私はこの国では石ころのような存在で、この城で働く人々からは認識すらされていません。ガーナード王国の人たちからも恐らく私が妻だと認識されないでしょう。だったら私を連れていくよりはアレックス王子と親しい女性を連れていけば宜しいでは無いですか。まぁ……それでもどうしても私を連れていくと言うのであれば、掃除と洗濯を任せられるメイドと、私に教養を身に付けさせてくれる先生を与えて下されば参加しても大丈夫かもしれませんが?」
するとアレックス王子は観念したのか、やけくそのように言った。
「わ、分かった! 使用人たちに対するお前の扱いを改めるように指導する! 家庭教師もつけるっ! だから必ず独立記念日にはお前も参加するんだぞ? いいなっ!?」
やった! ついに部屋の掃除と洗濯から免れる! それに教育の権利を手に入れる事が出来た!
「はい、分かりました。ちゃんと約束を守って下さるなら参加致します。それでは失礼致します」
心の笑みを隠しつつ、深々と頭を下げて部屋を出た直後――
「畜生~っ!!」
悔しがって叫ぶアレックス王子の咆哮が響き渡った。その後に続く、何やら物が倒れるような大きな音。フフ……相当イライラしているようだ。
私は気分よく鼻歌を歌いながら自室へと帰って行った――
アレックス王子は忌々し気に背後にある黒塗りに光った高級机に載っている封筒をチラリと見た。ガーナード王国? ガーナード王国……。う~ん……どこかで聞いたことがあるような国の名前だ。でも隣国なら一度は耳にしたことがあるだろう。
「はぁ……そうですか。ではどうぞ行ってらして下さい」
何だ、そんな事で呼んだのか。
「は? どうぞってお前……」
アレックス王子は唖然とした顔で私を見ている。
「要件は以上ですか? では私は下がらせて頂きます」
そして背中を向けたところ……。
「ちょっと待てぃっ!!」
慌てた声で呼び止められた。
「はい……? まだ何か御用でしょうか?」
向き直り改めて尋ねた。
「お前、馬鹿なのか? 俺の話を聞いていたのか? 独立記念日のパーティーに夫婦で参加するように求められているのだぞ? それなのにどうぞ行ってらして下さいとは一体どういうつもりだ?」
「ですが相手の国は私の顔を知らないわけですよね? 1人で結婚式に臨んだ時、これは後から聞いた話ですが、隣国からは誰も出席されていなかったそうです。それなら私が妻だと言う事をガーナード王国の人々は誰も知らないと言う事ですよね? 何しろこの城に勤める人々も国民もアレックス王子の妻である私の顔を知らないのですから」
「は? お前さっきか何を言っているんだ? 国民はどうか知らんが、王宮勤めの者達は皆お前が何者か知っているだろう?」
その言葉を聞いて私はわざと驚いた素振りをして見せた。
「まあ! 本当ですか? てっきり誰も知らないと思っていました。だって皆さん私とすれ違っても挨拶すらしないのですよ? おまけに常にほったらかしにされて、お掃除にすら来てくれる人がいないので、私とミラージュでいつも部屋のお掃除と洗濯をしているのですから。なので連れて行くのであればアレックス王子の愛人でもどなたでも選ばれて行けばよろしいではありませんか? 私がわざわざ行く必要はありませんよね?」
そう。実は2週間ほど前から誰も私の部屋に掃除に来るメイドが来なくなってしまったのだ。先ほど解雇されたカーラもずっと姿を見せなかったし、そして頼りにしていたメイド長は結婚し、今はハネムーンに行っている。
さらに私は侍女長から馬鹿にされていた。以前に一度彼女の前を通り過ぎた時、足を引っかけられて転ばされそうになったのだ。恐らく爵位が高い彼女は私みたいな人間にかしずくなんてプライドが許さないのだろう。でもそんな話は絶対にミラージュの耳には入れたくない。
するとアレックス王子の顔に戸惑いの色が現れた。
「何? お前、洗濯も部屋の掃除もお前の侍女と2人でやっていたのか?」
「ええ、そうです。でも別にいいんですけどね。どうせ1日中、暇ですることも無かったのですから。掃除や洗濯をしていれば時間が経つのは早いですからね。まあたまには慈善事業やチャリティーで町へ行く事もありますが」
ミラージュの話では、普通他国に嫁いだ王女はそこで様々な教育を受けると聞いたけど、私は一度たりともこの国へ来て教育を受けたことなどない。
「フン、そうか。それなら毎日充実しているな? 良かったじゃないか」
「ええ、ですから忙しいので私は行きません。なので先程も申しあげた通り、ガーナード王国には別の女性を妻と称して参加すればよいではありませんか。それに私は何の教育も受けておりませんので、私を伴えば逆にアレックス王子様が恥ずかしい思いをされますよ?」
「お、お前は本気でそんな事を言っているのか!? 相手は王族だぞ? その王族を相手に騙せと言うのか? 確かにお前の顔は知られていないが、でも万一他の女を連れて行って偽物だと分かれば大変な事になるんだぞっ!」
アレックス王子は顔を真っ赤にしながら喚く。
「でも、そうなると誰が私の部屋の掃除と洗濯をしてくれるのですか?そ れに教養だってありませんよ?」
「う……そ、それは……」
アレックス王子は苦しそうにしている。それを見て私はさらに追い込んだ。
「私はこの国では石ころのような存在で、この城で働く人々からは認識すらされていません。ガーナード王国の人たちからも恐らく私が妻だと認識されないでしょう。だったら私を連れていくよりはアレックス王子と親しい女性を連れていけば宜しいでは無いですか。まぁ……それでもどうしても私を連れていくと言うのであれば、掃除と洗濯を任せられるメイドと、私に教養を身に付けさせてくれる先生を与えて下されば参加しても大丈夫かもしれませんが?」
するとアレックス王子は観念したのか、やけくそのように言った。
「わ、分かった! 使用人たちに対するお前の扱いを改めるように指導する! 家庭教師もつけるっ! だから必ず独立記念日にはお前も参加するんだぞ? いいなっ!?」
やった! ついに部屋の掃除と洗濯から免れる! それに教育の権利を手に入れる事が出来た!
「はい、分かりました。ちゃんと約束を守って下さるなら参加致します。それでは失礼致します」
心の笑みを隠しつつ、深々と頭を下げて部屋を出た直後――
「畜生~っ!!」
悔しがって叫ぶアレックス王子の咆哮が響き渡った。その後に続く、何やら物が倒れるような大きな音。フフ……相当イライラしているようだ。
私は気分よく鼻歌を歌いながら自室へと帰って行った――