政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
1-5 初の顔合わせ
爺やさんに連れられて使用人の通用口を歩いていると、お仕着せを来た大勢のメイドさん達が通り過ぎた。
彼女たちはアレックス王子様の爺やさんが私とミラージュを連れて歩いている姿を見てギョッとした顔をして、次に慌てて頭を下げてきた。
「何だかまるで私達見世物の様ですね」
ミラージュがそっと耳打ちしてきたけど、私もそう思う。逆にこんな通用口を歩いていたら、かえってメイドさん達やフットマン達に気を遣わせてしまう気がするけど、きっと爺やさんはアレックス皇子の決定事項に逆らえないのだろう。
細長い通路を歩き続け、ようやく床に真っ赤なカーペットが敷き詰められた王宮の内部に辿り着き、私とミラージュは目を見張った。
「凄いですね。オーランド王国のお城がすっぽりまるまる入ってしまいそうな大きさですよ」
「ええ、それどころかもっと大きいかもしれないわ。落ち着いたらお城の中を歩いてみたいわね」
等々……ミラージュと乙女トークを繰り広げながら長い廊下を歩き続けていると、突如爺やさんが足を止めた。見ると大きな真っ白な扉が私達の目の前にそびえ立っている。
「こちらの扉の奥にアレックス王子様がいらっしゃいます」
爺やさんの言葉に私とミラージュは姿勢を正した。
「ではノックをしますぞ?」
妙にもったいつけた言い方をする爺やさん。
「はい、お願いします」
私は直立不動のまま返事をした。
コンコン
「誰だ?」
中から男性の声が聞こえる。
「私です、爺やでございます」
おおっ! 自分の事を『爺や』と呼ぶなんて。ミラージュもそう思ったのか、爺やだって……と呟きながら肩を震わせている。恐らく笑っているのだろう。
「ああ、爺やか。入ってくれ」
なんと! アレックス王子まで爺やと呼んでる。これってひょっとして世間では一般的な事なのだろうか?
「失礼致します」
爺やさんはドアノブに手を掛けると回して扉を開けた。そこはまるで広間を思わせるような広々とした部屋で、床には青いカーペットが敷き詰められている。
そしてアーチ形の大きな掃き出し窓を背に、腕組みをした栗毛色の髪の男性が立っていた。きっとこの方がアレックス王子なのだろう。
アレックス王子は全身白づくめだった。フロックコートもベストもトラウザーズも何もかも白で、汚れが目立つんじゃないかな~等と思いながら挨拶をした。
「はじめてお目にかかります。この度、オーランド王国よりこちらに花嫁として参りましたレベッカ・ヤングと申します。どうぞよろしくお願い致します。こちらは私の侍女のミラージュです」
「ミラージュと申します。どうぞよろしくお願い致します」
そして私とミラージュは深々とお辞儀をすると――
「チッ!」
え? 舌打ち……?
思わず顔を上げると、そこには機嫌の悪さを微塵も隠さずにこちらを睨み付けているアレックス王子が立っていた。
「おい、爺や。その女を連れて部屋の外へ出ていろ」
顎でしゃくりながら命令を下す。
「は?」
気の強いミラージュはあからさまに不満げな顔でアレックス王子を見た。
「何だ? お前のその反抗的な目つきは。たかが侍女の分際でいい度胸をしているな」
するとミラージュも黙っていない。
「はい? ただの侍女と申されましたが、私の主はここにいらっしゃいますレベッカ様です。私に命令を下せるのはレベッカ様だけです」
「何……?」
アレックス王子の眉がピクリと動いた。た、大変このままでは……恐ろしい事になってしまう!
爺やさんはオロオロしているし、今まさにアレックス王子とミラージュは互いに火花を散らしている。
「ミラージュ落ち着いて。アレックス王子様の言う通りにしてくれる?」
何とかミラージュを宥める。
「……まあ、仕方がありませんね……レベッカ様がそうおっしゃるのであれば」
ミラージュは明らかに不満気にしていたが、渋々爺やさんと部屋を出て行った。
部屋のドアが閉じられると、広すぎる部屋に私とアレックス王子のみが残された。
「全く……諦めて国へ帰ると思っていたのに」
「え?」
「本当に噂通り図々しい女だったのだな、お前は」
そして軽蔑の眼差しを向けてくる。
まさかの初対面で私は自分の夫となる相手に暴言を吐かれてしまった――
彼女たちはアレックス王子様の爺やさんが私とミラージュを連れて歩いている姿を見てギョッとした顔をして、次に慌てて頭を下げてきた。
「何だかまるで私達見世物の様ですね」
ミラージュがそっと耳打ちしてきたけど、私もそう思う。逆にこんな通用口を歩いていたら、かえってメイドさん達やフットマン達に気を遣わせてしまう気がするけど、きっと爺やさんはアレックス皇子の決定事項に逆らえないのだろう。
細長い通路を歩き続け、ようやく床に真っ赤なカーペットが敷き詰められた王宮の内部に辿り着き、私とミラージュは目を見張った。
「凄いですね。オーランド王国のお城がすっぽりまるまる入ってしまいそうな大きさですよ」
「ええ、それどころかもっと大きいかもしれないわ。落ち着いたらお城の中を歩いてみたいわね」
等々……ミラージュと乙女トークを繰り広げながら長い廊下を歩き続けていると、突如爺やさんが足を止めた。見ると大きな真っ白な扉が私達の目の前にそびえ立っている。
「こちらの扉の奥にアレックス王子様がいらっしゃいます」
爺やさんの言葉に私とミラージュは姿勢を正した。
「ではノックをしますぞ?」
妙にもったいつけた言い方をする爺やさん。
「はい、お願いします」
私は直立不動のまま返事をした。
コンコン
「誰だ?」
中から男性の声が聞こえる。
「私です、爺やでございます」
おおっ! 自分の事を『爺や』と呼ぶなんて。ミラージュもそう思ったのか、爺やだって……と呟きながら肩を震わせている。恐らく笑っているのだろう。
「ああ、爺やか。入ってくれ」
なんと! アレックス王子まで爺やと呼んでる。これってひょっとして世間では一般的な事なのだろうか?
「失礼致します」
爺やさんはドアノブに手を掛けると回して扉を開けた。そこはまるで広間を思わせるような広々とした部屋で、床には青いカーペットが敷き詰められている。
そしてアーチ形の大きな掃き出し窓を背に、腕組みをした栗毛色の髪の男性が立っていた。きっとこの方がアレックス王子なのだろう。
アレックス王子は全身白づくめだった。フロックコートもベストもトラウザーズも何もかも白で、汚れが目立つんじゃないかな~等と思いながら挨拶をした。
「はじめてお目にかかります。この度、オーランド王国よりこちらに花嫁として参りましたレベッカ・ヤングと申します。どうぞよろしくお願い致します。こちらは私の侍女のミラージュです」
「ミラージュと申します。どうぞよろしくお願い致します」
そして私とミラージュは深々とお辞儀をすると――
「チッ!」
え? 舌打ち……?
思わず顔を上げると、そこには機嫌の悪さを微塵も隠さずにこちらを睨み付けているアレックス王子が立っていた。
「おい、爺や。その女を連れて部屋の外へ出ていろ」
顎でしゃくりながら命令を下す。
「は?」
気の強いミラージュはあからさまに不満げな顔でアレックス王子を見た。
「何だ? お前のその反抗的な目つきは。たかが侍女の分際でいい度胸をしているな」
するとミラージュも黙っていない。
「はい? ただの侍女と申されましたが、私の主はここにいらっしゃいますレベッカ様です。私に命令を下せるのはレベッカ様だけです」
「何……?」
アレックス王子の眉がピクリと動いた。た、大変このままでは……恐ろしい事になってしまう!
爺やさんはオロオロしているし、今まさにアレックス王子とミラージュは互いに火花を散らしている。
「ミラージュ落ち着いて。アレックス王子様の言う通りにしてくれる?」
何とかミラージュを宥める。
「……まあ、仕方がありませんね……レベッカ様がそうおっしゃるのであれば」
ミラージュは明らかに不満気にしていたが、渋々爺やさんと部屋を出て行った。
部屋のドアが閉じられると、広すぎる部屋に私とアレックス王子のみが残された。
「全く……諦めて国へ帰ると思っていたのに」
「え?」
「本当に噂通り図々しい女だったのだな、お前は」
そして軽蔑の眼差しを向けてくる。
まさかの初対面で私は自分の夫となる相手に暴言を吐かれてしまった――