政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
4-2 認識されない私
ロマンスグレーの男性に連れて来られた部屋はとても立派な部屋だった。
壁には巨大な1枚の風景画……恐らくこの城の絵が飾られているし、大きな掃き出し窓には重厚そうな紺色のドレープカーテンが引かれている。
首が痛くなるほどに高い天井には眩しい位のシャンデリアが光り輝いていた。そして白地に金のフレームがはめ込まれた壁に思わず見惚れてしまった。
「うわぁ……凄い部屋ですねぇ……」
感心して辺りを見渡しているとアレックス王子に注意された。
「おい、あまりキョロキョロするな。みっともないっ!」
その時、私達の背後で声が聞こえた。
「よくぞ来てくれたな、わが友アレックスよ!」
振り向くとそこには、紺地に金の刺繍を施したジュストコールに白のトラウザー、金色のクラヴァットをゆったりと結んだ衣装を着こんだ男性がにこやかな笑顔で立っていた。
「サミュエル……」
そんなサミュエル王子をアレックス王子は憎々し気に睨み付けながら名を呼んだ。
「まあまあ、久しぶりに会ったと言うのにそんな険しい目で俺を見るな。仮にも親友だろう? 俺たちは」
「誰が親友だ」
しかし、サミュエル王子はアレックス王子の言葉を気に留める事も無く、今度は私を見ると首を傾げた。
「おや……?ところで君は誰なんだい? アレックス王子の侍女か? それにしても……」
「は?」
え……? 侍女?
もしかしてサミュエル王子は私の事を侍女だと思っているのだろうか?
今の私はへアスタイルをセットすることもしていないし、アクセサリーは一切何も身に着けていない。
服装だって、地味なデザインで紺色のボリュームが少ない床下までのエプロンドレスを着ている。確かにこれでは地味過ぎてはた目からは侍女に見えてしまうかもしれない。
でも、あまりまともなドレスを持っていない私はこれでも精一杯まともなドレスを吟味して着てきたつもりだったのだけど……。アレックス王子も何も言わなかったから、このドレスで充分だと思っていたのに。
やはり地味過ぎたのかもしれない。
「あの……私は侍女では……」
しかしサミュエル王子は私の話が途中なのにも関わらず、サッと視線を外すとアレックス王子と話を始めた。
「アレックス。お前どうして侍女だけここへ連れてきて妻を連れて来なかったんだ? 俺は別に侍女には用は無いぞ? お前、先月結婚したんだろう? しかも俺が耳にした話によると、前代未聞の結婚式だったらしいじゃないか? 招待客はほんの一部の親戚のみで、おまけに花嫁だけの結婚式だったらしいが……その話は本当か?」
「ああ、そうだ。どうせ俺にとってはどうでもよい結婚だったからな。それなのに何故わざわざ結婚式を挙げなくちゃならないんだ?」
アレックス王子は私がいるのに、堂々と自分の本音を語っている。
「なるほど。それで妻を部屋に残してきたのか? 仕方ない奴だな……。おい、早く連れて来いよ。どんな顔か拝みたいからな」
サミュエル王子はニヤニヤしている。
しかし、アレックス王子は呆れたような顔をサミュエル王子に向け、次に私にチラリと視線を移した。
ほほう……なるほど、自分で挨拶しろと言いたいのですか。ならば……。
「どうぞ」
私はサミュエル王子の前に進み出た。
「へ?」
サミュエル王子は私をポカンとした目で見ている。
「私がアレックス王子の妻です。どうぞ思う存分拝んでください」
両手を広げサミュエル王子を見た。
「え……? ええ~っ!!」
次の瞬間。
室内にサミュエル王子の驚愕の声が響き渡った――
****
長いテーブルに向かい合わせに座るサミュエル王子を私はチラリ見た。それにしてもあの長い髪……綺麗だなぁ……きっと解けば美人さんになるに違いない。
2人は私をそっちのけで会話をしている。
「本当に俺の誘いに乗ってこの国に来てくれるとは思わなかったよ。会えて嬉しいよ。アレックス」
「フン! 俺がこの国に来たくて来たわけじゃないのはお前が良く知っているだろう? 全く卑怯者の最低男めっ! 俺がどれ程お前を憎んでいるか分っているくせに、よくも抜け抜けと招待してくるとは……っ!」
アレックス王子は視線すら合わせないで目の前のサミュエル王子に毒舌を吐く。
……それにしてもいつになったら食事が出て来るのだろう? 私は先ほどからキャンドルしか乗っていない、美しいえんじ色をしたジャガード織りの薔薇模様テーブルクロスをじっと見つめていた。
ひょっとするとサミュエル王子はこの美しいテーブルクロスを見せる為だけに呼んだのだろうか? アレックス王子はお昼すら食べていないのだから、なおさらお腹が空いているに違いないのに、いまだに食事が出てくる気配すら感じない。
恐らくアレックス王子は意地っ張りなので食事を頼む事が出来ないのだろう。
やれやれ……。
もアレックス王子と言い、サミュエル王子と言い、嫌がらせの方法がよく似ているなぁ……。こうなったら私が食事を頼むしかないだろう。
「あの~……すみません……」
私は白熱した議論に夢中になっている2人に向かって声をかけた――
壁には巨大な1枚の風景画……恐らくこの城の絵が飾られているし、大きな掃き出し窓には重厚そうな紺色のドレープカーテンが引かれている。
首が痛くなるほどに高い天井には眩しい位のシャンデリアが光り輝いていた。そして白地に金のフレームがはめ込まれた壁に思わず見惚れてしまった。
「うわぁ……凄い部屋ですねぇ……」
感心して辺りを見渡しているとアレックス王子に注意された。
「おい、あまりキョロキョロするな。みっともないっ!」
その時、私達の背後で声が聞こえた。
「よくぞ来てくれたな、わが友アレックスよ!」
振り向くとそこには、紺地に金の刺繍を施したジュストコールに白のトラウザー、金色のクラヴァットをゆったりと結んだ衣装を着こんだ男性がにこやかな笑顔で立っていた。
「サミュエル……」
そんなサミュエル王子をアレックス王子は憎々し気に睨み付けながら名を呼んだ。
「まあまあ、久しぶりに会ったと言うのにそんな険しい目で俺を見るな。仮にも親友だろう? 俺たちは」
「誰が親友だ」
しかし、サミュエル王子はアレックス王子の言葉を気に留める事も無く、今度は私を見ると首を傾げた。
「おや……?ところで君は誰なんだい? アレックス王子の侍女か? それにしても……」
「は?」
え……? 侍女?
もしかしてサミュエル王子は私の事を侍女だと思っているのだろうか?
今の私はへアスタイルをセットすることもしていないし、アクセサリーは一切何も身に着けていない。
服装だって、地味なデザインで紺色のボリュームが少ない床下までのエプロンドレスを着ている。確かにこれでは地味過ぎてはた目からは侍女に見えてしまうかもしれない。
でも、あまりまともなドレスを持っていない私はこれでも精一杯まともなドレスを吟味して着てきたつもりだったのだけど……。アレックス王子も何も言わなかったから、このドレスで充分だと思っていたのに。
やはり地味過ぎたのかもしれない。
「あの……私は侍女では……」
しかしサミュエル王子は私の話が途中なのにも関わらず、サッと視線を外すとアレックス王子と話を始めた。
「アレックス。お前どうして侍女だけここへ連れてきて妻を連れて来なかったんだ? 俺は別に侍女には用は無いぞ? お前、先月結婚したんだろう? しかも俺が耳にした話によると、前代未聞の結婚式だったらしいじゃないか? 招待客はほんの一部の親戚のみで、おまけに花嫁だけの結婚式だったらしいが……その話は本当か?」
「ああ、そうだ。どうせ俺にとってはどうでもよい結婚だったからな。それなのに何故わざわざ結婚式を挙げなくちゃならないんだ?」
アレックス王子は私がいるのに、堂々と自分の本音を語っている。
「なるほど。それで妻を部屋に残してきたのか? 仕方ない奴だな……。おい、早く連れて来いよ。どんな顔か拝みたいからな」
サミュエル王子はニヤニヤしている。
しかし、アレックス王子は呆れたような顔をサミュエル王子に向け、次に私にチラリと視線を移した。
ほほう……なるほど、自分で挨拶しろと言いたいのですか。ならば……。
「どうぞ」
私はサミュエル王子の前に進み出た。
「へ?」
サミュエル王子は私をポカンとした目で見ている。
「私がアレックス王子の妻です。どうぞ思う存分拝んでください」
両手を広げサミュエル王子を見た。
「え……? ええ~っ!!」
次の瞬間。
室内にサミュエル王子の驚愕の声が響き渡った――
****
長いテーブルに向かい合わせに座るサミュエル王子を私はチラリ見た。それにしてもあの長い髪……綺麗だなぁ……きっと解けば美人さんになるに違いない。
2人は私をそっちのけで会話をしている。
「本当に俺の誘いに乗ってこの国に来てくれるとは思わなかったよ。会えて嬉しいよ。アレックス」
「フン! 俺がこの国に来たくて来たわけじゃないのはお前が良く知っているだろう? 全く卑怯者の最低男めっ! 俺がどれ程お前を憎んでいるか分っているくせに、よくも抜け抜けと招待してくるとは……っ!」
アレックス王子は視線すら合わせないで目の前のサミュエル王子に毒舌を吐く。
……それにしてもいつになったら食事が出て来るのだろう? 私は先ほどからキャンドルしか乗っていない、美しいえんじ色をしたジャガード織りの薔薇模様テーブルクロスをじっと見つめていた。
ひょっとするとサミュエル王子はこの美しいテーブルクロスを見せる為だけに呼んだのだろうか? アレックス王子はお昼すら食べていないのだから、なおさらお腹が空いているに違いないのに、いまだに食事が出てくる気配すら感じない。
恐らくアレックス王子は意地っ張りなので食事を頼む事が出来ないのだろう。
やれやれ……。
もアレックス王子と言い、サミュエル王子と言い、嫌がらせの方法がよく似ているなぁ……。こうなったら私が食事を頼むしかないだろう。
「あの~……すみません……」
私は白熱した議論に夢中になっている2人に向かって声をかけた――