政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

4-14 これは脅迫ではありません

「これは……そう、治療だっ!」

「「治療?」」

私とサミュエル王子は声を揃えて尋ねた。

「そう、治療だ。昨夜パーティー会場で知り合ったこの女性は風邪を引いて酷く寒がっていたのだ。だから部屋に招いて……そう、人肌で……そ、その……温め合っていたと言うわけだっ!」

何とも聞いていてあまりにも苦しすぎる言い訳をしている。

「そうですか……風邪を引いていたから温めていたと。それでは私はどうなのでしょう? 昨日朝から風邪を引いていたのはご存じでしたよね? 何故私の事は放置でそちらの女性には看病を?」

さて、次は一体どんな言い訳話が飛び出してくるのか……私はワクワクしながら次の言葉を待った。

「アレックス。我々が納得できるように説明してくれ」

サミュエル王子も笑いを堪えながらアレックス王子に話しかけている様子が手に取るように分かる。

「そ、それは……」

「「うん、うん。それは??」」

同時に話を促す私とアレックス王子。

「し……身長の違いだっ!」

「は……?」

「身長の違いですか……?」

アレックス王子と私の呆れたような言葉を意も介さずにアレックス王子は得意げに語る。

「ああ、そうだ。お前はあまりに背が小さすぎて、俺が温めてやるには不都合だ。だが……彼女は俺と身長のつり合いがよく取れている。だからこうやって……温め……」

すると――

「いい加減にしてくださいっ! 私は今裸同然の姿で……こんな人前で恥を晒されるような事をされるなんて……あんまりです!」

ブランケットの中からジョディ夫人が喚いている。う~ん確かにこれは女性にとって非常に恥ずかしい状態に置かれているかもしれない。

「はい、分りました。ではこちらのジョディ夫人がベッドから出て着替えしやすい様に私達はこの部屋から退出しましょう」

私の言葉に、サミュエル王子が賛同した。

「そうだな。こちらのジョディ夫人の名誉を守る為に我々は退出するとしよう。さ、アレックス。お前も出るんだよ!」

「ば、ばか! よせっ!!」

アレックス王子は無理矢理サミュエル王子に腕を引っ張られ……。

ドスッ!

下着姿のまま床に転がり落ちてしまった。

「う……イタタタ……。こ、腰を打った……。おい! サミュエルッ! お前、何て事してくれるんだっ!? 使い物にならなかったらどうしてくれる!」


「別にいいじゃないですか。使い物にならなくなっても」

年がら年中、発情しているよりは使い物にならなくなったほうが世のためだ。

「なんだと!」

私の言葉にアレックス王子は牙を剥く。

「まあまあ……揉め事は後にして……さあ、さあ。殿方達はお部屋を出て行ってください」

私の言葉にアレックス王子は目を見開く。

「は!? お、お前……彼女に何をする気だっ!?」

「何を言ってるんですか? こちらの女性の為に着替えを取ってあげようと思ってるだけですけど?」

「な……何……? き、着替え……そ、そうか……着替えね……」

納得したのかアレックス王子は首を捻りながらも強引にサミュエル王子に部屋から連れ出されて行く。……下着姿のまま。

サミュエル王子……ナイスですっ!

パタンとドアが閉じられ、私とジョディ夫人が部屋に2人きりになった。そこで私は夫人に声をかける。

「あの~少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「な……何よ……」

ジョディ夫人はブランケットから顔をニョキッと出して来た。

「貴女は大変顔が広そうなので、お願いしたい事があるのですが」

「な、何よ……。何で私が貴女のお願いを聞かないといけないの?」

この女性……私が誰か知らないのだろうか?

「あの、私はアレックス王子の妻のレベッカですけど?」

「う、嘘っ! あ、貴女が……? だ、だって昨夜紹介された女性と違うじゃないっ!」

「ええ、そうですよね。でも先程の会話聞いていましたよね? 私が風邪を引いた事。風邪を引いた女性がパーティーに参加出来ますか?」

「そ、そんな……」

ジョディ夫人はガタガタ震え出した。

「この事を黙って貰いたいなら、私の言う事を聞いて頂けますか? 大丈夫。これは決して脅迫ではありませんから。お願いです。お・ね・が・い」

私はブランケットにくるまって青ざめているジョディ夫人に笑みを浮かべる。

勿論彼女の返事はイエスだった――
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