政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

5-11 私と大地からの贈り物

「あの~アマゾナさん」

「何だい? お嬢ちゃん」

「宿屋へ先に戻っていて貰えますか? 少しこの方の様子を見てから、お話ししたい事があるので」

「まぁ別に構わないが、私だったらこんな男捨てておくけどねぇ。お嬢ちゃんは優しい女性なんだね」

アマゾナは目を細め、私の頭を撫でると宿屋へと帰っていく。

「ふう……」

気を失って倒れているアレックス王子と2人きりになり、私は改めてアレックス王子を見下ろした。

「う……それにしても強烈な臭いね……」

確かにアレックス王子には散々な目に遭わされてきたけれども、流石にこれはやり過ぎだったのかもしれない。受けたショックが相当強すぎた為に気を失ったのだろうけど、こんなに臭い匂いを発しているのに未だに本人は目を覚まさないのだから。

「仮にも王子様なんだしね……元に戻してあげようかな」

アレックス王子の傍にしゃがみ、自分の右手をアレックス王子のおでこ部分にかざし、全神経を集注させた。

「……時よ……元の状態に戻れ……」

すると、アレックス王子にべったりついていた蜂蜜や汚れがまるで時が逆行するかのように消えていった。

「ふ~……」

アレックス王子を元の状態に戻すと、地面にしりもちをついた。

「やっぱり実際に時を戻す力を使うと疲れるわねぇ……」

体内時計を操るのは簡単なんだけどな……。

「私もまだまだ修行が足りないって事かしら……?」

改めてアレックス王子の様子を窺う。身体にべったりついていた蜂蜜や馬の唾液がすっかり消え、強烈な臭いもしない。

「よし、念の為後1時間は眠っていて下さいね」

手をかざしながら眠っているアレックス王子に睡眠暗示をかけると立ち上がった。

「うん。この場所なら1時間位アレックス王子を放置していても問題なさそうね」

辺りの気配を探っても、特に危険な動物などの気配は感じない。念の為周辺に結界を張ると眠っているアレックス王子に話しかけた。

「私が戻る迄、絶対に目を覚まさないで下さいね」

潜在意識に暗示をかけたので、多分アレックス王子は私がここに戻ってくるまでは目を覚ますことは無いだろう。そして私はアマゾナのいる宿屋へと向かった――

****

「何? この辺りに洞窟は無いかって?」

アマゾナがカシューナッツを食べながら私を見た。

「はい、あるならそこに行ってみたいんですけど」

私もカシューナッツに手を伸ばし、口に入れる。

「確かにあることはあるが……さびれた裏山にあるとても小さい洞窟だし、何も無いけど?」

「そんな事は無いですよ。意外と洞窟って宝の宝庫なんですよ? 私が嫁ぐ前に暮らしていた国では良く鉱石が取れたんです」

「な、何だって!? 鉱石が? あ~……でも、ここは無理無理。随分昔に洞窟に鉱石が無いか探しに行ったことがあるんだけどさ……ほんとに何も無かったよ。あると言えば苔が生えているくらいさ」

そうか……昔洞窟に入ったことがあるのか。それで何も採掘出来なかったと……。でも私がいれば大丈夫。

「まあまあ。そんなこと言わずに。私はこう見えて鉱石を見つけるプロなんですよ? アマゾナさんたちには私の夫を懲らしめてくれたお礼がしたいんです」

「そうかい? 別にお礼なんていいのに。まぁいい。それじゃ案内するからついておいで。ここから5分ほどで着く場所にあるからさ」

こうして私はアマゾナに連れられて、洞窟へと向かった。


****

「おおっ! これが洞窟ですか!?」

宿屋を出て本当に5分きっちりで、私たちはさびれた裏山へ到着した。山のふもとには、ぽっかりと横穴が空いていた。

「ああ、どうだい? ちっさい洞窟だろう?」

アマゾナの言う通り、確かに洞窟の入り口は大人が1人通り抜け出来るほどの大きさしかないけれども……でも、これだけの広さがあれば十分だ。

「どれ……それじゃ中へ入ってみるかい?」

アマゾナは持っていた松明にマッチで火をつけ、右手で握りしめた。

「はい! 中へ入りましょう!」

洞窟に入る直前に、私は大地に祈った。

この洞窟に鉱石が出現しますように……。


そして、30分後――

私とアマゾナは持っていた布袋に地面に転がっていた沢山の鉱石を持てるだけ詰め込み、意気揚々と洞窟を後にしたのだった――
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