政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
5-14 アレックス王子の要求
ガラガラガラガラ……
走り続ける馬車の中。
アレックス王子はずっとブスッとした顔のまま手足を組んで目を閉じ、私の向かい側に座っている。相当機嫌が悪そうだったので私は話しかける事もせず、趣味のパッチワークをしていた。
ああ……やっぱり趣味に興じている時間って最高。気付けば私は無意識のうちに鼻歌を歌いながら手芸をしていた。
「……おい」
不意に声をかけられ、私は顔を上げた。
「はい、何ですか?」
「お前、俺が何故不機嫌なのか尋ねないのか?」
アレックス王子子は余程イライラしているのか、右手人差し指で窓枠をトントンとせわしなく叩きながら私を見た。
「えっと……確か、最悪な夢を見たせいで朝から非常に機嫌が悪いって話でしたよね?」
「ああ、そうだ。分かっているなら何故放っておく?」
「へ?」
パッチワークの手を止めて、アレックス王子を思わず見つめる。
「何だ? 聞こえなかったのか? ならもう一度言ってやろう。俺がこんなに機嫌を悪くしているのに、何故お前はご機嫌取りをしようとしない?」
「え……でも今朝私に言いましたよね? 『俺に構うな、話しかけるな』って」
すると……。
「お、お前……女のくせに、俺って言うなぁっ! ほんっとに相変わらずガサツな人間だ……高貴な俺とは大違いだ」
「はぁ……」
またしてもアレックス王子のいちゃもんが始まった。
「とにかく、今俺の機嫌を直せるのは目の前に座っているお前しかいない。とりあえず何でもいいから何か話せ」
相変わらず無茶ぶりを要求してくる王子だ。
「とりあえず話せって言われても……あ、それなら一体どんな夢を見たのですか?」
「お前っ! 俺の話を聞いていたのか!? 最悪な夢を見たせいで朝から非常に機嫌が悪いってさっき言っただろう? それなのに何故わざわざ夢を思い出させるような事を聞くのだっ!?」
「え~…だって、とりあえず何でもいいから何か話せっておっしゃったじゃないですか……
「う……うるさい! 一々俺の言葉尻を取るなっ! ……しようがない。どうしても俺の夢の話を聞きたいと言うのなら話してやろう」
「はい、お願いします」
別にどうしても聞きたいって言うわけではないのだけど、ここで反論すればまた面倒くさいことになるのは目に見えて分かっていた。
「実はな……思い出すだけでも恐ろしい夢を見たのだ。夢の中で俺は地面に紐で括りつけられていた」
「はあ……」
いえ、実際の出来事ですから。
「そして頭から突然ハチミツをぶちまけられたのだ」
「ハチミツ……ですか……」
「そして俺の周りを……ううう……ハエがブンブン飛び回り……何処からともなくてんとう虫が集まり始めて、俺の顔の上に……!」
「なるほど……」
「そ、そしてあげくの果てに馬が……馬があっ! お、俺の顔をあの長い舌で舐め回してきたのだっ! あの臭い匂い……あまりにリアル過ぎてとても夢とは思えなかったっ!」
アレックス王子は自分の両肩を抱きかかえ、ブルブル震えている。
いえ……夢ではなく、本当に現実なんですけどね……。でも夢だと思っていくれているのでそのままにしておこう。
「そうですか。随分刺激的な夢を見られたのですね。でも夢ですよね? そんな夢はもう忘れた方が良いですよ」
ニコニコしながら言うと、アレックス王子は私をビシッと指さした。
「お前だっ! お前が夢の内容を聞いてきたから思い出してしまったんだぞ!? 分かってるのか!?」
アレックス王子は顔を真っ赤に染めて興奮しまくっている。全く何てうるさい人なのだろう。こうなったら……。
「アレックス王子」
「何だ?」
「前髪に何かついていますね。ゴミでしょうか?取って差し上げますね」
私は立ち上がり、アレックス王子に近付き……そっとおでこに触れて、口の中で小さく呟いた。
「寝て下さい」
ドサッ!
アレックス王子は一瞬で睡眠状態に陥り、馬車の椅子の上に倒れ込んだ。
「ふぅ……これでやっと静かになる」
アレックス王子の背中についているマントの留め金を外した。
「できれば4~5時間眠っていて下さいね」
私はキルト代わりにマントをアレックス王子に掛けてあげた――
走り続ける馬車の中。
アレックス王子はずっとブスッとした顔のまま手足を組んで目を閉じ、私の向かい側に座っている。相当機嫌が悪そうだったので私は話しかける事もせず、趣味のパッチワークをしていた。
ああ……やっぱり趣味に興じている時間って最高。気付けば私は無意識のうちに鼻歌を歌いながら手芸をしていた。
「……おい」
不意に声をかけられ、私は顔を上げた。
「はい、何ですか?」
「お前、俺が何故不機嫌なのか尋ねないのか?」
アレックス王子子は余程イライラしているのか、右手人差し指で窓枠をトントンとせわしなく叩きながら私を見た。
「えっと……確か、最悪な夢を見たせいで朝から非常に機嫌が悪いって話でしたよね?」
「ああ、そうだ。分かっているなら何故放っておく?」
「へ?」
パッチワークの手を止めて、アレックス王子を思わず見つめる。
「何だ? 聞こえなかったのか? ならもう一度言ってやろう。俺がこんなに機嫌を悪くしているのに、何故お前はご機嫌取りをしようとしない?」
「え……でも今朝私に言いましたよね? 『俺に構うな、話しかけるな』って」
すると……。
「お、お前……女のくせに、俺って言うなぁっ! ほんっとに相変わらずガサツな人間だ……高貴な俺とは大違いだ」
「はぁ……」
またしてもアレックス王子のいちゃもんが始まった。
「とにかく、今俺の機嫌を直せるのは目の前に座っているお前しかいない。とりあえず何でもいいから何か話せ」
相変わらず無茶ぶりを要求してくる王子だ。
「とりあえず話せって言われても……あ、それなら一体どんな夢を見たのですか?」
「お前っ! 俺の話を聞いていたのか!? 最悪な夢を見たせいで朝から非常に機嫌が悪いってさっき言っただろう? それなのに何故わざわざ夢を思い出させるような事を聞くのだっ!?」
「え~…だって、とりあえず何でもいいから何か話せっておっしゃったじゃないですか……
「う……うるさい! 一々俺の言葉尻を取るなっ! ……しようがない。どうしても俺の夢の話を聞きたいと言うのなら話してやろう」
「はい、お願いします」
別にどうしても聞きたいって言うわけではないのだけど、ここで反論すればまた面倒くさいことになるのは目に見えて分かっていた。
「実はな……思い出すだけでも恐ろしい夢を見たのだ。夢の中で俺は地面に紐で括りつけられていた」
「はあ……」
いえ、実際の出来事ですから。
「そして頭から突然ハチミツをぶちまけられたのだ」
「ハチミツ……ですか……」
「そして俺の周りを……ううう……ハエがブンブン飛び回り……何処からともなくてんとう虫が集まり始めて、俺の顔の上に……!」
「なるほど……」
「そ、そしてあげくの果てに馬が……馬があっ! お、俺の顔をあの長い舌で舐め回してきたのだっ! あの臭い匂い……あまりにリアル過ぎてとても夢とは思えなかったっ!」
アレックス王子は自分の両肩を抱きかかえ、ブルブル震えている。
いえ……夢ではなく、本当に現実なんですけどね……。でも夢だと思っていくれているのでそのままにしておこう。
「そうですか。随分刺激的な夢を見られたのですね。でも夢ですよね? そんな夢はもう忘れた方が良いですよ」
ニコニコしながら言うと、アレックス王子は私をビシッと指さした。
「お前だっ! お前が夢の内容を聞いてきたから思い出してしまったんだぞ!? 分かってるのか!?」
アレックス王子は顔を真っ赤に染めて興奮しまくっている。全く何てうるさい人なのだろう。こうなったら……。
「アレックス王子」
「何だ?」
「前髪に何かついていますね。ゴミでしょうか?取って差し上げますね」
私は立ち上がり、アレックス王子に近付き……そっとおでこに触れて、口の中で小さく呟いた。
「寝て下さい」
ドサッ!
アレックス王子は一瞬で睡眠状態に陥り、馬車の椅子の上に倒れ込んだ。
「ふぅ……これでやっと静かになる」
アレックス王子の背中についているマントの留め金を外した。
「できれば4~5時間眠っていて下さいね」
私はキルト代わりにマントをアレックス王子に掛けてあげた――