政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
1-9 国王陛下は外遊中
「ところで爺やさん。レベッカ様のお荷物が届いておりませんけど、どうなっているのでしょう?」
ようやく落ち着いたミラージュが私の向かい側のソファに座りながら爺やさんに尋ねた。
「あ…!」
途端に青ざめる爺やさん。
「あの……も、もしや……?」
私が恐る恐る尋ねると爺やさんは再び床に座り込んだ。
「も、申し訳ございませんっ! わ、忘れておりましたっ!!」
「はあぁあああっ!?」
ミラージュは膝を組み、背もたれに両腕を掛けると土下座している爺やさんを思い切り睨みつけた。
「ふざけないで下さい! あのトランクケースの中身の荷物は全てレベッカ様のですよっ! まぁ……2つは私のですけど。とにかく、あんなところに放置しておいて誰かに盗まれたりしたらどうするんですかっ!? 早く取ってきて下さいっ!」
いやはや、もはやどちらが主人か分からない立場になってしまった。今のミラージュの姿は悪女さながらに見える。
「はいっ! す、すぐにこちらに持ってこさせるように致しますっ!」
そして急いで部屋から出て行こうとする爺やさんをミラージュは突然呼び止めた。
「お待ちなさいっ!」
「は、はい、何でしょう……?」
すっかり怯え切った爺やさんはミラージュを見る目に恐怖を宿しているひょっとすると野生の勘? 的なものでミラージュの正体を見抜いてしまったのだろうか? 内心冷や冷やしながら私は事の成り行きを黙って見守ることにした。
「この城では長旅で疲れ切っているレベッカ様にお茶の一つも出せないのですか?」
「い、いえ……す、すぐにお茶をお持ち致しますね。紅茶でよろしいでしょうか?」
爺やさんはカタカタ震えながらミラージュに尋ねた。
「レベッカ様、紅茶で宜しいですか?」
突如、ミラージュが私に尋ねてきた。
「ええ。私は何でも構わないわ」
遠慮がちに答えると、ミラージュは爺やさんを顎でしゃくった。
「聞きましたか? 爺やさん。レベッカ様は紅茶でも良いそうですよ?」
「はい! ありがたき幸せですっ!」
そして爺やさんは脱兎のごとく部屋を飛び出して行った――
2人きりになるとミラージュに話しかけた。
「ねえミラージュ。あまり興奮すると本性が現れてしまうわよ?」
「え!? ほ、本当ですか?!」
ミラージュは慌てて頭に両手を添える。
「ううん、まだ大丈夫。本性は表に出ていないから。でも気を付けてね? ただでさえ私たちはこの国の城の人たちに歓迎されていないみたいだから。万一ミラージュの正体がばれてしまったら、本当にこの国を追い出されてしまうわ」
「いいじゃないですか。別に追い出されてしまったって。こんな国、私はひとかけらの未練もありませんよ?」
「だけど、ミラージュ。恐らくオーランド王国で『ガラクタ姫』と呼ばれた生活をしていた時よりは、この国の方がまともな生活を送れると思わない? それに追い出された私を父は再び受け入れてくれると思う?」
「う~ん……それは難しいですね……」
ミラージュは腕を組んで顔をしかめている。
「ね、だからこの先も理不尽だらけの事があるかもしれないけど、我慢しましょうよ。何とかアレックス王子に認めてもらうように私、頑張るから」
「分かりました。レベッカ様は私の大切な主ですから従います」
そのとき。
――コンコン
ノックの音が聞こえた。
「どなたですか?」
ドアに向かって声を掛けると返事が返ってきた。
「私です……爺やでございます。お2人のお荷物と、紅茶をお持ち致しました」
「どうぞ、入って来てください」
声を掛けるとドアが開かれ。お茶のセットを銀のトレーに乗せた爺やさんを先頭に、トランクケースを両手にもった5名のメイドさんたちが次々と部屋に現れた
そして全員荷物を運んでくると無言で再び部屋を去ってゆく。
結局爺やさんだけがその場に残された。
「そ、それでは……こ、紅茶をい、淹れさせて頂きます……ね……」
爺やさんはカップにティーポットをカチカチぶつけながら紅茶に注いでゆく。その手付きの危なっかしいことといったらない。
「お、お待たせ…致しました…」
爺やさんは震える手付きで紅茶を注ぎ終えると、私たちの前に差し出した。
「フン。味はまあまあですわね」
ミラージュは紅茶を一口飲んだ。
「ええ、そうね。ところで爺やさん」
「はい!?」
ビクリと肩を震わせて私を振り返る爺やさん。え? もしかして私も恐れられているの? なら出来るだけ笑顔で尋ねなければ。
「国王陛下にはいつ会わせて頂けるのかしら?」
「そ、それが……」
爺やさんは顔面蒼白になりながら答えた。
「じ、実は国王陛下は1週間ほど前から外遊に出掛けております。帰国予定はまだ……未定です……」
「何ですって!?」
ミラージュはガバリと立ち上がった――
ようやく落ち着いたミラージュが私の向かい側のソファに座りながら爺やさんに尋ねた。
「あ…!」
途端に青ざめる爺やさん。
「あの……も、もしや……?」
私が恐る恐る尋ねると爺やさんは再び床に座り込んだ。
「も、申し訳ございませんっ! わ、忘れておりましたっ!!」
「はあぁあああっ!?」
ミラージュは膝を組み、背もたれに両腕を掛けると土下座している爺やさんを思い切り睨みつけた。
「ふざけないで下さい! あのトランクケースの中身の荷物は全てレベッカ様のですよっ! まぁ……2つは私のですけど。とにかく、あんなところに放置しておいて誰かに盗まれたりしたらどうするんですかっ!? 早く取ってきて下さいっ!」
いやはや、もはやどちらが主人か分からない立場になってしまった。今のミラージュの姿は悪女さながらに見える。
「はいっ! す、すぐにこちらに持ってこさせるように致しますっ!」
そして急いで部屋から出て行こうとする爺やさんをミラージュは突然呼び止めた。
「お待ちなさいっ!」
「は、はい、何でしょう……?」
すっかり怯え切った爺やさんはミラージュを見る目に恐怖を宿しているひょっとすると野生の勘? 的なものでミラージュの正体を見抜いてしまったのだろうか? 内心冷や冷やしながら私は事の成り行きを黙って見守ることにした。
「この城では長旅で疲れ切っているレベッカ様にお茶の一つも出せないのですか?」
「い、いえ……す、すぐにお茶をお持ち致しますね。紅茶でよろしいでしょうか?」
爺やさんはカタカタ震えながらミラージュに尋ねた。
「レベッカ様、紅茶で宜しいですか?」
突如、ミラージュが私に尋ねてきた。
「ええ。私は何でも構わないわ」
遠慮がちに答えると、ミラージュは爺やさんを顎でしゃくった。
「聞きましたか? 爺やさん。レベッカ様は紅茶でも良いそうですよ?」
「はい! ありがたき幸せですっ!」
そして爺やさんは脱兎のごとく部屋を飛び出して行った――
2人きりになるとミラージュに話しかけた。
「ねえミラージュ。あまり興奮すると本性が現れてしまうわよ?」
「え!? ほ、本当ですか?!」
ミラージュは慌てて頭に両手を添える。
「ううん、まだ大丈夫。本性は表に出ていないから。でも気を付けてね? ただでさえ私たちはこの国の城の人たちに歓迎されていないみたいだから。万一ミラージュの正体がばれてしまったら、本当にこの国を追い出されてしまうわ」
「いいじゃないですか。別に追い出されてしまったって。こんな国、私はひとかけらの未練もありませんよ?」
「だけど、ミラージュ。恐らくオーランド王国で『ガラクタ姫』と呼ばれた生活をしていた時よりは、この国の方がまともな生活を送れると思わない? それに追い出された私を父は再び受け入れてくれると思う?」
「う~ん……それは難しいですね……」
ミラージュは腕を組んで顔をしかめている。
「ね、だからこの先も理不尽だらけの事があるかもしれないけど、我慢しましょうよ。何とかアレックス王子に認めてもらうように私、頑張るから」
「分かりました。レベッカ様は私の大切な主ですから従います」
そのとき。
――コンコン
ノックの音が聞こえた。
「どなたですか?」
ドアに向かって声を掛けると返事が返ってきた。
「私です……爺やでございます。お2人のお荷物と、紅茶をお持ち致しました」
「どうぞ、入って来てください」
声を掛けるとドアが開かれ。お茶のセットを銀のトレーに乗せた爺やさんを先頭に、トランクケースを両手にもった5名のメイドさんたちが次々と部屋に現れた
そして全員荷物を運んでくると無言で再び部屋を去ってゆく。
結局爺やさんだけがその場に残された。
「そ、それでは……こ、紅茶をい、淹れさせて頂きます……ね……」
爺やさんはカップにティーポットをカチカチぶつけながら紅茶に注いでゆく。その手付きの危なっかしいことといったらない。
「お、お待たせ…致しました…」
爺やさんは震える手付きで紅茶を注ぎ終えると、私たちの前に差し出した。
「フン。味はまあまあですわね」
ミラージュは紅茶を一口飲んだ。
「ええ、そうね。ところで爺やさん」
「はい!?」
ビクリと肩を震わせて私を振り返る爺やさん。え? もしかして私も恐れられているの? なら出来るだけ笑顔で尋ねなければ。
「国王陛下にはいつ会わせて頂けるのかしら?」
「そ、それが……」
爺やさんは顔面蒼白になりながら答えた。
「じ、実は国王陛下は1週間ほど前から外遊に出掛けております。帰国予定はまだ……未定です……」
「何ですって!?」
ミラージュはガバリと立ち上がった――