政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
6-10 引き離された2人
「え……? ミラージュが研修で1カ月不在になる?」
午前8時――
何食わぬ顔で私の部屋にカートを押して朝食を運んできたリーゼロッテから衝撃的な話を聞いた。
「ええ、ミラージュは確かにレベッカの侍女だけど、専属メイドは私なのよ? 私がいればミラージュは必要無いわよね? あ、必要ないと言う言い方は少し語弊があったかしら? ただミラージュはあまりにも侍女としては常識が無いと言うか、侍女として知っておかなければならない様々な一般常識を全く持っていないでしょう? そこで私の方からアレックス様にお願いして侍女長に話を通して貰ったわけなの。グランダ王国には研修施設が有って、そこでミラージュには1か月間一般常識を身に着けてからお城に戻って来て貰うように提案したのよ?」
ぺらぺらと事の経緯を何食わぬ顔で私に報告するリーゼロッテの言葉は耳を疑う内容だった。
「だ、だけどミラージュは私の侍女であって、勝手に貴女が話を決めるなんて……。あ、待って。ミラージュはそれで納得したの!?」
「納得も何も……貴女の名前を出したら素直に言う事を聞いたそうよ?」
「え……? そ、そんな……。それじゃもう研修施設に行ってしまったの!?」
ミラージュがいないなんて……いつだって、どんな時だって私の傍にいたのに。1カ月もミラージュと離れ離れに……。思わずがっくりするとリーゼロッテが耳元で囁いた。
「そんなに気落ちする事は無いわよ。貴女がアレックス様に全く相手にされないあまり、自分の侍女に依存する気持ちは同じ女として分らなくも無いもの。でも安心して? 私が貴女のミラージュ代わりになってあげるから」
リーゼロッテはまるで暗示をかけるように私の耳元で語り続けるけど……ミラージュの代わりになれる人なんて誰もいないのに。いや、それ以前にミラージュが暴走した時、彼女を止められるのは私しかいないのに……。そっちの心配事の方が今の私の頭の半分以上を占めていた。かくなる上は……。
「そう……分ったわ」
私は頷いた。
「良かった、分ってくれたのね?」
リーゼロッテは嬉しそうに笑う。
「ええ、とりあえず朝ご飯を食べるわ」
「そう。なら、どうぞ」
リーゼロッテはワゴンの上の料理を手で指示した。
「え? どうぞって……?」
「それじゃ、料理も届けたし私はもう行くわね。食べ終わったらワゴンは部屋の外に出しておいてくれればいいから」
そう言って出て行こうとする。
「え? あの、ちょっと何所へ行くの?」
「私も朝食を食べて来るから。それじゃあね」
そしてリーゼロッテは手をヒラヒラ振ると部屋を出て行ってしまった。
「やれやれ……仕方ないわね……」
でも、オーランド王国にいた時はいつもミラージュと2人で食事の準備も後片付けもやっていたから問題ないけど。
「やっぱり1人で食べる食事は味気ないな……」
****
「あ~美味しかった」
結局テーブルの上に料理を並べるのが面倒になった私はワゴンの上から直接料理を食べて完食してしまった。
「本当にワゴンを通路に出しておくだけでいいのかな?」
キョロキョロ辺りを見渡し、誰も廊下に人がいないことを確認してから私はワゴンを押し出し、いつものようにランス王子の温室へと向かった。
シャアアアア……
ミラージュのいない温室で1人でバナナやマンゴーの木にじょうろで水やりをしていたら不意に声をかけられた。
「やぁ、レベッカ」
振り向くとそこにはニコニコと笑みを浮かべたランス王子が立っていた。
「あ、ランス王子。こんにちは」
挨拶すると、すぐにランス王子が異変に気付いた。
「あれ? いつも一緒にいるミラージュは何処にいったの?」
「ええ、ミラージュなら、アレックス様の計らいで侍女教育を受ける為に研修施設に行きました」
するとランス王子の顔が曇る。
「え……? 研修施設……? そんな施設は初めて聞くなぁ」
え? 何今の話。
「え!? あ、あの……今の話って……」
すると突然ランス王子が何かに気付いたのか、一瞬固まり、次の瞬間人差し指を唇に当てて静かにするようにジェスチャーを送ると私の腕を掴んで素早く温室から連れ出した――
午前8時――
何食わぬ顔で私の部屋にカートを押して朝食を運んできたリーゼロッテから衝撃的な話を聞いた。
「ええ、ミラージュは確かにレベッカの侍女だけど、専属メイドは私なのよ? 私がいればミラージュは必要無いわよね? あ、必要ないと言う言い方は少し語弊があったかしら? ただミラージュはあまりにも侍女としては常識が無いと言うか、侍女として知っておかなければならない様々な一般常識を全く持っていないでしょう? そこで私の方からアレックス様にお願いして侍女長に話を通して貰ったわけなの。グランダ王国には研修施設が有って、そこでミラージュには1か月間一般常識を身に着けてからお城に戻って来て貰うように提案したのよ?」
ぺらぺらと事の経緯を何食わぬ顔で私に報告するリーゼロッテの言葉は耳を疑う内容だった。
「だ、だけどミラージュは私の侍女であって、勝手に貴女が話を決めるなんて……。あ、待って。ミラージュはそれで納得したの!?」
「納得も何も……貴女の名前を出したら素直に言う事を聞いたそうよ?」
「え……? そ、そんな……。それじゃもう研修施設に行ってしまったの!?」
ミラージュがいないなんて……いつだって、どんな時だって私の傍にいたのに。1カ月もミラージュと離れ離れに……。思わずがっくりするとリーゼロッテが耳元で囁いた。
「そんなに気落ちする事は無いわよ。貴女がアレックス様に全く相手にされないあまり、自分の侍女に依存する気持ちは同じ女として分らなくも無いもの。でも安心して? 私が貴女のミラージュ代わりになってあげるから」
リーゼロッテはまるで暗示をかけるように私の耳元で語り続けるけど……ミラージュの代わりになれる人なんて誰もいないのに。いや、それ以前にミラージュが暴走した時、彼女を止められるのは私しかいないのに……。そっちの心配事の方が今の私の頭の半分以上を占めていた。かくなる上は……。
「そう……分ったわ」
私は頷いた。
「良かった、分ってくれたのね?」
リーゼロッテは嬉しそうに笑う。
「ええ、とりあえず朝ご飯を食べるわ」
「そう。なら、どうぞ」
リーゼロッテはワゴンの上の料理を手で指示した。
「え? どうぞって……?」
「それじゃ、料理も届けたし私はもう行くわね。食べ終わったらワゴンは部屋の外に出しておいてくれればいいから」
そう言って出て行こうとする。
「え? あの、ちょっと何所へ行くの?」
「私も朝食を食べて来るから。それじゃあね」
そしてリーゼロッテは手をヒラヒラ振ると部屋を出て行ってしまった。
「やれやれ……仕方ないわね……」
でも、オーランド王国にいた時はいつもミラージュと2人で食事の準備も後片付けもやっていたから問題ないけど。
「やっぱり1人で食べる食事は味気ないな……」
****
「あ~美味しかった」
結局テーブルの上に料理を並べるのが面倒になった私はワゴンの上から直接料理を食べて完食してしまった。
「本当にワゴンを通路に出しておくだけでいいのかな?」
キョロキョロ辺りを見渡し、誰も廊下に人がいないことを確認してから私はワゴンを押し出し、いつものようにランス王子の温室へと向かった。
シャアアアア……
ミラージュのいない温室で1人でバナナやマンゴーの木にじょうろで水やりをしていたら不意に声をかけられた。
「やぁ、レベッカ」
振り向くとそこにはニコニコと笑みを浮かべたランス王子が立っていた。
「あ、ランス王子。こんにちは」
挨拶すると、すぐにランス王子が異変に気付いた。
「あれ? いつも一緒にいるミラージュは何処にいったの?」
「ええ、ミラージュなら、アレックス様の計らいで侍女教育を受ける為に研修施設に行きました」
するとランス王子の顔が曇る。
「え……? 研修施設……? そんな施設は初めて聞くなぁ」
え? 何今の話。
「え!? あ、あの……今の話って……」
すると突然ランス王子が何かに気付いたのか、一瞬固まり、次の瞬間人差し指を唇に当てて静かにするようにジェスチャーを送ると私の腕を掴んで素早く温室から連れ出した――