H高校
⑦ ロザーナ
校庭の奥に聳えるイチョウの木の葉が色を変えた
暑過ぎた夏を越えて強烈な日差しの残陽を移し残したような黄色だった
その下の日陰でリャリャとシャヤは打合せを済ました
東京へ行く
2人は旅立ちの日を10月6日の日曜日に定めた
昼前に名古屋駅から出立して東海道線を乗り継いで黄昏時に東京駅に着いた
時間よりも金に価値を求めて、新幹線は料金を調べるだけに留めた
日曜日を旅立ちとして、当然それから学校には行っていない
二週間が経っていた
主導したのはシャヤだ
シャヤは只過ぎゆく平和と鬱屈した日々に消沈していた
お利口に生きてきた義務教育期間を終えて、高校に入学してから学びや種々の関係性に疎ましさを覚えた
最たるきっかけは、高校の最初のテストで学年トップの成績を取ったことだった
馬鹿馬花しい
その右手の指に持たせたペンはタバコに持ち替えたし、ジュースの類にはアルコールを混合した
ママが煙草を隠れて喫んでいるのは知っていたし、秘密の置き場所も夫を警戒するあまり女用品の奥に潜めたから、私が発見するのは容易だった
父のウイスキーをバレない程度の少量を拝借する
始めて飲った時、ストレートでいってしまい苦い想いをした
その後は少量のスコッチを加える飲り方を発見した
割るというよりジュースに垂らすという趣きだった
慣れた頃には、少し残った状態でも両親の前に現れたり一言二言会話してみたりした
生命を実感するために私には必要な行動だった
生命感を更に輝かせるためにこの国の中心に行く
リャリャを引き連れて
・・・・
僕はシャヤに煌めきを見たんだ
勉強を頑張ってきた、
彼女は僕を新しい世界に導くんだ
例えばそれが間違った世界だったとしても。僕には彼女と入り込む闇は光を手にするための入口としか思えないんだ
僕のように脱線を避けてきた男を撰んでくれた可憐な貴女の夜に僕は、少し後ろを付いていくから
・・・・
シャヤが夏休みにイベント系のバイトで稼いだ数万円と2人の小遣いを掻き集めて14,5万の金を持つ
シャヤの一存で渋谷に向かって数日漫画喫茶で夜を明かし、一日だけホテルを利用した
リャリャが渋谷を移動する意志を示したのを尊重して、今は江東区や江戸川区を移りながら過ごしていた
このあたりでシャヤは稼ぎを実行した
・・・・
シャヤはママにメッセージを送信した
リャリャは母に電話をかけた
・・・・
リャリャは電話口を天に向けて、秋の夜空に上がった浦安の花火を聞かせた
母子家庭で只息子だけを見てきた
ロザーナは固定電話口に微笑んで
「ありがとう」と息子に伝えた
その一言は電話口の火薬の爆けた音よりも、
息子の冒険や女性を守るための同行の趣旨へ向けられた
母は事前に息子の非行を本人から直接打ち明けられた、
止めやしなかった
ロザーナは
しっかりその子を守りなさいと
息子を、はじめてのわるさ、に送り出した
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