身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
7-10 エルウィンの命令
同時刻――
ダイニングルームで朝食を取っていたエルウィンの元へシュミットがやってきた。
「エルウィン様、お呼びだそうですが……」
「遅いぞっ!!」
シュッ!
エルウィンは手元にあったリンゴをシュミットめがけて投げつけた。
パシッ!
素早く右手で受け止めるとシュミットはため息をついた。
「やれやれ……朝から随分とご機嫌斜めですね。毎日吹雪が続いて外に出ることも出来ないのでストレスでもたまっておられるのですか?」
「違うっ! 鍛錬なら地下訓練所で出来るからそれは無い! 人を子供扱いするな! それよりもだ! 昨夜、何があったと思うっ!?」
エルウィンはシュミットに物凄い剣幕でまくしたてる。
「エルウィン様……ちゃんと話は聞こえていますので、もう少し声を落として話して頂けませんか? 廊下にまで響き渡り、他の者たちに聞かれてしまいますよ?」
「フン! 聞こえたって構うものか。いいか? 昨夜部屋に戻ったらな……ベッドの中に裸同然の女が潜り込んでいたんだぞっ!? 尤もすぐに追い払ってやったけどな!」
そしてエルウィンは手元のグラスの水を一気に飲み干した。
「ええっ!? な、何ですってっ!?」
これには流石のシュミットも驚いた。
「しかもな……女は誰だったと思う!? ミカエルとウリエルの侍女のゾーイとか言う女だったんだ!」
「それは……また驚きの話ですね……」
何と命知らずな真似をしたのだろうとシュミットが思ったのは言うまでも無い。
「くそっ……あの女……! 俺のベッドに大嫌いな香水の匂いをつけるとは……! お陰でこちらはソファの上で一晩明かしたんだぞっ!?」
エルウィンはイライラしながら、厚切りのハムを切り分けて口に入れた。
「それは災難でしたね……」
シュミットは苦笑した。
(女性に関しては潔癖なエルウィン様にその様な真似をするとは……よく無事だったものだ)
「ああ、そうだ。それだけじゃない……。どうやらあのワイン、やはり何か仕込まれていたようだ。暫く身体が熱くて眠れなかった。全く……今朝は寝不足で仕方ない」
言いながらエルウィンはチラリとシュミットを見た。
「エルウィン様……その様に言われましても、仕事は待ってはくれません。きちんと本日分は仕上げていただきますからね」
「チッ……融通が利かない奴め……だがな、俺は決めたぞ。ゾーイ、あの女はもう侍女はクビだ! あんな娼婦の真似事をするような女をミカエルとウリエルの側においておけるかっ!」
「しかし、それでは次の侍女は……」
「侍女なんか必要か?」
エルウィンは腕組みしながらシュミットを見た。
「俺には侍女では無く、メイドのセリアがついたぞ? ん? セリア……そうか、セリアに頼むか」
「エルウィン様、お忘れですか? セリア様はウリエル様の実の母親ですよ?」
「うむ……そうだな。それでは流石にまずいか……まぁいい。侍女のことは別に急ぐことは無いだろう。それよりもまずは一刻も早くゾーイというふざけた侍女をクビにしろっ! 分かったかっ!?」
「はい……かしこまりました……。では早速伝えてまいります」
「ああ、そうだ。30分以内にクビにしてこい!」
「は、はいっ!」
エルウィンの声を背中に受けながらシュミットは慌ててダイニングルームを飛び出した。
「ふぅ……全くエルウィン様にも困ったものだ……ん?」
人の気配を感じたシュミットは辺りをキョロキョロ見渡したが、周囲には人の気配はない。少し離れた廊下の先で、フットマンやメイドたちが働いている姿が見えるだけであった。
「気の所為か……? 今、視線を感じた気がしたのだが……?」
シュミットは首を傾げながら、ミカエルとウリエルの部屋を目指した――
ダイニングルームで朝食を取っていたエルウィンの元へシュミットがやってきた。
「エルウィン様、お呼びだそうですが……」
「遅いぞっ!!」
シュッ!
エルウィンは手元にあったリンゴをシュミットめがけて投げつけた。
パシッ!
素早く右手で受け止めるとシュミットはため息をついた。
「やれやれ……朝から随分とご機嫌斜めですね。毎日吹雪が続いて外に出ることも出来ないのでストレスでもたまっておられるのですか?」
「違うっ! 鍛錬なら地下訓練所で出来るからそれは無い! 人を子供扱いするな! それよりもだ! 昨夜、何があったと思うっ!?」
エルウィンはシュミットに物凄い剣幕でまくしたてる。
「エルウィン様……ちゃんと話は聞こえていますので、もう少し声を落として話して頂けませんか? 廊下にまで響き渡り、他の者たちに聞かれてしまいますよ?」
「フン! 聞こえたって構うものか。いいか? 昨夜部屋に戻ったらな……ベッドの中に裸同然の女が潜り込んでいたんだぞっ!? 尤もすぐに追い払ってやったけどな!」
そしてエルウィンは手元のグラスの水を一気に飲み干した。
「ええっ!? な、何ですってっ!?」
これには流石のシュミットも驚いた。
「しかもな……女は誰だったと思う!? ミカエルとウリエルの侍女のゾーイとか言う女だったんだ!」
「それは……また驚きの話ですね……」
何と命知らずな真似をしたのだろうとシュミットが思ったのは言うまでも無い。
「くそっ……あの女……! 俺のベッドに大嫌いな香水の匂いをつけるとは……! お陰でこちらはソファの上で一晩明かしたんだぞっ!?」
エルウィンはイライラしながら、厚切りのハムを切り分けて口に入れた。
「それは災難でしたね……」
シュミットは苦笑した。
(女性に関しては潔癖なエルウィン様にその様な真似をするとは……よく無事だったものだ)
「ああ、そうだ。それだけじゃない……。どうやらあのワイン、やはり何か仕込まれていたようだ。暫く身体が熱くて眠れなかった。全く……今朝は寝不足で仕方ない」
言いながらエルウィンはチラリとシュミットを見た。
「エルウィン様……その様に言われましても、仕事は待ってはくれません。きちんと本日分は仕上げていただきますからね」
「チッ……融通が利かない奴め……だがな、俺は決めたぞ。ゾーイ、あの女はもう侍女はクビだ! あんな娼婦の真似事をするような女をミカエルとウリエルの側においておけるかっ!」
「しかし、それでは次の侍女は……」
「侍女なんか必要か?」
エルウィンは腕組みしながらシュミットを見た。
「俺には侍女では無く、メイドのセリアがついたぞ? ん? セリア……そうか、セリアに頼むか」
「エルウィン様、お忘れですか? セリア様はウリエル様の実の母親ですよ?」
「うむ……そうだな。それでは流石にまずいか……まぁいい。侍女のことは別に急ぐことは無いだろう。それよりもまずは一刻も早くゾーイというふざけた侍女をクビにしろっ! 分かったかっ!?」
「はい……かしこまりました……。では早速伝えてまいります」
「ああ、そうだ。30分以内にクビにしてこい!」
「は、はいっ!」
エルウィンの声を背中に受けながらシュミットは慌ててダイニングルームを飛び出した。
「ふぅ……全くエルウィン様にも困ったものだ……ん?」
人の気配を感じたシュミットは辺りをキョロキョロ見渡したが、周囲には人の気配はない。少し離れた廊下の先で、フットマンやメイドたちが働いている姿が見えるだけであった。
「気の所為か……? 今、視線を感じた気がしたのだが……?」
シュミットは首を傾げながら、ミカエルとウリエルの部屋を目指した――