身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
9-5 苛立つオズワルド
その日の夜――
オズワルドはイライラした様子でロイがやってくるのを待っていた。
オレンジ色のオイルランプが揺れる部屋で書斎机に向かい、指先でトントンと机を叩きながら真正面の扉をじっと見つめる。
「遅いな……ロイの奴……。21時までには私の元へ来るように伝言を伝えておいたの二・・・…」
時刻は既に21時半を過ぎていた。
「全く……ふざけおって……」
ガタンッ!
乱暴に立ち上がるとキャビネットに向かい、ガラス扉を開くとグラスにワイン瓶を取り出し机に戻る。
栓を抜き、ワインをグラスに注ぎ入れると口にした。
「……美味いな……やはり上質なワインは違う……」
このワインはオズワルド自らが、ワイン工房を訪ねて手に入れた一級品のワインだった。
上質なワインを手に入れる為の年間予算も自分で勝手に組んでいる。
実はエルウィンも知らないことだが、この東塔の実権はバルドでもドミニコでもない。実質権力を握っているのはオズワルドだったのだ。
「ワインを飲んでいれば、心の苛立ちも押さえられるな……。それにしてもロイは一体何を考えているのだ……?」
3杯目のワインを口に入れた時――
――コンコン
扉をノックする音が部屋に響き渡った。
「ロイか?」
扉に向って声を投げかけた。
『はい』
「入れ」
すると無表情なロイが部屋の中に入ってきた。
「お呼びですか?」
「ああ、呼んだ。お前に大事な話があったからな」
そしてオズワルドは手にしていたワインを飲み干すとロイを睨みつけた。
「一体、お前は今迄何をしていた? 何故何も報告をしない?」
「……ずっと片時も離れず、ミカエルとウリエルの部屋にいました。報告は特にすることが無かったからです」
「ミカエルとウリエルの警護では無いだろう? お前はただアリアドネの側に張り付いていただけではないか?」
「……アリアドネの監視も俺の仕事だったはずですよね?」
「違う! 私が命じたのはアリアドネとエルウィンの監視だ。以前お前に話しただろう? あの女はエルウィンのお気に入りなのだと。あの女がミカエルとウリエルの専属メイドになれば、エルウィンはあの部屋に出入りするだろう。アリアドネの前であればエルウィンは油断して普段とは違う顔を見せるはず……そこで奴の弱点を見つける為にお前を護衛騎士に任命したのだ」
苛立つオズワルドを前に、ロイは全く表情を変える事無く話を聞いている。
「それなのに何だ? お前がずっとアリアドネの側に張り付いているせいでエルウィンは殆ど部屋を訪れることが無いそうじゃないか?一体どういうことだ? これでは何の意味もないではないか!」
「……俺は命令に従っただけです。アリアドネの監視も任務の1つですから」
「言い訳をするな! お前とアリアドネが南塔ですっかり噂になっているという話は既に聞いた。これではエルウィンがアリアドネに近づけないのは当然だ! ただでさえ、奴は女に関しては異常な程潔癖だからな」
「……」
ロイは再び口を閉ざしてしまった。
「明日はお前に別の任務を与える。最近騎士団の士気が落ちている。お前が団員全員に稽古をつけろ。明日はミカエルたちの護衛は無しだ」
「何故俺がやらねばならないのです? オズワルド様が自ら稽古をつけるべきではないですか?」
ロイが言い換えしたことで、オズワルドの苛立ちが募る。
「うるさいっ! 口答えをするなっ! 忘れたのか? 死にかけていたお前を誰が助けたと思っている? まだ幼い子供だったお前をここまで世話を焼き身分を与えた! 剣術を身につけさせ、銃の扱いを教えたのは誰だ!」
「……全てオズワルド様です」
「そうだ。いいか? 今のお前があるのは全て私のおかげだと言うことを決して忘れるなっ!」
「はい」
「訓練は明朝9時から。場所は地下鍛錬場だ。決して遅れるな。以上だ」
「……分かりました。失礼致します」
ロイは一礼すると、背を向けてオズワルドの部屋を去って行った。
――バタン
扉が閉じられ、1人きりになるとオズワルドは眉をしかめた。
「ロイの奴め……。まさかそこまであの女のことを……。やはり、私が動かねば駄目か……?」
そして再びワインを口にすると、低い声で呟いた――
オズワルドはイライラした様子でロイがやってくるのを待っていた。
オレンジ色のオイルランプが揺れる部屋で書斎机に向かい、指先でトントンと机を叩きながら真正面の扉をじっと見つめる。
「遅いな……ロイの奴……。21時までには私の元へ来るように伝言を伝えておいたの二・・・…」
時刻は既に21時半を過ぎていた。
「全く……ふざけおって……」
ガタンッ!
乱暴に立ち上がるとキャビネットに向かい、ガラス扉を開くとグラスにワイン瓶を取り出し机に戻る。
栓を抜き、ワインをグラスに注ぎ入れると口にした。
「……美味いな……やはり上質なワインは違う……」
このワインはオズワルド自らが、ワイン工房を訪ねて手に入れた一級品のワインだった。
上質なワインを手に入れる為の年間予算も自分で勝手に組んでいる。
実はエルウィンも知らないことだが、この東塔の実権はバルドでもドミニコでもない。実質権力を握っているのはオズワルドだったのだ。
「ワインを飲んでいれば、心の苛立ちも押さえられるな……。それにしてもロイは一体何を考えているのだ……?」
3杯目のワインを口に入れた時――
――コンコン
扉をノックする音が部屋に響き渡った。
「ロイか?」
扉に向って声を投げかけた。
『はい』
「入れ」
すると無表情なロイが部屋の中に入ってきた。
「お呼びですか?」
「ああ、呼んだ。お前に大事な話があったからな」
そしてオズワルドは手にしていたワインを飲み干すとロイを睨みつけた。
「一体、お前は今迄何をしていた? 何故何も報告をしない?」
「……ずっと片時も離れず、ミカエルとウリエルの部屋にいました。報告は特にすることが無かったからです」
「ミカエルとウリエルの警護では無いだろう? お前はただアリアドネの側に張り付いていただけではないか?」
「……アリアドネの監視も俺の仕事だったはずですよね?」
「違う! 私が命じたのはアリアドネとエルウィンの監視だ。以前お前に話しただろう? あの女はエルウィンのお気に入りなのだと。あの女がミカエルとウリエルの専属メイドになれば、エルウィンはあの部屋に出入りするだろう。アリアドネの前であればエルウィンは油断して普段とは違う顔を見せるはず……そこで奴の弱点を見つける為にお前を護衛騎士に任命したのだ」
苛立つオズワルドを前に、ロイは全く表情を変える事無く話を聞いている。
「それなのに何だ? お前がずっとアリアドネの側に張り付いているせいでエルウィンは殆ど部屋を訪れることが無いそうじゃないか?一体どういうことだ? これでは何の意味もないではないか!」
「……俺は命令に従っただけです。アリアドネの監視も任務の1つですから」
「言い訳をするな! お前とアリアドネが南塔ですっかり噂になっているという話は既に聞いた。これではエルウィンがアリアドネに近づけないのは当然だ! ただでさえ、奴は女に関しては異常な程潔癖だからな」
「……」
ロイは再び口を閉ざしてしまった。
「明日はお前に別の任務を与える。最近騎士団の士気が落ちている。お前が団員全員に稽古をつけろ。明日はミカエルたちの護衛は無しだ」
「何故俺がやらねばならないのです? オズワルド様が自ら稽古をつけるべきではないですか?」
ロイが言い換えしたことで、オズワルドの苛立ちが募る。
「うるさいっ! 口答えをするなっ! 忘れたのか? 死にかけていたお前を誰が助けたと思っている? まだ幼い子供だったお前をここまで世話を焼き身分を与えた! 剣術を身につけさせ、銃の扱いを教えたのは誰だ!」
「……全てオズワルド様です」
「そうだ。いいか? 今のお前があるのは全て私のおかげだと言うことを決して忘れるなっ!」
「はい」
「訓練は明朝9時から。場所は地下鍛錬場だ。決して遅れるな。以上だ」
「……分かりました。失礼致します」
ロイは一礼すると、背を向けてオズワルドの部屋を去って行った。
――バタン
扉が閉じられ、1人きりになるとオズワルドは眉をしかめた。
「ロイの奴め……。まさかそこまであの女のことを……。やはり、私が動かねば駄目か……?」
そして再びワインを口にすると、低い声で呟いた――