身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
9-17 部屋に訪れた2人
「ロイ、もう部屋に入ったから下ろしてくれる?」
アリアドネは未だに自分を抱きかかえたまま離さないロイに声をかけた。
「だが……」
「お願いよ」
アリアドネはロイが自分の正体を知らないと思っている。だからシュミットとの会話を聞かれたくは無かったのだ。
「……分かった。なら椅子に降ろしてからだ。何処にリアを降ろせばいい?」
「あ……そうだな。ではこの椅子に降ろしてもらいましょう」
シュミットはカウチソファを示した。
「……分かった」
ロイは言われた場所にアリアドネを運んでカウチソファに下ろした。
「ありがとう、ロイ。それで悪いのだけど、貴方は外で待っていてくれる?」
「え……?」
一瞬、その言葉にロイの顔色が変わった。
「あ、あのね……。実はシュミット様と2人だけで話したいことがあるの。だから……お願い」
アリアドネは申し訳無さげに頭を下げた。
「……分かった」
元々、口数が少ないロイだ。頷くと、そのまま扉へ向った。そしてアリアドネを振り向いた。
「扉の外で待ってる」
「……ええ、ありがとう」
ロイは黙って頷く扉を開けて出ていった。
バタン……
扉が閉ざされると、シュミットはすぐにアリアドネに尋ねた。
「アリアドネ様、一体その足の怪我はどうされたのですか?」
シュミットはアリアドネの左足に巻かれた包帯を見た。
「ええ。少し怪我を……」
「それだけではありません。手にも包帯が巻かれているではありませんか。メイド服だって濡れているし」
「あの、ワゴンでミカエル様とウリエル様のお茶とお菓子を乗せて運んでいたところ、転んでしまって……割れた食器の上で倒れてしまったんです……」
アリアドネは自分の口からは、正直に伝えることが出来なかった。
「そうでしたか……。それで怪我をされたのですね?」
「はい、そうです。あの、エルウィン様はいらっしゃらないのでしょうか?」
落ち着かない様子でアリアドネは視線を動かした。
「え?」
一瞬、その言葉にシュミットは軽いショックを受けた。
だがここはエルウィンの執務室。アリアドネがこの執務室を訪ねてきたという事はエルウィンに用があったからに他ならない。
「エルウィン様には本日の執務はお休みしております。おそらくミカエル様とウリエル様のお部屋に向ったはずなのですが……」
「あ……。だからあそこに……」
「え? どうかしましたか?」
「い、いえ。実は怪我した私を医務室に運んで下さったのがエルウィン様だったのです」
「そうだったのですか? でも今アリアドネ様を連れてきたのはロイでしたよ?」
「はい、医務室で怪我の治療をして頂いていた時にロイが現れたのです。私が怪我したことをオズワルド様から聞いたそうです」
「え……? オズワルド様から?」
シュミットはその話に眉をしかめた。
(何故オズワルド様はロイにわざわざアリアドネ様の居場所を?)
「そしてその話を聞いたエルウィン様は医務室を出ていかれました」
「もしや、それでエルウィン様の代わりにロイがアリアドネ様をこちらにつれて来られたのですね?」
「はい、エルウィン様にお話があったものですから」
「では私が代わりにお話を伺いましょう」
シュミットは身を乗り出した。
「この足ではミカエル様とウリエル様のお世話がままなりません。専属メイドになったばかりで、申し訳ありませんが私の足が治るまでの間、どなたか代わりのメイドを手配して頂けないかと思いまして」
「なるほど……確かに言われてみればそうですね。分かりました。エルウィン様が戻られましたら早急に相談致します。それにその足では歩くのに不自由でしょう? 医務室で松葉杖は借りなかったのですか?」
「ええ……それがロイが必要ないと言うのです。移動するときは自分が連れて行くと……」
アリアドネは困った顔で報告した。
勿論、シュミットがその話に呆れたのは言うまでも無かった――
アリアドネは未だに自分を抱きかかえたまま離さないロイに声をかけた。
「だが……」
「お願いよ」
アリアドネはロイが自分の正体を知らないと思っている。だからシュミットとの会話を聞かれたくは無かったのだ。
「……分かった。なら椅子に降ろしてからだ。何処にリアを降ろせばいい?」
「あ……そうだな。ではこの椅子に降ろしてもらいましょう」
シュミットはカウチソファを示した。
「……分かった」
ロイは言われた場所にアリアドネを運んでカウチソファに下ろした。
「ありがとう、ロイ。それで悪いのだけど、貴方は外で待っていてくれる?」
「え……?」
一瞬、その言葉にロイの顔色が変わった。
「あ、あのね……。実はシュミット様と2人だけで話したいことがあるの。だから……お願い」
アリアドネは申し訳無さげに頭を下げた。
「……分かった」
元々、口数が少ないロイだ。頷くと、そのまま扉へ向った。そしてアリアドネを振り向いた。
「扉の外で待ってる」
「……ええ、ありがとう」
ロイは黙って頷く扉を開けて出ていった。
バタン……
扉が閉ざされると、シュミットはすぐにアリアドネに尋ねた。
「アリアドネ様、一体その足の怪我はどうされたのですか?」
シュミットはアリアドネの左足に巻かれた包帯を見た。
「ええ。少し怪我を……」
「それだけではありません。手にも包帯が巻かれているではありませんか。メイド服だって濡れているし」
「あの、ワゴンでミカエル様とウリエル様のお茶とお菓子を乗せて運んでいたところ、転んでしまって……割れた食器の上で倒れてしまったんです……」
アリアドネは自分の口からは、正直に伝えることが出来なかった。
「そうでしたか……。それで怪我をされたのですね?」
「はい、そうです。あの、エルウィン様はいらっしゃらないのでしょうか?」
落ち着かない様子でアリアドネは視線を動かした。
「え?」
一瞬、その言葉にシュミットは軽いショックを受けた。
だがここはエルウィンの執務室。アリアドネがこの執務室を訪ねてきたという事はエルウィンに用があったからに他ならない。
「エルウィン様には本日の執務はお休みしております。おそらくミカエル様とウリエル様のお部屋に向ったはずなのですが……」
「あ……。だからあそこに……」
「え? どうかしましたか?」
「い、いえ。実は怪我した私を医務室に運んで下さったのがエルウィン様だったのです」
「そうだったのですか? でも今アリアドネ様を連れてきたのはロイでしたよ?」
「はい、医務室で怪我の治療をして頂いていた時にロイが現れたのです。私が怪我したことをオズワルド様から聞いたそうです」
「え……? オズワルド様から?」
シュミットはその話に眉をしかめた。
(何故オズワルド様はロイにわざわざアリアドネ様の居場所を?)
「そしてその話を聞いたエルウィン様は医務室を出ていかれました」
「もしや、それでエルウィン様の代わりにロイがアリアドネ様をこちらにつれて来られたのですね?」
「はい、エルウィン様にお話があったものですから」
「では私が代わりにお話を伺いましょう」
シュミットは身を乗り出した。
「この足ではミカエル様とウリエル様のお世話がままなりません。専属メイドになったばかりで、申し訳ありませんが私の足が治るまでの間、どなたか代わりのメイドを手配して頂けないかと思いまして」
「なるほど……確かに言われてみればそうですね。分かりました。エルウィン様が戻られましたら早急に相談致します。それにその足では歩くのに不自由でしょう? 医務室で松葉杖は借りなかったのですか?」
「ええ……それがロイが必要ないと言うのです。移動するときは自分が連れて行くと……」
アリアドネは困った顔で報告した。
勿論、シュミットがその話に呆れたのは言うまでも無かった――