身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
9-20 盗み聞き
その頃ダリウスは作業場で粉挽きの仕事をしていた。
「おや? 珍しいな? エルウィン様がこちらに姿を見せるとは」
「え?」
仲間の言葉にダリウスは顔を上げた。見ると、エルウィンが作業場の中を大股で歩く姿が目に飛び込んできた。
「本当だ。最近は滅多にここに足を運ぶことなど無かったのにな」
もう1人の仲間も興味深げにエルウィンを見ている。
「今迄姿を見せなかったのは当然だろう。アリアドネはもうここにはいないのだから」
不機嫌そうに呟くダリウスに仲間が声をかけてきた。
「どうしたんだ? ダリウス。今、何か言ったか?」
「いや何でもない。それにしても、何しに来たんだろうな? あの人は」
ブスッとした口調のダリウスに仲間たちは驚いた。
「おい、ダリウス。あの方はここの城主様だぞ? そんな言い方したらマズイだろう?」
「そうだぞ。越冬期間中、俺達に宿も食事も提供してくれているんだから感謝するべきなんじゃないか?」
仲間2人がエルウィンのことを良く言うのも気に触った。
「……そうか。2人には良い城主に見えるんだな」
ダリウスは石臼を回しながらエルウィンの動きを注視していると、1人の下働きの女の元へ向っていることに気がついた。
「ん? あの女性は……セリアさん?」
「ああ、お前が気にかけていた下働きの娘と割と親しい関係だった女性じゃないか?」
「そう言えば、あの娘はどうしたんだ? 最近全く姿を見せなくなったじゃないか?」
2人の仲間たちはダリウスに尋ねてきた。
彼等はアリアドネがメイドになったことをまだ知らないのだ。
「彼女ならメイドになって城にあがった」
ダリウスはアリアドネが城に上がったせいで、会うことがままならなくなり苛立ちを募らせていたのだ。
「ヘ〜驚きだな。下働きからメイドになるなんて」
「やっぱり若くて美人だったからメイドにされたんじゃないのか?」
そして次の言葉がダリウスの怒りに火を付けた。
「何しろ、アイゼンシュタット城のメイド達は騎士や兵士達相手に娼婦のような真似事をさせられているって言うし……」
ガタンッ!!
ダリウスは突然椅子から勢いよく立ち上がった。
「な、何だ? どうしたんだダリウス!」
「急に立ち上がるなよ。驚くじゃないかっ!」
仲間の抗議も耳に入らないのか、ダリウスはセリアと談笑しているエルウィンを憎悪の混じった目で睨みつけている。
「ダリウス。お前どうしたんよ」
「誰を睨みつけているんだ?」
「ちょっと…今から行ってくる」
「行くって何処へだよっ!」
「おい、ダリウスッ!」
しかし、ダリウスは返事もせずに足早にエルウィンの元へ向っていった――
****
「……え? 私にメイドの仕事を……ですか?」
「ああ、そうなんだ。やってもらえないか?」
エルウィンは臨時のメイドにセリアを抜擢するために、仕事場に来ていたのだ。
「エルウィン様のご命令とあれば私はそれに従うまでですが……でも、ご存知ですよね? ウリエル様と私の関係を」
セリアは俯いた。
「ああ。よく分かっている。だが、このことを知っているのは城の上層部の者だけだし、当然ミカエルもウリエルも知らない。勿論2人の関係については今後も秘密を守るし、ほんの数日だけの話だ。何しろリアが怪我をしてしまって……」
するとエルウィンの背後で声があがった。
「何ですってっ!? リアが怪我をっ!?」
「誰だっ!?」
エルウィンは素早く振り向くと、そこには息を切らせたダリウスの姿があった――
「おや? 珍しいな? エルウィン様がこちらに姿を見せるとは」
「え?」
仲間の言葉にダリウスは顔を上げた。見ると、エルウィンが作業場の中を大股で歩く姿が目に飛び込んできた。
「本当だ。最近は滅多にここに足を運ぶことなど無かったのにな」
もう1人の仲間も興味深げにエルウィンを見ている。
「今迄姿を見せなかったのは当然だろう。アリアドネはもうここにはいないのだから」
不機嫌そうに呟くダリウスに仲間が声をかけてきた。
「どうしたんだ? ダリウス。今、何か言ったか?」
「いや何でもない。それにしても、何しに来たんだろうな? あの人は」
ブスッとした口調のダリウスに仲間たちは驚いた。
「おい、ダリウス。あの方はここの城主様だぞ? そんな言い方したらマズイだろう?」
「そうだぞ。越冬期間中、俺達に宿も食事も提供してくれているんだから感謝するべきなんじゃないか?」
仲間2人がエルウィンのことを良く言うのも気に触った。
「……そうか。2人には良い城主に見えるんだな」
ダリウスは石臼を回しながらエルウィンの動きを注視していると、1人の下働きの女の元へ向っていることに気がついた。
「ん? あの女性は……セリアさん?」
「ああ、お前が気にかけていた下働きの娘と割と親しい関係だった女性じゃないか?」
「そう言えば、あの娘はどうしたんだ? 最近全く姿を見せなくなったじゃないか?」
2人の仲間たちはダリウスに尋ねてきた。
彼等はアリアドネがメイドになったことをまだ知らないのだ。
「彼女ならメイドになって城にあがった」
ダリウスはアリアドネが城に上がったせいで、会うことがままならなくなり苛立ちを募らせていたのだ。
「ヘ〜驚きだな。下働きからメイドになるなんて」
「やっぱり若くて美人だったからメイドにされたんじゃないのか?」
そして次の言葉がダリウスの怒りに火を付けた。
「何しろ、アイゼンシュタット城のメイド達は騎士や兵士達相手に娼婦のような真似事をさせられているって言うし……」
ガタンッ!!
ダリウスは突然椅子から勢いよく立ち上がった。
「な、何だ? どうしたんだダリウス!」
「急に立ち上がるなよ。驚くじゃないかっ!」
仲間の抗議も耳に入らないのか、ダリウスはセリアと談笑しているエルウィンを憎悪の混じった目で睨みつけている。
「ダリウス。お前どうしたんよ」
「誰を睨みつけているんだ?」
「ちょっと…今から行ってくる」
「行くって何処へだよっ!」
「おい、ダリウスッ!」
しかし、ダリウスは返事もせずに足早にエルウィンの元へ向っていった――
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「……え? 私にメイドの仕事を……ですか?」
「ああ、そうなんだ。やってもらえないか?」
エルウィンは臨時のメイドにセリアを抜擢するために、仕事場に来ていたのだ。
「エルウィン様のご命令とあれば私はそれに従うまでですが……でも、ご存知ですよね? ウリエル様と私の関係を」
セリアは俯いた。
「ああ。よく分かっている。だが、このことを知っているのは城の上層部の者だけだし、当然ミカエルもウリエルも知らない。勿論2人の関係については今後も秘密を守るし、ほんの数日だけの話だ。何しろリアが怪我をしてしまって……」
するとエルウィンの背後で声があがった。
「何ですってっ!? リアが怪我をっ!?」
「誰だっ!?」
エルウィンは素早く振り向くと、そこには息を切らせたダリウスの姿があった――