身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
9-27 執務室での最後の仕事
それからというもの――
毎日ロイは言葉通り、毎朝9時にアリアドネをエルウィンの執務室に連れてい、、17時きっかりにアリアドネを迎えに来るという生活が続いた。
始めの頃は呆れた様子で対応していたエルウィンとシュミットも3日目頃には慣れてきて、5日目には気にも止めなくなっていた。
一方のアリアドネはいつまでたっても今の状況に慣れることが出来ず、恐縮しながら執務室で雑務をこなしていた――
そして、あっという間に1週間が経過した――
****
午前9時――
コンコン
エルウィンの執務室の扉がノックされた。
「リアか?」
机に向って仕事をしていたエルウィンが顔を上げた。
「ええ、そうかもしれませんね」
シュミットが立ち上がり、扉を開けに向った。
カチャ……
扉を開けると、そこにはメイド服を来て立っているアリアドネの姿があった。
「おはようございます、シュミット様」
アリアドネは笑みを浮かべると頭を下げた。
「え、ええ。おはようございます。リアさん。ひょっとして、もう足が治ったのですか?」
「はい、お陰様ですっかり良くなりました。昨日、こちらでお仕事をさせていただいた後に医務室の先生が部屋まで往診に来てくださったのですが、もう大丈夫だそうです。今日から普通に歩けるようになりましたので1人でご挨拶に参りました」
「え……? 挨拶?」
すると背後から声がかけられた。
「何をしている。シュミット、リアを部屋に通してやれ」
「あ……は、はい。すみませんでした。どうぞお入り下さい」
シュミットは慌てて扉の前から避けた。
「失礼致します」
アリアドネは丁寧に頭を下げると部屋の中に入ってきた。
「リア、もう1人で歩けるようになったのか?」
手にしていたペンを机の上に置くとエルウィンは尋ねた。
「はい、そうです。お陰様で本日から通常勤務に戻れそうです。またミカエル様とウリエル様のお世話の仕事に戻ることが出来ます」
「そうか。だが、いきなり今日からまたと言うのは難しいかもしれないな。とりあえず今日は1日いつも通りにここで仕事をして、明日からメイドの仕事に戻ってくれ。セリアにも伝えて置かなければならないからな」
「はい、分かりました」
エルウィンに言われ、大人しくいつものよう席につくアリアドネの前にシュミットは書類を置いた。
「それではリアさん、いつものように書類の整理をお願いします」
「はい、分かりました」
そして3人はいつものように黙々と仕事を続けた。
アリアドネと一緒に仕事をしている間……3人の間には余計な私語は一切無かった。
紙をペンに走らせる音や、書類を束ねる音。そして時折暖炉の火がパチンとはぜる音が聞こえるのみで、穏やかな空間だった。
このささやかな時間を誰よりも好んでいたのはシュミットであった。
最初はエルウィンとアリアドネが同じ部屋で長時間一緒に仕事をしていれば、いつか身元がバレてしまうのではないかという懸念があった。
しかし、それも数日経過する内にそんな悩みはどこかへ消えてしまった。
何故ならエルウィンがアリアドネが執務室に来てからというもの、余計な話は一切せずに黙々と仕事をこなしていたからである。
(この時間も今日で終わるのか……)
寂しい気持ちを抱えながら、シュミットは自分の向かい側に座って仕事をしているアリアドネの姿をじっと見つめた。
その様子をエルインが伺っていることにも気づかずに……。
越冬期間は後1ヶ月程で終わりを迎えようとしていた。
そして越冬期間が終わりを告げると共に……アリアドネがこの城に来て以来、最大の事件が起こることになる。
しかし、この時のエルウィン達は大事件が起こることなど全く想像もしていなかった。
ある2人を除いては――
毎日ロイは言葉通り、毎朝9時にアリアドネをエルウィンの執務室に連れてい、、17時きっかりにアリアドネを迎えに来るという生活が続いた。
始めの頃は呆れた様子で対応していたエルウィンとシュミットも3日目頃には慣れてきて、5日目には気にも止めなくなっていた。
一方のアリアドネはいつまでたっても今の状況に慣れることが出来ず、恐縮しながら執務室で雑務をこなしていた――
そして、あっという間に1週間が経過した――
****
午前9時――
コンコン
エルウィンの執務室の扉がノックされた。
「リアか?」
机に向って仕事をしていたエルウィンが顔を上げた。
「ええ、そうかもしれませんね」
シュミットが立ち上がり、扉を開けに向った。
カチャ……
扉を開けると、そこにはメイド服を来て立っているアリアドネの姿があった。
「おはようございます、シュミット様」
アリアドネは笑みを浮かべると頭を下げた。
「え、ええ。おはようございます。リアさん。ひょっとして、もう足が治ったのですか?」
「はい、お陰様ですっかり良くなりました。昨日、こちらでお仕事をさせていただいた後に医務室の先生が部屋まで往診に来てくださったのですが、もう大丈夫だそうです。今日から普通に歩けるようになりましたので1人でご挨拶に参りました」
「え……? 挨拶?」
すると背後から声がかけられた。
「何をしている。シュミット、リアを部屋に通してやれ」
「あ……は、はい。すみませんでした。どうぞお入り下さい」
シュミットは慌てて扉の前から避けた。
「失礼致します」
アリアドネは丁寧に頭を下げると部屋の中に入ってきた。
「リア、もう1人で歩けるようになったのか?」
手にしていたペンを机の上に置くとエルウィンは尋ねた。
「はい、そうです。お陰様で本日から通常勤務に戻れそうです。またミカエル様とウリエル様のお世話の仕事に戻ることが出来ます」
「そうか。だが、いきなり今日からまたと言うのは難しいかもしれないな。とりあえず今日は1日いつも通りにここで仕事をして、明日からメイドの仕事に戻ってくれ。セリアにも伝えて置かなければならないからな」
「はい、分かりました」
エルウィンに言われ、大人しくいつものよう席につくアリアドネの前にシュミットは書類を置いた。
「それではリアさん、いつものように書類の整理をお願いします」
「はい、分かりました」
そして3人はいつものように黙々と仕事を続けた。
アリアドネと一緒に仕事をしている間……3人の間には余計な私語は一切無かった。
紙をペンに走らせる音や、書類を束ねる音。そして時折暖炉の火がパチンとはぜる音が聞こえるのみで、穏やかな空間だった。
このささやかな時間を誰よりも好んでいたのはシュミットであった。
最初はエルウィンとアリアドネが同じ部屋で長時間一緒に仕事をしていれば、いつか身元がバレてしまうのではないかという懸念があった。
しかし、それも数日経過する内にそんな悩みはどこかへ消えてしまった。
何故ならエルウィンがアリアドネが執務室に来てからというもの、余計な話は一切せずに黙々と仕事をこなしていたからである。
(この時間も今日で終わるのか……)
寂しい気持ちを抱えながら、シュミットは自分の向かい側に座って仕事をしているアリアドネの姿をじっと見つめた。
その様子をエルインが伺っていることにも気づかずに……。
越冬期間は後1ヶ月程で終わりを迎えようとしていた。
そして越冬期間が終わりを告げると共に……アリアドネがこの城に来て以来、最大の事件が起こることになる。
しかし、この時のエルウィン達は大事件が起こることなど全く想像もしていなかった。
ある2人を除いては――