身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
10-2 拉致されたアリアドネ
オズワルドがエルウィンの執務室を尋ねた同時刻――
アリアドネはミカエルとウリエルの新しいシーツを交換するためにリネン室へ1人で向っていた。
静まり返る長い廊下を歩いていると、向かい側からこちらへ近付いてくる人物が目に止まった。
その人物はマント姿だった。
(誰かしら……マントを羽織っているという事は騎士の方かしら……)
そこで、アリアドネは廊下の壁際に寄り、頭を下げて騎士が通り過ぎるのを待つことにした。
俯いているアリアドネに足音が近付いてくる。
「……」
アリアドネは足音が通り過ぎていくのを待っていたが、何故か足音は自分の前でピタリと止まった。
「……?」
顔を上げると、目の前に立っていたのはダリウスだった。
ダリウスはアリアドネに笑いかけた。
「アリアドネ。久しぶりだな。君が城へメイドとして上がってからは中々会う機会が無かったからな」
「ダリウス? その格好はどうしたの? ・・・…それに何故ここに? どうやって辿り着いたの?」
ダリウスはいつもの貧しい麻地の服装ではなかった。赤いマントの下から見える服はエルウィンやスティーブのような軍服姿だった。
「服? これが本来俺が着るべき服だからな。何故ここにやってきたかはオズワルドから城の内部地図を入手したからだ。俺とオズワルドは協力関係にあるからな」
「え……?ダリウス、一体さっきから何を言っているの?」
アリアドネはダリウスの言葉の意味が少しも理解出来なかった。
「本当は当初はこんな予定じゃ無かったんだ……この城の情報をつかめればそれで良かったんだけどな……」
「情報……?」
すると、ダリウスはさらにアリアドネとの距離を詰めてきた。
「アリアドネ……」
「な、何……?」
アリアドネは普段とは違うダリウスの様子に怯えながら返事をした。
「俺は今から国に帰る」
「そ、そうなのね? それでお別れを言いに来たのね……? 元気で……えっ!?」
突然ダリウスの腕が伸びてくると、アリアドネは手首を掴まれてしまった。
「随分冷たい言い方だな……。生憎別れを言いに来たわけじゃない。俺は君を連れ出しに来たんだ」
「え……? な、何を……? んっ!」
突如ダリウスはアリアドネの口元に布を押し付けた。
「んーっ!」
少しの間、アリアドネは暴れていたが……やがてガックリと力を無くしてダリウスの胸に倒れ込んだ。
「アリアドネ……俺は君が気に入った。あんな男の妻など、勿体ない。俺の国へ一緒に行こう。きっと君なら反対する者は誰もいないだろう」
ダリウスは意識のないアリアドネを抱きしめながら語りかける。
そこへ、物陰から頭までフードを被った人物が現れた。
「ダリウス様、出立の準備が整いました」
「ああ、こちらも大丈夫だ。目的の者は手に入れたからな」
ダリウスは腕の中にいる意識の無いアリアドネを愛おし気に見つめた。
「その方ですか? ダリウス様のお手紙に書かれていた人物は」
「そうだ、国に帰ったら早速父と母に会わせなければ。よし! 行くぞっ!」
ダリウスは自分のマントでアリアドネを包み込むと、マント姿の男と共にひと気のない廊下を足早に走り去って行った……。
しかし、オズワルドに足止めされているエルウィンはまだその事実を知らない――
アリアドネはミカエルとウリエルの新しいシーツを交換するためにリネン室へ1人で向っていた。
静まり返る長い廊下を歩いていると、向かい側からこちらへ近付いてくる人物が目に止まった。
その人物はマント姿だった。
(誰かしら……マントを羽織っているという事は騎士の方かしら……)
そこで、アリアドネは廊下の壁際に寄り、頭を下げて騎士が通り過ぎるのを待つことにした。
俯いているアリアドネに足音が近付いてくる。
「……」
アリアドネは足音が通り過ぎていくのを待っていたが、何故か足音は自分の前でピタリと止まった。
「……?」
顔を上げると、目の前に立っていたのはダリウスだった。
ダリウスはアリアドネに笑いかけた。
「アリアドネ。久しぶりだな。君が城へメイドとして上がってからは中々会う機会が無かったからな」
「ダリウス? その格好はどうしたの? ・・・…それに何故ここに? どうやって辿り着いたの?」
ダリウスはいつもの貧しい麻地の服装ではなかった。赤いマントの下から見える服はエルウィンやスティーブのような軍服姿だった。
「服? これが本来俺が着るべき服だからな。何故ここにやってきたかはオズワルドから城の内部地図を入手したからだ。俺とオズワルドは協力関係にあるからな」
「え……?ダリウス、一体さっきから何を言っているの?」
アリアドネはダリウスの言葉の意味が少しも理解出来なかった。
「本当は当初はこんな予定じゃ無かったんだ……この城の情報をつかめればそれで良かったんだけどな……」
「情報……?」
すると、ダリウスはさらにアリアドネとの距離を詰めてきた。
「アリアドネ……」
「な、何……?」
アリアドネは普段とは違うダリウスの様子に怯えながら返事をした。
「俺は今から国に帰る」
「そ、そうなのね? それでお別れを言いに来たのね……? 元気で……えっ!?」
突然ダリウスの腕が伸びてくると、アリアドネは手首を掴まれてしまった。
「随分冷たい言い方だな……。生憎別れを言いに来たわけじゃない。俺は君を連れ出しに来たんだ」
「え……? な、何を……? んっ!」
突如ダリウスはアリアドネの口元に布を押し付けた。
「んーっ!」
少しの間、アリアドネは暴れていたが……やがてガックリと力を無くしてダリウスの胸に倒れ込んだ。
「アリアドネ……俺は君が気に入った。あんな男の妻など、勿体ない。俺の国へ一緒に行こう。きっと君なら反対する者は誰もいないだろう」
ダリウスは意識のないアリアドネを抱きしめながら語りかける。
そこへ、物陰から頭までフードを被った人物が現れた。
「ダリウス様、出立の準備が整いました」
「ああ、こちらも大丈夫だ。目的の者は手に入れたからな」
ダリウスは腕の中にいる意識の無いアリアドネを愛おし気に見つめた。
「その方ですか? ダリウス様のお手紙に書かれていた人物は」
「そうだ、国に帰ったら早速父と母に会わせなければ。よし! 行くぞっ!」
ダリウスは自分のマントでアリアドネを包み込むと、マント姿の男と共にひと気のない廊下を足早に走り去って行った……。
しかし、オズワルドに足止めされているエルウィンはまだその事実を知らない――