身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
11-11 静かな戦い
一方そのその頃――
アイゼンシュタット城ではロイがたった1人きりで単独行動をしていた。
ロイは既に東塔の秘密の通路に入り込み、見張りの兵士たちを背後から一撃で次々と気絶させていった。
そして彼等から武器を奪い、さらに付近の部屋の中に隠しながら戦力を確実に奪っていたのだ。
今ロイの胸中にあるのは、もはやオズワルドへの報復だけであった。
オズワルドはロイにとって恩人であり、師匠でもあった。
姉を無惨に犯され、自殺に追い込まれた姉。
姉の死を目の当たりにし、絶望したロイを救ってくれたのはオズワルドだった。
子供時代に経験した壮絶な出来事でロイは心を閉ざし、誰にも心を許すことは無かった。ただ1人、オズワルドを除いては。
城内ではオズワルドを不気味がる者達ばかりだったが、ロイはそれでも構わないと思っていた。
彼だけが自分の唯一の理解者であり、崇拝すべき存在だったのだから周囲の評価などは全く関係はなかったのだ。
けれどアリアドネに出会ってからはロイにとっていちばん大切な存在はオズワルドからアリアドネへと変わった。
大好きだった姉の面影を色濃く宿したアリアドネをひと目見た瞬間から、ロイの心は奪われてしまった。
アリアドネがロイの世界で唯一無二の存在となった。
姉を守れなかった分、今度はアリアドネを自分の命に懸けても守ろうと決めていたのに、オズワルドはあっさりとダリウスにアリアドネを渡してしまった。
しかもダリウスはアリアドネを汚そうとしている。
その瞬間、ロイの脳裏に10年前のあの出来事が蘇った。
ミルバが獣達の手で無慈悲に犯される姿が――
ロイの中で、オズワルドに対する激しい憎しみが生まれた。
そして気付けばオズワルドに剣を向ける自分がいた――
****
ロイによって地下牢から逃げ出すことが出来た下働きの者達は外の見張りの兵士たちを背後からばれないように攻撃をしかけていた。
「おい? 今何か音がしなかったか?」
南塔の裏門を見張っていた2人のうちの1人が仲間に声をかけた。
「そうかぁ? 俺は何も気づかなか……ゴフッ!」
突如、何処からともなく握りこぶし大の石が飛んできて兵士のこめかみを直撃した。
物言わずその場に倒れこむ仲間を目の当たりにし、狼狽える兵士。
「だ、誰だっ!」
剣を構えた瞬間、背後から力自慢の男が兵士の首を絞めあげた。
「グッ……」
少しの間兵士は苦し気に足をバタバタさせていたが、やがて動かなくなった。
「ふぅ……」
男が腕を緩めると、そのまま雪の中に崩れ落ちる兵士。
するとガサガサと茂みが動き、中からマリアとイゾルネが出て来た。
「さすがは力自慢のボビーだね。あんたは下働きよりも兵士の方が向いているんじゃないのかい?」
マリアがにっこり笑いながら兵士を絞めあげた男に声をかけた。
「俺が兵士? 冗談じゃない。戦うのは好きじゃないんだ。だけどそういうマリアだって、下働きにしておくのは勿体ない。ものすごくコントロールがいい投石だ。きっとお前なら一流の弓兵になれるんじゃないのかい?」
ボビーと呼ばれた男はニヤリと笑った。
「冗談じゃないよ、私だって戦いは性に合わない。でもエルウィン様の為なら戦いに身を投じても構わないけどね」
2人の話を聞いていたイゾルネが口を挟んできた。
「ほら! 早くここを去らないと。まだ見張りは大勢残っているんだから。南塔の兵士や騎士様たちが拘束されてしまったのだから、私達だけでエルウィン様が来るまでに何とかしないとならないんだからね?」
「ああ、そうだったね。それじゃ武器を奪ったらずらかるよ! 2人とも!」
マリアの言葉にボビーとイゾルネは頷いた。
早速3人は2人の兵士から武器を奪うと、茂みに隠して次の目的地へと急いだ。
(エルウィン様、早く戻ってきて下さい!)
マリアは駆けながら、エルウィンの帰還を待ち望むのだった――
アイゼンシュタット城ではロイがたった1人きりで単独行動をしていた。
ロイは既に東塔の秘密の通路に入り込み、見張りの兵士たちを背後から一撃で次々と気絶させていった。
そして彼等から武器を奪い、さらに付近の部屋の中に隠しながら戦力を確実に奪っていたのだ。
今ロイの胸中にあるのは、もはやオズワルドへの報復だけであった。
オズワルドはロイにとって恩人であり、師匠でもあった。
姉を無惨に犯され、自殺に追い込まれた姉。
姉の死を目の当たりにし、絶望したロイを救ってくれたのはオズワルドだった。
子供時代に経験した壮絶な出来事でロイは心を閉ざし、誰にも心を許すことは無かった。ただ1人、オズワルドを除いては。
城内ではオズワルドを不気味がる者達ばかりだったが、ロイはそれでも構わないと思っていた。
彼だけが自分の唯一の理解者であり、崇拝すべき存在だったのだから周囲の評価などは全く関係はなかったのだ。
けれどアリアドネに出会ってからはロイにとっていちばん大切な存在はオズワルドからアリアドネへと変わった。
大好きだった姉の面影を色濃く宿したアリアドネをひと目見た瞬間から、ロイの心は奪われてしまった。
アリアドネがロイの世界で唯一無二の存在となった。
姉を守れなかった分、今度はアリアドネを自分の命に懸けても守ろうと決めていたのに、オズワルドはあっさりとダリウスにアリアドネを渡してしまった。
しかもダリウスはアリアドネを汚そうとしている。
その瞬間、ロイの脳裏に10年前のあの出来事が蘇った。
ミルバが獣達の手で無慈悲に犯される姿が――
ロイの中で、オズワルドに対する激しい憎しみが生まれた。
そして気付けばオズワルドに剣を向ける自分がいた――
****
ロイによって地下牢から逃げ出すことが出来た下働きの者達は外の見張りの兵士たちを背後からばれないように攻撃をしかけていた。
「おい? 今何か音がしなかったか?」
南塔の裏門を見張っていた2人のうちの1人が仲間に声をかけた。
「そうかぁ? 俺は何も気づかなか……ゴフッ!」
突如、何処からともなく握りこぶし大の石が飛んできて兵士のこめかみを直撃した。
物言わずその場に倒れこむ仲間を目の当たりにし、狼狽える兵士。
「だ、誰だっ!」
剣を構えた瞬間、背後から力自慢の男が兵士の首を絞めあげた。
「グッ……」
少しの間兵士は苦し気に足をバタバタさせていたが、やがて動かなくなった。
「ふぅ……」
男が腕を緩めると、そのまま雪の中に崩れ落ちる兵士。
するとガサガサと茂みが動き、中からマリアとイゾルネが出て来た。
「さすがは力自慢のボビーだね。あんたは下働きよりも兵士の方が向いているんじゃないのかい?」
マリアがにっこり笑いながら兵士を絞めあげた男に声をかけた。
「俺が兵士? 冗談じゃない。戦うのは好きじゃないんだ。だけどそういうマリアだって、下働きにしておくのは勿体ない。ものすごくコントロールがいい投石だ。きっとお前なら一流の弓兵になれるんじゃないのかい?」
ボビーと呼ばれた男はニヤリと笑った。
「冗談じゃないよ、私だって戦いは性に合わない。でもエルウィン様の為なら戦いに身を投じても構わないけどね」
2人の話を聞いていたイゾルネが口を挟んできた。
「ほら! 早くここを去らないと。まだ見張りは大勢残っているんだから。南塔の兵士や騎士様たちが拘束されてしまったのだから、私達だけでエルウィン様が来るまでに何とかしないとならないんだからね?」
「ああ、そうだったね。それじゃ武器を奪ったらずらかるよ! 2人とも!」
マリアの言葉にボビーとイゾルネは頷いた。
早速3人は2人の兵士から武器を奪うと、茂みに隠して次の目的地へと急いだ。
(エルウィン様、早く戻ってきて下さい!)
マリアは駆けながら、エルウィンの帰還を待ち望むのだった――