身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

11-16 ロイとオズワルド 2

「ロイ、一体どういうつもりだ? どうやって地下牢から抜け出した? いや……それよりもお前がミカエルとウリエルを逃したのか?」

オズワルドは銃口をピタリとロイに向けたまま語りかる。

「そうだ、俺が逃した。あの2人は弱い存在だからな」

その言葉にオズワルドが顔をしかめた。

「何? どういう意味だ?」

するとロイが怒りの感情を顕にした。

「ふざけるな! お前が10年前俺に教えたのだろう!? 弱い者を守れる力を身につけたいとは思わないのか……と。その言葉を信じて今まで俺はお前についてきたんだ!」

「成程……それでミカエルとウリエルを逃したのか? 全くどこまでも愚かな奴だ。確かにあの時、お前にそう告げたかもしれないな……。だが、それは時と場合による」

「何だと?」

ロイが美しい眉を潜める。

「自分の目的を達成する為なら手段は選ばないということだ。例え、それが弱い者を犠牲にしてもだ。そんなことも分からないとは……やはりお前はまだまだだな」

オズワルドは不敵な笑みを浮かべた。

「それなら……アリアドネをわざとダリウスに攫わせたのもそうだというのか?」

ロイの殺気が強くなった。

「ああ、そうだ。ダリウスはアリアドネを喉から手が出るほどに欲しがっていたからな。それにエルウィンもあの女には特別な思いを寄せていた。だから利用させてもらったのだ。アリアドネが攫われれば、絶対に奴は自ら助けに動くと思った。そのすきに城を乗っ取らせて貰っただけだ」

「……ミカエルとウリエルを人質に取ってか?」

「エルウィンは2人を可愛がっていたからなぁ……。側におけば余計情が湧くと思ったからだ。その為にわざわざエルウィンに託したのだからな。邪魔なランベールも始末したことだし。本当にあの小娘はよくやってくれた。本人は無自覚だろう、、男を狂わす魔性の女かもしれんなぁ……。お前の姉のように」

オズワルドが狂気に満ちた笑みを浮かべた。

「何っ!?」

その言葉はロイには到底我慢出来るものではなかった。

「俺の姉を侮辱するなっ! 貴様……殺してやるっ!!」

ロイは引き金に手を掛けると、オズワルドは言い放った。

「お前に俺を撃つことが出来るのか? 誰が7歳のひ弱な子供を助けた? お前を騎士として鍛え上げたのはどこの誰だと思っているのだっ!!」

「!」

オズワルドの言葉にロイが一瞬怯んだ。そのすきを見過ごすような男ではなかった。

「死ね……ロイ。俺に歯向かう者は不用だ」

「くっ!」

バーンッ!!

2人の銃口から同時に銃弾が発射された――


**

その頃――

下働きの者たちに匿われたミカエルとウリエルがセリアと薪を運んでいたときのことだった。

「あれ?」
「え?」

不意にミカエルとウリエルが足を止め、東塔の城を仰ぎ見た。

「どうかしたのですか? ミカエル様。ウリエル様」

2人が足を止めた為、セリアが声をかけた。

「今……何だか大きな音が聞こえた気がしたんだけど……」
「うん、何かが割れたような大きな音だった。2回聞こえたよ」

ミカエルとウリエルが交互に教えた。

「え……? 割れたような音……? 2回‥…?」

首を傾げるセリアに突然ミカエルが青ざめて身体を震わせた。

「何だかすごく嫌な予感がするよ……。あの音は銃声だったのかもしれない……まさか……っ!」

ミカエルは薪を放り投げると、東塔へ向かって駆け出そうとした。

「いけませんっ! ミカエル様っ! どちらへ行かれるおつもりですかっ!」

セリアが咄嗟にミカエルの腕を捕まえた。

「離してっ! 離してよっ! ロイが……ロイが心配なんだよっ!」

暴れるミカエルをセリアは押さえつけながら尋ねた。

「だめですっ! 東塔は危険ですっ! それに今騒がれては敵に気付かれてしまうかもしれませんっ! ウリエル様が危険に晒されても良いのですか!?」

「ウリエル……」

ミカエルは暴れるのをやめて、ウリエルを見た。

「お兄ちゃん…‥」

ウリエルは薪を持ったまま震えている。

(そうだ……僕のせいで、皆を……ウリエルを危険な目に遭わせちゃいけないんだ……)

「ごめんなさい……。セリア……」

ミカエルは項垂れて謝った。

「ミカエル様。ロイ様はお2人を自分の身に危険があるのを分かっていながら救ったのすよ? そのお気持ちを無駄にしてはなりません」

セリアはミカエルをじっと見つめて諭した。

「うん……分かったよ……ウリエル、怖がらせてごめん」

「お兄ちゃん……」

「分かったなら結構です。さ、お2人とも。薪を運びましょう?」

「はい」
「うん……」

セリアに声をかけられたミカエルとウリエルは素直に返事をし、アジトへと足を向けた。

(ロイ様……大丈夫なのかしら……)

2人を連れて歩きながら、セリアは不安な気持ちで東塔を見上げた――

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