身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
12-3 躊躇うエルウィン
エルウィンは南塔に新しく設けられたミカエルとウリエルの私室の扉の前で立っていた。
「……」
暫くエルウィンは扉をノックするのを躊躇っていたが、意を決してノックした。
—―コンコン
すぐに扉が開かれ、エルウィンの目の前にメイド服姿のアリアドネが現れた。
「ア、アリアドネ……」
まさかミカエルとウリエルの部屋ですぐにアリアドネが目の前に現れるとは思ってもいなかったエルウィンは不覚にも動揺してしまった。
このようなことは数多の戦を繰り広げて来たエルウィンにとっては滅多に無いことだった。
一方のアリアドネも驚いていた。
何しろ、ロイの葬儀の後は一度もエルウィンとは顔を合わすことも無かったからだ。
「エルウィン様。ミカエル様とウリエル様に会いにいらしたのですか?」
「あ、ああ。まぁ……それもあるが……」
どうしてもエルウィンの口からは、アリアドネに会いに来たとは中々言い出しにくいことであった。
「左様でございますか……ですが、ただいまミカエル様とウリエル様は乗馬の練習で城の外にいらっしゃいます。折角お越しいただいたのに申し訳ございません」
丁寧に頭を下げるアリアドネを見て、エルウィンは慌てた。
「いや、そうじゃない。実はお前に話が合って尋ねて来たのだ。悪いが時間を取れないか?」
「はい、もちろんです」
「そうか、それは良かった。ならこの部屋で早速話をすることにしよう」
頷くアリアドネにエルウィンは、ほっとした。
「はい、分かりました。ではどうぞお入り下さい」
「ああ、分かった」
アリアドネは扉から離れるとエルウィンは部屋の中へと入ると、部屋の中央に置かれたソファセットに腰を下ろした。
「アリアドネ、お前も座れ」
エルウィンは自分の向かい側のソファを指さした。
「は、はい……」
アリアドネは緊張する面持ちで向かい側の席に座った。
「元気にしていたようだな?」
「え? は、はい」
何から話せば良いか、見当がつかなかったエルウィンは当たりさわりの無い言葉を掛けた。
「そうか……それは良かった。ところでお前はまだ……メイドの仕事をしていたのだな?」
「はい、そうです。エルウィン様に命じられましたので」
アリアドネには悪気が無かった言葉ではあったが、その言葉はエルウィンの胸に突き刺さった。
「それに関しては……悪かったと思っている。本来ならお前はそのような立場に置かれるべきじゃないのに。ただ、俺はお前が自分の正体を隠したがっていることを知っていたし、肩身が狭くて働いていることに薄々気付いていたから……それでメイドの仕事を与えようとしたのだ……いや、今更何を言っても単に自分への言い訳にしか聞こえないよな」
「いえ、働くのは好きですからそのように仰らないで下さい。むしろ謝罪すべきは私の方です。あの日、エルウィン様に言われた通りに城を出ていればこのような事態にはならなかったわけですから」
エルウィンはその言葉に再び嫌な予感がした。
「何を言ってるんだ? もとは俺が行き場の無いお前を追い出そうとしたからじゃないか」
「いいえ、それでも私が城に残った為に、このようなことになってしまったのでです。私さえいなければ、きっとロイは死ぬことは無かったでしょう。ロイの死の責任は私にあるのです。なのでお願いがあります。エルウィン様」
「お願い?」
「はい。メイドの仕事を辞めさせて下さい。今度こそ、私はここを出て行きます」
そしてアリアドネはエルウィンに頭を下げた――
「……」
暫くエルウィンは扉をノックするのを躊躇っていたが、意を決してノックした。
—―コンコン
すぐに扉が開かれ、エルウィンの目の前にメイド服姿のアリアドネが現れた。
「ア、アリアドネ……」
まさかミカエルとウリエルの部屋ですぐにアリアドネが目の前に現れるとは思ってもいなかったエルウィンは不覚にも動揺してしまった。
このようなことは数多の戦を繰り広げて来たエルウィンにとっては滅多に無いことだった。
一方のアリアドネも驚いていた。
何しろ、ロイの葬儀の後は一度もエルウィンとは顔を合わすことも無かったからだ。
「エルウィン様。ミカエル様とウリエル様に会いにいらしたのですか?」
「あ、ああ。まぁ……それもあるが……」
どうしてもエルウィンの口からは、アリアドネに会いに来たとは中々言い出しにくいことであった。
「左様でございますか……ですが、ただいまミカエル様とウリエル様は乗馬の練習で城の外にいらっしゃいます。折角お越しいただいたのに申し訳ございません」
丁寧に頭を下げるアリアドネを見て、エルウィンは慌てた。
「いや、そうじゃない。実はお前に話が合って尋ねて来たのだ。悪いが時間を取れないか?」
「はい、もちろんです」
「そうか、それは良かった。ならこの部屋で早速話をすることにしよう」
頷くアリアドネにエルウィンは、ほっとした。
「はい、分かりました。ではどうぞお入り下さい」
「ああ、分かった」
アリアドネは扉から離れるとエルウィンは部屋の中へと入ると、部屋の中央に置かれたソファセットに腰を下ろした。
「アリアドネ、お前も座れ」
エルウィンは自分の向かい側のソファを指さした。
「は、はい……」
アリアドネは緊張する面持ちで向かい側の席に座った。
「元気にしていたようだな?」
「え? は、はい」
何から話せば良いか、見当がつかなかったエルウィンは当たりさわりの無い言葉を掛けた。
「そうか……それは良かった。ところでお前はまだ……メイドの仕事をしていたのだな?」
「はい、そうです。エルウィン様に命じられましたので」
アリアドネには悪気が無かった言葉ではあったが、その言葉はエルウィンの胸に突き刺さった。
「それに関しては……悪かったと思っている。本来ならお前はそのような立場に置かれるべきじゃないのに。ただ、俺はお前が自分の正体を隠したがっていることを知っていたし、肩身が狭くて働いていることに薄々気付いていたから……それでメイドの仕事を与えようとしたのだ……いや、今更何を言っても単に自分への言い訳にしか聞こえないよな」
「いえ、働くのは好きですからそのように仰らないで下さい。むしろ謝罪すべきは私の方です。あの日、エルウィン様に言われた通りに城を出ていればこのような事態にはならなかったわけですから」
エルウィンはその言葉に再び嫌な予感がした。
「何を言ってるんだ? もとは俺が行き場の無いお前を追い出そうとしたからじゃないか」
「いいえ、それでも私が城に残った為に、このようなことになってしまったのでです。私さえいなければ、きっとロイは死ぬことは無かったでしょう。ロイの死の責任は私にあるのです。なのでお願いがあります。エルウィン様」
「お願い?」
「はい。メイドの仕事を辞めさせて下さい。今度こそ、私はここを出て行きます」
そしてアリアドネはエルウィンに頭を下げた――