身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
2-1 謎多き使用人達
エルウィンの執務室を出たシュミットとスティーブ。
廊下を歩き始めると、早速スティーブが話し始めた。
「全く……。お前の話を聞いているとこっちが冷や冷やしてくる。それにしても大将はよくお前のでっち上げの話を信じたと思うよ」
「エルウィン様は粗暴なところがあるが、根は素直な方だからな」
「シュミット。その言い方、全く褒め言葉に聞こえないぞ? 俺にはお前が大将の事を暴れん坊の馬鹿正直と言っているようにしか聞こえてこないのだが?」
シュミットの背後から追いすがる様にスティーブが話しかけて来る。
「そうか。スティーブはエルウィン様の事を普段からそういう目で見ていたと言う事だな?」
立ち止まって振り返るとシュミット。
「あ、あのなぁ……! お、俺は別に……! い、いや、そんな事よりあの後一体どうしたんだよ? ステニウス令嬢と一緒にいた老人はどうなったんだ? まさかあのまま宿場町に返したわけじゃないよな?」
「当然だ、あのまま帰って貰っていれば、間違いなく宿場町に着く前に夜になり、狼たちに襲われてしまうだろう? だから今夜は泊まって頂く事にしたのだ」
「泊まって……って一体どこにだよ? そんな勝手な事をして万一大将に見つかったらあの2人は一体どうなるか分っているのか?」
スティーブは声を荒げてシュミットに訴える。
「おい、ここは廊下だ。そんなに大きな声を出せば他の者達に話を聞かれてしまうだろう?」
「た、確かに……それでステニウス伯爵令嬢はどちらにいらっしゃるんだ?」
声の大きさを落とすと、スティーブは再び尋ねてきた。
「ああ、貴賓客なのは分っていたのだが、やむを得ず下働きの使用人達の宿舎に泊まって頂いている。食事も提供するように伝えてあるしな」
「お、お前……本気なのか? 仮にも相手は伯爵令嬢なのだろう? あんな場所にお泊めするなんて……」
「分ってる。だが仕方無かったんだ。あの宿舎なら城からは少し離れた敷地に建てられているからエルウィン様に気付かれる事もないだろうし……もうすぐ厳しい冬がやってくるから有事に備える時期でも無いだろう?」
「それは確かにそうだが……」
シュミットは城の窓からアリアドネ達が滞在している使用人寮を眺めながらポツリと口にした。
「少しでも……快適に過ごされていれば良いのだが……」
「ああ、そうだな」
****
一方、その頃――
アリアドネは下働きの使用人達と一緒に食堂で食事をとっていた。
「ほら、沢山お食べ」
女性がアリアドネのテーブルの前に温かいスープに鶏肉と野菜の煮込み料理、チーズにオムレツ、そして焼きたてパンを置いてくれた。
「ありがとうございます。マリアさん。こんなに素晴らしい御馳走を頂けるなんて嬉しいです」
アリアドネは笑顔を浮かべた。
「何言ってるの。こんなの普段私達が食べている料理なんだから、そんなかしこまったお礼なんか必要ないからね?」
マリアと呼ばれた女性はここの寮長で、今年32歳の大柄な体系の女性だった。
「ところで貴女の名前は何て言うの?」
アリアドネの隣に座っている30代半ばと思われる女性が声をかけて来た。この女性もかなり筋肉質な女性である。細身の体系のアリアドネとは比較にならない体形の持ち主であった。
「はい、アリアドネと申します」
「へ~アリアドネね。可憐な雰囲気の貴女にぴったりの名前じゃない。あ、私の名前はイゾルネだよ」
イゾルネは食事をしながら快活に笑う。
「イゾルネさんですか。素敵なお名前ですね……。それにしても……」
アリアドネは他のテーブル席で賑やかに食事をしている他の女性達を見渡した。
(皆、どうしてこんなに立派な身体つきなのかしら? それにあまり若い女性がいないように見えるけど)
「うん? どうかしたのかい?」
マリアが尋ねてきた。
「い、いえ。何でもありません」
アリアドネは慌てて首を振った。……が、考えを見透かされてしまった。
「フフフ……私達の事を不思議に思ってみていたんだろ? どうして若い女性がいないかとか、みんな大柄な身体だとかさ」
マリアは肉料理を口に運びながら面白そうに見つめる。
「い、いえ。決してそんな事は……」
アリアドネは顔を真っ赤にさせてちぎったパンを口に運んだ。
「まぁ、そう思われても仕方ないよね。この城は普通の城とは違うからさ~」
今まで黙って向かい側の席に座っていた女性が会話に入ってきた。
「え? どういう事ですか?」
アリアドネは首を傾げるとその女性は言葉を続けた。
「何と言ってもこの城は……」
「え……?」
次の瞬間、アリアドネはその言葉に衝撃を受けるのだった――
廊下を歩き始めると、早速スティーブが話し始めた。
「全く……。お前の話を聞いているとこっちが冷や冷やしてくる。それにしても大将はよくお前のでっち上げの話を信じたと思うよ」
「エルウィン様は粗暴なところがあるが、根は素直な方だからな」
「シュミット。その言い方、全く褒め言葉に聞こえないぞ? 俺にはお前が大将の事を暴れん坊の馬鹿正直と言っているようにしか聞こえてこないのだが?」
シュミットの背後から追いすがる様にスティーブが話しかけて来る。
「そうか。スティーブはエルウィン様の事を普段からそういう目で見ていたと言う事だな?」
立ち止まって振り返るとシュミット。
「あ、あのなぁ……! お、俺は別に……! い、いや、そんな事よりあの後一体どうしたんだよ? ステニウス令嬢と一緒にいた老人はどうなったんだ? まさかあのまま宿場町に返したわけじゃないよな?」
「当然だ、あのまま帰って貰っていれば、間違いなく宿場町に着く前に夜になり、狼たちに襲われてしまうだろう? だから今夜は泊まって頂く事にしたのだ」
「泊まって……って一体どこにだよ? そんな勝手な事をして万一大将に見つかったらあの2人は一体どうなるか分っているのか?」
スティーブは声を荒げてシュミットに訴える。
「おい、ここは廊下だ。そんなに大きな声を出せば他の者達に話を聞かれてしまうだろう?」
「た、確かに……それでステニウス伯爵令嬢はどちらにいらっしゃるんだ?」
声の大きさを落とすと、スティーブは再び尋ねてきた。
「ああ、貴賓客なのは分っていたのだが、やむを得ず下働きの使用人達の宿舎に泊まって頂いている。食事も提供するように伝えてあるしな」
「お、お前……本気なのか? 仮にも相手は伯爵令嬢なのだろう? あんな場所にお泊めするなんて……」
「分ってる。だが仕方無かったんだ。あの宿舎なら城からは少し離れた敷地に建てられているからエルウィン様に気付かれる事もないだろうし……もうすぐ厳しい冬がやってくるから有事に備える時期でも無いだろう?」
「それは確かにそうだが……」
シュミットは城の窓からアリアドネ達が滞在している使用人寮を眺めながらポツリと口にした。
「少しでも……快適に過ごされていれば良いのだが……」
「ああ、そうだな」
****
一方、その頃――
アリアドネは下働きの使用人達と一緒に食堂で食事をとっていた。
「ほら、沢山お食べ」
女性がアリアドネのテーブルの前に温かいスープに鶏肉と野菜の煮込み料理、チーズにオムレツ、そして焼きたてパンを置いてくれた。
「ありがとうございます。マリアさん。こんなに素晴らしい御馳走を頂けるなんて嬉しいです」
アリアドネは笑顔を浮かべた。
「何言ってるの。こんなの普段私達が食べている料理なんだから、そんなかしこまったお礼なんか必要ないからね?」
マリアと呼ばれた女性はここの寮長で、今年32歳の大柄な体系の女性だった。
「ところで貴女の名前は何て言うの?」
アリアドネの隣に座っている30代半ばと思われる女性が声をかけて来た。この女性もかなり筋肉質な女性である。細身の体系のアリアドネとは比較にならない体形の持ち主であった。
「はい、アリアドネと申します」
「へ~アリアドネね。可憐な雰囲気の貴女にぴったりの名前じゃない。あ、私の名前はイゾルネだよ」
イゾルネは食事をしながら快活に笑う。
「イゾルネさんですか。素敵なお名前ですね……。それにしても……」
アリアドネは他のテーブル席で賑やかに食事をしている他の女性達を見渡した。
(皆、どうしてこんなに立派な身体つきなのかしら? それにあまり若い女性がいないように見えるけど)
「うん? どうかしたのかい?」
マリアが尋ねてきた。
「い、いえ。何でもありません」
アリアドネは慌てて首を振った。……が、考えを見透かされてしまった。
「フフフ……私達の事を不思議に思ってみていたんだろ? どうして若い女性がいないかとか、みんな大柄な身体だとかさ」
マリアは肉料理を口に運びながら面白そうに見つめる。
「い、いえ。決してそんな事は……」
アリアドネは顔を真っ赤にさせてちぎったパンを口に運んだ。
「まぁ、そう思われても仕方ないよね。この城は普通の城とは違うからさ~」
今まで黙って向かい側の席に座っていた女性が会話に入ってきた。
「え? どういう事ですか?」
アリアドネは首を傾げるとその女性は言葉を続けた。
「何と言ってもこの城は……」
「え……?」
次の瞬間、アリアドネはその言葉に衝撃を受けるのだった――